47話 魔界のお茶会
長い廊下を歩いて、大きな扉の前でホブゴブリンは立ち止まる。ここが魔王がいる玉座なのだろう。
扉越しから伝わるピリピリとした空気が肌を刺激する。
ギギギ、と扉が重い音を立てながら開く。全て開いたところでホブゴブリンはその場で傅く。
「魔王様!例の人間をお連れ致しました!!」
ゴブリンの顔からは大量の脂汗を流しとても緊張している様子だ。
しかし、ゴブリンの声は魔王に届いた様子はなく…………。
「え、リュミールちゃんそんなに可愛いのに700歳なの!?全然見えない〜!」
「いや〜、そうかい?君だってその歳にしてはまだまだ若いし格好いいじゃないかい」
「ホントに〜?嬉しい事言ってくれるなー、リュミールちゃんは!」
「…………」
「「あはははははははは!!!」」
そんな魔王と精霊という相容れない組み合わせが高笑いをしていた。
……なんだこれは。
なぜうちの精霊は魔王とあんなに親しげに話しているのだろうか?
もっとこう捕えられて「助けて!!」というのを想像していたのだが……。
あまりの不意打ちに頭が考えるのを拒否する。
「あ!レイル、いつまで寝てるんだい!!」
精霊は美味しそうに机の上に置いてあるお菓子を頬張る。
「お、彼がリュミールちゃんの契約者かい?」
「ああ、名前はレイル。なかなか見込みのある人間だよ」
「リュミールちゃんにそんなに言わせるんだから相当な人なんだね〜」
どうやら俺が寝ている間、あの馬鹿精霊は魔王と一緒にお茶会と洒落込んでいたらしい。
広い玉座に小さな机、その上には色とりどりのお菓子と二つの小洒落たティーカップにティーポット、どこからどう見ても仲良くおしゃべりをしているようにしか見えない。
それにしても……。
黒く禍々しい雰囲気の玉座にはとても似つかわしくないほのぼのとした空気、本当にどうしてこうなったのだろうか?
考えてるだけで謎が深く、泥沼にハマっていく。
「おーい、そんな所に突っ立てないでこっちに来いよー!」
「そうだよー、お菓子美味しいよ〜。それからトシミツご苦労さま、下がっていいよ」
おいでおいでと二人が手招きしてくる中、トシミツと呼ばれたホブゴブリンは「ハッ」と一礼して玉座を立ち去る。
一人その場に取り残され、あの異界の地へと行くことを余儀なくされる。
「「ほらほら、はやくぅ〜」」
いっそう激しく手招きしてくる。
「……はあ」
恐る恐る足を前に出して、ジリジリと異界に近づいていく。
「さあ、ここに座ってくれ」
魔王は自分の隣にある椅子をポンポンと叩いて座席の位置を指定する。
「ど、どうも」
その姿はどこからどう見ても普通の人間で一瞬、戸惑う。
膨大な闇魔力を感じなければ、重々しい威圧感もない、人?の良さそうな穏やかな顔立ちに黒い髪、少しガッチリとした体格はどこの村にもいそうな農夫を思わせる。
隣に座って、じっくりと観察した印象はそんな感じだ。
「自己紹介がまだだったね。私の名前はヤジマ、魔王なんて呼ばれているけど名ばかりのただのこの城に篭っている悪魔さ」
落ち着いた笑を零して手を差し出す。
「あ、えっと、俺の名前はレイルです。えっと今日ここに来たのは……」
差し出された手を掴んで握手をする。
「まあまあそんなに焦らずに、とりあえずお茶でも飲みたまえ」
カップに注がれた紅茶を受け取って、一口啜ってみる。
「……うまい」
「そうだろ!?うちの庭で育てた自家製ハーブなんだよ」
嬉しそうに語る姿は子供のような無邪気さだ。
「…………」
演技とは思えない魔王の素振りに動揺して口が何を言葉にすればいいかわからなくなる。
「アハハは、そんなに身構えなくてもいいよ………って言っても難しいよね」
「あ、なんかすみません……」
「いいさ、私に初めて会う人はみんなこんな感じだからね。もう慣れっこさ」
「まあ、ヤジマちゃんは普通にしていればそこら辺にいる人と同じだしね〜、私も最初に見た時は意表をつかれたよ」
向かい側に座る精霊は紅茶のおかわりを貰ってそれを口に運ぶ。
「よく言うよ、そんな素振り見せなかったくせにさー。……それでどう言った御用で遠路遥々こんな所にやってきたのかな?」
カップを静かに置いて横に座る魔王は俺を見定める。
「えっと、実は…………………」
俺はそれから魔王にここに来た経緯を話した。
アニスと出会ったこと、魔装機使いのことから剣聖にアニスを壊されたこと、リュミールと出会ってアニスを治してもらうためにここまで来たこと。
「これが壊れた時に残ったアニスの魔石です」
懐に大事にしまっておいた魔石の入った袋を取り出して魔王に見せる。
「これはまた……随分と懐かしいものが出てきたな。そうか、君がアニスの持ち主になってくれたのか……」
感慨深そうに目を閉じて魔石を受け取る。
「アニス、君は素晴らしい主人に出会ったんだね……」
「……アニスのことを覚えているんですか?」
「ああ、もちろんさ。私は自分の作った武器のことは覚えているよ。それにアニスはとても思い出深い武器だったんだ」
懐かしそうに魔石を眺める。
「それでアニスを治して欲しくて私のところまで尋ねてきたんだったよね?」
「はい、お願いできないでしょうか?」
「その前に君に問おう。君が求めているものは魔装機にある天職を変える力と所持者に与えられる特別な力で、再びその特別な力を我が手にするためにここまで来たと言うことでいいかな?」
魔王は静かに痛いところを突いてくる。
「……そうですね、どれだけ綺麗事を並べようが俺はその力欲しさにここまで来ました。結局俺は1人じゃ何も出来ないから誰かの力を借りないと自分の夢もろくに叶えられない弱者です、現にここに来るまでもリュミールがいなかったら俺はここまでこれなかった。いつもどこかで引っかかっていました、俺は彼女に何か返せているのだろうかと、俺はただ彼女の優しにただ甘えてるだけなんじゃないかと」
ずっと、なにかに理由をつけて考えるのを避けてきた事だった。
「きっとアニスを治したいって言う俺の行動はただの我侭です。それでも約束したんです、アニスが「駄目じゃないってことを証明する」と。まだ俺は証明しきれていない、彼女を最高の剣にできていない」
「もし、アニスを治すのではなく新しいアニスよりも強い魔装機を君に作ると言ったら?」
魔王は俺の気持ちを揺さぶるために今の提案したのであろう。
しかし揺らぐ道理などどこにもない。
「俺、諦めが悪いんです。一度約束したことは守らないと気が済まないタチなんで、アニスじゃないと駄目です」
全部引っ括めてこれが俺の全てだ、それ以上も以下もない。
俺はアニスと一緒に高みを目指したいのだ。
「そうか……」
ゆっくりと腰を上げて席を立つ。
「本当に、本当に素晴らしい主人を見つけたのだな……アニス……」
小さく何かを呟く。
「君の気持ちはわかった。アニスのことは任せてくれ」
「本当ですか!?」
嬉しさのあまり大きな声が出てしまう。
「ああ、力がかなり弱まっているが今すぐ作業に取り掛かれば問題ないだろう!と言いたいところなのだが少し問題があってね……」
「問題ですか?」
「魔装機を作るためには特別な鉱石が必要でね、今私の手元にその鉱石があまりないんだ。今のアニスを治すとなると、一から形を作り直す必要があるから全く鉱石の数が足りないんだよ」
魔王は困ったように頭をかく。
「私が鉱石を採りに行きたいのだが今この城を離れるわけにも行かないしなー……」
「あの、その鉱石ってどこにあるんですか?」
「この城の裏に大きな鉱山があってね、そこに僅かに群生する希少な鉱石なんだ。しかもその場所にはドラゴンがいてね〜、そいつがまた厄介なんだ」
魔王にここまで言わせるのだからかなりのものなのだろう。
「俺が取りに行きましょうか?」
「本当か!? いやー、今色々と立て込んでてね、そう言って貰えると助かるよ。あ!そうだ、1人じゃ大変だろうからネメアとトシミツを連れて行かせよう。心配することは無い、もう君は私の客人だから二人は何もしないよ、それにかなりの実力者だ」
待ってましたと言わんばかりに饒舌になり、色々と話が決まっていく。
「それじゃあよろしく頼むよ!!」
こうして、アニスを治すための鉱石を採りに行くことになった。
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