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52話 目的達成

「いやー!久しぶりに夢中になってしまった!!」


「私も久しぶりに楽しかったよ、ドラっち!!」


「……」


「どうしてこうなったんだい?」


 あれからかれこれ一時間。

 一人と一匹は狂ったように激しい戦いを続けていた。


「いやいや、失礼な態度をとってすまなかった。まさかヤジマさんの部下とは知らず、そりゃあ強いはずだ!」


 ガハハ、と豪快に声を上げてドラゴンは笑う。


「ううん。こっちこそごめね、色々と失礼な事言っちゃって」


「なあに、気にするな! 楽しかったからそんなのどうでいいさ」


「さすがドラっち〜、漢だねー!!」


 昨日の敵は今日の友、とでも言うべきかさっきまで死闘を繰り広げていた二人はすっかり意気投合していた。


「ねえ、これどういうこと?」


「俺にもさっぱりだ」


 ふて寝していたリュミールは訳がわからず困惑しているがあえて事の顛末を教えないことにしよう。


「それで、お主達は私の寝床にある鉱石、輝煌石を取りに来たんだったな?」


「うん、何個か貰ってってもいい?」


「ああいいとも、いくらでも持っていくといい!!」


 ネメアは随分と気に入られたようであっさりと鉱石を採る許可を貰う。


「それじゃあ、私の背中に乗れ。火口のなかの岩肌は崩れやすくなっているから鉱石の場所まで連れていこう」


 そう言うとドラゴンは頭を下げて四つん這いになる。


「え!! ドラっちの背中に乗っていいの!?」


「ああ、お主達のためだ。私は高貴だから滅多に誰かを背中に載せることは無いのだが特別だ」


「やったよレイル! 乗せてくれるって!!」


 ネメアはドラゴンの背中に乗れることが相当嬉しいらしく激しくこちらに手を振って手招きしてくる。


「やったじゃないか、ドラゴンなんて珍しいものに乗れるなんて君はついてるぞ」


「お、おう……」


 まさか、魔界領にまできてドラゴンに乗るとは思いもしなかった。


「よっと……」


「うお……」


 ノリノリでまっさきにドラゴンに跨ったネメアの後ろに座る。


 振り落とされないように鱗をがっちりと掴みながら感じたことは生命としての力強さだ。鱗からもろに感じる激しく流れている血の感覚、一呼吸ごとに忙しなく動く躯体。ひとつひとつのごく普通の動きが新鮮に感じる。


「……凄い」


 そんな陳腐な言葉しか浮かんでこない。


「よし、しっかりと掴まっていろよ」


 一言注意を入れると大きな翼がはためく。


 一瞬の浮遊感ともにすぐ火口の中へと入り込み、体全体に重力がのしかかってくる。


「う………!!」


 すぐに先程の倍以上の熱気が体を襲いかかってくる。同時に振り落とされないように強く鱗を掴まなかければいけないので短い間で精神が一気に刈り取られていく。


「ひゃっほーーー!」


 前の方では両手を上げてはしゃぐ声が聞こえてくるが今はそれにも構っていられない。


 ドラゴンは慣れたように火口の中を急降下していきちょうど中の中腹あたりで体制を戻して停止飛行する。


「さあ、ここだ」


 ドラゴンの指差す方を見るとそこには小さな足場にいくつもの虹色に輝く鉱石が岩肌に埋まっていた。


「よっと……」


 狭い足場に着地して鉱石をいくつか見繕う。


「こいつは凄いぞレイル、ただの鉱石のはずなのに微かに魔力を感じる」


「すごく綺麗だよねコレ」


 二人の感想を聞き流しながら魔王に頼まれた量の輝煌石を袋の中に詰めていく。


「よし、こんなもんか」


 袋がいっぱいになったところで再びドラゴンの背中に乗って火口の中を出る。


「ありがとうねドラっち!!」


「うむ、再び合間見えることを楽しみにしてるぞネメア」


「ありがとう、また背中に乗せてくれよ」


「……どうも」


 あまり長居もしていられないので俺達もお礼を言って、足早に下山をする。


 ・

 ・

 ・


 不思議なもので登っている時より下っている時のほうが移動が速く感じられるのはどうしてだろうか。

 ふと、そんなことを考えながら山を下っているとそろそろトシミツを置いてきた、折り返し地点へと到着するところだ。


「皆さんこちらでーす!!!」


 すると、少し先の方からこちらに片手を大きく振っているトシミツの姿が見えてくる。


「なんだありゃ……」


 彼の周りの地面は大きな穴が所々にでき上がり荒れに荒れまくっていた。


「また派手にやったねトシミツ。そんなにボロボロで……腕までやられてるじゃない」


 すぐに合流をしてネメアがすぐにそう口を開く。


「いやはや、お恥ずかしながら最後の最後で詰めを誤りました。私も鍛錬が足りません」


 腑甲斐無いとばかりにネメアの前にトシミツは傅く。


 トシミツは身につけていた鉄の防具を含めて全身が真に黒焦げており、よく見ると左の腕が肩から綺麗に防具ごと無くなっていた。


「ど、どうしたんだよその腕!?」


 腕が無くなっているというのに平然とネメアに傅くトシミツを見て問いただす。


「え?ああ、これですか。先程も言った通り最後にあのデーモンにやられまして、あいつ自爆魔法なんてものを使いましてね。それに巻き込まれて片腕が吹っ飛びました」


 恥ずかしそうに頬を染めながら、残った手で頭を搔く。


「これはまた魔王様に治してもらわないとね」


「はい、申し訳ないです……」


 ネメアとトシミツはあまりこのことに驚いていないようだ。


「いや全くタフだね〜」


 リュミールも呆れるしかないようだ。


「私のことより。鉱石の方は採れたのですか?」


「うん、もうバッチリだよ!」


「おお!! これはまた綺麗な物ですな。おっとレイルさん、私がその荷物を持ちましょう!」


 袋の中に入った輝煌石を見てトシミツは興奮した様子だ。


「いやいや、流石に怪我をしてるのに荷物持ちなんてさせられないだろ」


「何を言いますか、お客人に荷物を持たせるなどそれこそ有り得ません!!」


 困った、これは言っても聞いてくれないやつだ。


「別に腕の一本ぐらいでそんな怪我人扱いしなくてもいいよレイル、トシミツに遠慮なく持たせてあげて」


「そうです! さあレイル殿、私にその袋をお渡し下さい!!」


 いや、腕の一本ぐらいってかなりの重症だからね?なんでトシミツもそんなにピンピンしてるんだよ……。


「……さてとトシミツも無事だとわかったし、すぐに魔王城に戻ろう。魔王様も首を長くしてお待ちのはずだろうしね」


「はい!」


「いやー、意外と楽しかったねレイル?」


「………」


 これ以上何を言っても無駄そうだったのでトシミツに袋を任せて、俺達は再び魔王城に向かって下山を始めた。


 ・

 ・

 ・


 魔王城に着いたのはすっかりと陽が落ちた頃だった。


「あ! おかえり皆!!」


 そうしてここが魔界領だということ一瞬忘れそうになるそんな明るい声が俺たちを出迎えてくれた。


「ただいま戻りました、魔王様。こちらが魔王様が仰っていた鉱石でございます……トシミツ!!」


「こちらに御座います!」


 先程のおちゃらけた雰囲気とは打って変わって、二人は緊張した様子で魔王に傅く。


「うん、ご苦労さま。二人とも顔を上げていいよ。ネメアは疲れただろう? 下がって休んでいなさい。トシミツ、君は怪我の治療だね、速く医療班の所に行って治してもらうといい」


「「ハッ! 畏まりました!!」」


 魔王の指示に二人は息ピッタリに返事をして玉座を後にする。


「さて、レイル君もご苦労さま。疲れただろう、君も休むといい」


 玉座に残った俺の方を向いてそう促す。


「えっと、アニスは……?」


「ああ心配しなくてもすぐに取り掛かろう。そうだな急がないといけないのはわかっているが五日間は待って欲しい。私も半端な気持ちで仕事をしたくないからね」


「それは大丈夫なんですけど……その………」


 魔石の方がもってくれるだろうか?


「魔石の方も心配ない、私の魔力を吹き込んでおいたからまだ少しの間は大丈夫だ」


 俺の心配の種をすぐに察して魔王は俺の肩を叩く。


「……わかりました。えっと、それじゃあ、アニスのことお願いします!」


 もうやるべき事はやった、あとはこの悪魔を信じるだけだ。


 俺は魔王に向かって深く頭を下げる。


「任せてくれ、君に最高の一振りを作って見せよう。君はこの城自慢の温泉にでもゆっくりと浸かって疲れを癒してくれ」


 その言葉に力強く頷き俺は玉座を後にした。



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