そして次なる道へのリスタート (1)
・・・
朝日が差し、鳥の声と共に辺りが明るくなり始めていく。
暖かな明かりに照らされる街を眺めているうちに、徐々にまどろみに飲まれそうになる。
夜更けの話を終えて宿に戻り、エステルは夜明けとともに部屋へと戻っていった。
そして、俺は何となく眠れなかったのでそのまま起きていたのだが。
ああ、しかし朝日が眩しいな……。本当に目に突き刺さるような強い光だ。
……太陽の光、か。
常に変わらず世界を照らす、どことなく聖剣に似た強い輝き。
そういえば聞いたことがある。かつて太陽は女神の恩寵であり、試練でもあると考えられていたと。
地上の生命を穏やかに育み、厳しく罰する大いなる力。
現在では太陽は女神の直接的な力そのものではなく、女神が作り出した想像もつかないほど巨大な光の玉だという説が主流になっているらしい。
だがそうだとしても、やはり途方もない力に他ならない。あまりに日常と化しているため意識することも少ないが、そこから降り注ぐ光に込められた力は非常に強い。
それは闇属性の存在にとっては耐えがたい脅威であり、その光に照らされるだけで滅ぶ魔物さえいるのだから。
例えば、吸血鬼などがそうだ。
弱点を突かねばほぼ不死身の存在。強靭な身体能力を持ちながら精神を侵す誘惑の魔眼を備えている、上級冒険者でも相対するのが危険な存在。
今の俺でも、聖剣が無ければ戦って生き残れるか分からないだろう。……というより剣の腕のみでは勝負が成立しないので逃げる他ない。
そんな上位の魔物であるというのに、最大の弱点は日光。あまりにも有り触れていて単純で致命的といえる。
這い寄る深淵。滲み出る混沌。いくつもの二つ名を持ち夜の王として君臨する強大な魔物も、光の女神の力の前では存在を許されない。
……しかしふと思ったが、そもそもこの世界を作ったのが女神だというならどうして相反する闇の魔物などが存在しているのだろうか。
魔族や魔王にしたってそうだ。人類は女神より聖剣を賜り魔族との戦いに打ち勝ったが、だったら最初から創造しなければよかっただけの話じゃないのか?
この辺りは教会とかでもっと頭のいい学者の人とかが、きっと散々議論してるんだろうが。
どうだろう、アリアとかは知ってるのだろうか。だが聖職者相手に神の万能性を疑うような議論を直接吹っ掛けるのも憚られる。
まぁ……、分からなくても困る話ではない。ちょっと気になっただけのこと。
……。
……吸血鬼といえば。
実際、俺たちの村を襲った吸血鬼はどれほどの強さだったのだろうか。
話に聞く吸血鬼の眷属としての屍人は存在した。……かつての村人たちの末路として。
ならばその親元たる吸血鬼が存在したことは間違いない。それを、当時のあいつは討伐した。
仮にその場にいたとして、あの頃の俺であいつの助けになれたかというと甚だ疑問……、というか無理だったに違いないが……。
……あまり直接的な詳しい状況は聞けなかったんだよな。あいつは無傷だったが、それ以上に心を痛めていたようだったから。
強く触れたら壊れてしまいそうな、しかし強く捕まえておかないと消えてしまいそうな、そんなあいつの震える身体が……、熱が……。
……。
いや……、なんかだめだな。
徹夜して眠気からか、思考が変な方向に連想しがちな気が……。
やっぱ少し仮眠した方がいいか……?
日が少しずつ昇り、街は人々の喧騒と共に動き始めている。
どうにも、この時間から寝るのも気が引ける。
……そうだな。少し、街を歩くか。
宿を出て、大通りの方へと向かい、幾人ともすれ違う。
配達らしき少年。大工らしき屈強な男。買い出しらしき中年女性。
そんな日常風景の中、人々が時折教会に手を合わせるのが見える。当たり前のような、生活に溶け込んだ祈り。
法国でもたまに見られた様子だが、ここ教国でも住人の信仰は篤いようだ。
法国と教国は教義の違いで分裂したと聞くが、俺にはあまり違いが分からない。
少なくとも、暮らしている人々の姿を見る限りは、同じように見える。……まぁ、そう簡単な話ではないんだろうが。
そんなことを考えていたら足が自然と、孤児院の方に向かっていた。
あの、魔族事件の渦中にあった、リブストク孤児院。
いま俺にできることは何もないだろうし、単なる自己満足に近い。はっきり言ってしまえば単なる野次馬根性でしかないのだろう。
しかし、その在り方を劇的に変えてしまう切っ掛けとなったのは俺たちに他ならない。やはりあそこの子供たちの様子が気にかかってしまう。
……。
「なんだ。よく来たじゃん」
「あー……少し様子を見に来たんだが」
そして俺はいま、非常に気まずい思いをしている。
出迎えたのは、あの少年。視線は変わらず冷たく感じる。
あれから少し時間が経って落ち着いたのか、一応の応対はしてもらえるようだが。
奥から変わらず子供たちの声が聞こえる。表向きは何も変わらないように思う。
しかし実際は多くのことが変わっていっているのだろう。支援者に付けられたという孤児院の名前も、変わってしまうのかもしれないな。
「……」
どうにも上手く口が回らない、というか頭が回らない。
徹夜することなど冒険者なら珍しくもないことなんだが、自分でも思っていた以上に疲れてるということだろうか。
思えばアリアが仲間になってからは、回復してもらえるからと疲労を意識することが減ったような気がする。
自己管理を怠るのはあまり良くないな。もう少し気をつけるようにしよう。
「なんだよ、黙っちゃって。あの変な姉ちゃんに用事か?」
「……ん、ああ。そんなとこだな」
この孤児院に少年より年上の女性は、魔族だった修道女がいなくなったので、恐らく聖女見習いのテッラしかいないはず。年上というには幼い見た目だが。
事件の事後処理のためしばらくここにいると言っていたし。……なので別に変な、という部分を追認したわけではないぞ。
「わかった、じゃあ呼んでくる」
別に特段の用事があったわけでもないが、同じく事後処理に関わってるアリアの様子でも聞いてみるとしよう。
少年にお願いし、孤児院の入り口で待つことにする。




