↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/112

105話 アラドラ=トワール

「…………は?」


 あの変顔道化師がアラナドさん達との血縁者?


 突然の告白とその衝撃に俺の脳は理解が追いつかない。


 それは両隣で聞いていたローグとレイボルトも同じようで口を開けて驚いている。


「驚かれるのは無理もありません。ですがこれは本当のことなのです」


 俺たちの反応を分かっていたようにアラナドさんはとても落ち着いた様子でそう言う。


 ……似ていると言えば似ている。

 翡翠色のその綺麗な髪色やその整った容姿。血縁者と聞かされてそれに通ずる共通点は幾つかあるが、それでもこの人達とあの男が血の繋がった家族と言うのは半信半疑だ。


「お祖母様、あの盗賊団がアラドラだと分かれば私は見逃すことはできません」


「……」


 アラクネさんの言葉にアラナドさんは苦い顔をする。


「少しでも心残りが無いようにオーデーを旅立ちたいのです」


「ですが……」


「いえ……もう決めました──」


 アラクネさんは答えを聞かず、何かを決意したように俺たちを見据える。


「──皆さんにお願いがあります」


 彼女のその瞳は初めて会った時の臆病なものでは無くなっていた。


「な、なんでしょうか?」


 未だに話の整理が追いついてない俺たちは困惑しながらも彼女の言葉を待つ。


「オーデーを旅立つ前に私と一緒にヘンデルの森に行って貰えないでしょうか? どうしても弟……アラドラに会って言いたいことがあるんです!」


 アラクネさんはそう言うと俺たちに頭を下げる。


 それは願ってもない申し出であった。元々アラクネさんに協力してもらえることになったら、俺たちからアラクネさんと似たようなお願いを申し出るところであった。あいつには色々と貸しがある、それを直ぐにでも返さなければいけないと思っていたのだ。


「あの……もしかしてそんな悠長な事をしてる時間もないでしょうか?」


 お願いに対する答えが返ってこないことが不安になったのかアラクネさんは下げた頭を少し上に戻して、恐る恐る俺たちの顔色を伺う。


「いえ、そういう訳じゃありません。ちょっと上手く行き過ぎてるなと思いまして」


「上手くですか?」


 幸い、一日も早くオーデーに着いて、その次の日には魔装機使いであるアラクネさんの協力を得れた。そしてお互いにあの盗賊団に思うところがある。


 これは話が上手く進みず来ているとしか思えない。


「俺もアラクネさんの協力が得られたら同じような提案をしようと考えていたんです。そうしたらアラクネさんの今の申し出があったので少し話ができすぎてるなと思いまして」


「そ、そうだったんですか?」


 俺の言葉に次はアラクネさんが驚いた様子だ。それが少し可笑しくて笑ってしまう。


「はい、さっきも軽く言ったんですけど、俺はあいつらに大事な仲間を攫われたままなんです。アラクネさんの協力が得られたら直ぐにでもその仲間を助けに行きたいと思っていました。こちらからもお願いしますアラクネさん、俺と一緒に仲間を助けてください」


 互いに盗賊団にそれぞれの目的があるのならば協力しない手はない。それに俺たちはもう仲間なのだ、仲間の頼みを聞くのは当然のことだ。


 こっちもお願いする身だ、今度は俺がアラクネさんに頭を下げて誠意を見せる。


「分かりました、どれほどお力になれるか分かりませんがお互いに思いは同じです、こちらこそよろしくお願いします!」


 満面の笑みでそうアラクネさんは頷く。


「決まりですね。それじゃあ出発は明日の朝でいいですか?」


「はい、問題ありません!」


 出発の時間も確認して、アラクネさんは明日の準備をするために席を立ち上がる。

 その姿は活力に満ちている。


「アラクネ……」


 そんな彼女をアラナドさんが呼び止める。


「勝手に決めてしまって申し訳ございませんお祖母様。でもこれはどうしてもしてもやっておきたいんです」


 アラクネさんはアラナドさんに謝るとフルーエルを連れて大広間を後にする。


「──」


 その前に進み始めた孫娘の後ろ姿をアラナドさんはとても寂しそうに、しかしとても嬉しそうな表情で見送る。


「──この少しの間で見違えましたね」


「良かったんですか?」


 そんな老婆を見て思わずそんな言葉が漏れ出てしまう。


 どうしてかこれで本当に良かったのか疑問を抱いてしまったから。


「良いも悪いもあの子の決めたことです……ですがやはり詰めが甘いと言うか『これだ!』と思ったらそれにしか目が行かなくなるのは変わりません」


 嬉しそうに老婆はそう答える。


「レイルさん達にはまだお話しなければ行けないことがあります」


「話……ですか?」


 続けられた言葉に俺は首をかしげる。


「私たちとアラドラのお話です」


 そうして老婆は懐かしむように昔話を始める。


 ・

 ・

 ・


「どっか行け悪人!」


「お前といると僕達まで悪者扱いされるんだよ!」


「お前とはもう絶交だ!」


 15歳を迎え、天職を授かった俺はずっと仲の良かった友達にそう言われて縁を切られた。


「俺が何をしたって言うんだッ……!」


 どうしてこんなことになったのか分からなかった。


「ねえ知ってる、アラナドさんのお孫さん……アラドラ君。授かった天職が──だったんですって」


「えっ!? それって……」


「大悪党の再来かしら」


 すれ違う人達が俺の事を忌避の眼差しで見てくる。


「俺が何をしたって言うんだッ!!」


 この世に神なんていないのだと思った。


 こんなことは酷すぎる。


「ああ……ごめんね〜、今うち人の募集はしてないんだよ……」


「悪職持ちを雇えるかよ……えっ? いやごめんね! 今回はご縁が無かったってことで!」


「このクソ野郎が! テメェみたいな極悪人になるかもしれない奴を雇ったら俺の店の評判が落ちるんだよ! 二度と店の敷居をまたぐんじゃねぇッ!!」


 俺はただやっと家族のために何か役に立てると思っただけなのだ。


 小さい頃に両親は死んでしまいそこからは婆ちゃんと姉さんが俺たちの親代わりだった。


 婆ちゃんは体が悪くなるまで仕事を頑張り続けて、姉さんは自分のやりたいことを無理やり我慢して俺たちの代わりにお金を稼いでくれていた。


「やっと二人の手助けができる!」


 やっと二人の負担を減らして、俺も家族を守ることができる。

 そう思っていたのに……。


「……アラドラ=トワール、神が君に授けた天職は盗賊の上級職……大盗賊だ」


 俺が授かった天職は劣等職と呼ばれる『農民』や『奏者』などとは別の意味で忌避される悪職と呼ばれる『大盗賊』だった。


 悪職とはその言葉の通り悪い天職のこと。代表的な悪職は今言った『大盗賊』や『詐欺師』『奴隷商』などがあり。表立って世間に全く需要のない天職と言われている。この悪職は潜在的に悪人としての才能のある人間に授けられるもので、俺は何も悪い事をしていないのに『悪職を授かった』というだけで周りの人間から犯罪者と同じような扱いを受け始めた。


 仲の良かった友人達とは縁を切ら、金を稼ぐために何か仕事をしようにも悪職持ちの俺を雇う人間は誰も居なかった。それならば冒険者になることも考えたが、物を盗むこと以外何も出来ない悪職持ちの俺はパーティに入れては貰えずソロで冒険者になることも難しかった。


 周りからはゴミ屑のような扱いを受け、人として認識されなかった。俺の価値はただの穀潰し……いやそれよりも低かった。


 とても辛く、苦しかったが我慢はできた。

 家族がいたから。姉さんたちだけは俺を見捨てず、何も変わらず家族として接してくれた。


「私たちはずっと家族よ」


 姉さんはそう言って俺を抱きしめてくれた。


 それだけで俺は救われた、周りからの扱いも苦にならないほどに。


 この人達と家族で良かったと思えた。


 ずっと一緒に居たいと思った。


 しかし、その願いは叶わなかった。


「この悪魔! 早くこの国から出ていきなさい!!」


「お前たち家族もそのガキと同類だ! 消えろ!!」


 時が経つにつれて俺に対する周りの扱いは過激になっていき。ついには家族にまで被害が及ぶようになった。


 道を歩けば陰口を叩かれ、後ろ指を刺され、酷いときでは暴力を振られることもあった。


「大丈夫、アラドラは何も悪くない。お姉ちゃんが守ってあげるからね」


 酷くやつれた、青白い顔で無理やりに笑った姉さんの顔が今も忘れられない。


 そこまでになって俺は気づいた。


 俺はここに居ては行けないのだと。


「このままここに居れば大好きな家族にまで迷惑をかけてしまう」と。


 そうして俺は家族に何も言わず家を出た。


 家族が大事に切り崩して使っていた婆ちゃんの貯金を全て持ち出して。


 家族を守るために俺は家族を裏切った。


 俺が全部悪ければ、家族に変な火の粉が降かかることないから……。


 そこからは覚えていない。


 殺しこそしなかったものの、様々な場所で成金どもから盗みを働いた。


 気がついたら名前も知らない国まで来ていた。俺と同じ境遇の奴らと旅をすることになっていた。


 気がついたらそいつらのリーダーをすることになっていた。


 俺にも気の許せる仲間ができた。


 今までに起きた嫌なことがどうでも良くなるくらいにそいつらと笑った。


 何もかも忘れられた。


 ……………でも一つだけ心残りがあった。


 ・

 ・

 ・


「……まァたこの夢ェ見たァなァ……」


 そこで道化師は目が覚める。


 道化師はこの森に帰ってきてから決まって同じ夢を見ていた。


 それは天職を授かったばかりの頃の忌々しい記憶。自分がまだ何者でもなかった頃。


 今まで見ることのなかったその夢は何かに呼応するようにして道化師にその記憶を思い出させる。


「くだんねェよなァ〜」


 無造作に頭を掻きむしり、道化師は完全に目を覚ます。


 この国に戻ってきた理由は本当に気まぐれだった。少し、ほんの少しだけ家族の様子を見に来ただけだった。


「はぁ……いつまでもウロチョロしてるとまた迷惑をかけちまうな……」


 あまり長居することを道化師はいいことだとは思っていなかった。


 またいつ家族に迷惑をかけてしまうか分からなかったから。


「考えてェも仕方ねェよなァあ」


 道化師は今の思考を一蹴すると鏡の前に立つ。


 そこに映るのは、嫌いで嫌いな自分の素顔。

 その嫌いな顔にデタラメな手つきで目元に太陽と月の落書きをすると下手くそな笑みを貼る。


「今日も上出来だァ」


 道化師は一瞬にして塗り替えられた顔を見て満足そうに頷く。


「アニキッ! 起きてますかい!!?」


 するとそこに激しく扉を叩いて、慌てた様子の下っ端の声が聞こえてくる。


「どォうしたァ?」


 朝から騒がしい声に道化師は少し腹が立ちながらも扉越しに答える。


「襲撃者です! この前襲ったガキたちがアジトに来やがりました!!」


 下っ端は気が動転しているのか下手くそな説明をする。


「ガキどもォ……そうかァ、取られたァモンを取りィ返しに来たァかァ!」


 道化師は貼り付けた笑みをさらに歪めて楽しそうに声を弾ませる。


「どうしましょうアニキ!? あいつら……いやあのガキ、一人でで大暴れしてやがります!!」


「落ォち着けェ……すゥぐに行く。もう少ォし足止めェしとォけェ」


 依然として扉越しに慌てる下っ端を宥めて、道化師はそう指示を出す。


 下っ端はうるさい足音を上げながら直ぐに部屋の前からいなくなる。


「面白ォくなァってきやがったァな!」


 それを気にした様子もなく道化師は嬉しそうに何処かへと歩き出した。

 

評価・ブックマークよろしければお願いします

m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。