いぶきとぬし(1)
タケミという神様が黒蛇で、冬眠中?(いや今は夏だけど)っぽくて困ったという話なんだけど、既に変な世界に来てしまっている私はとっくに困っている訳で。
しかも目の前の神様はヘタレだしおとりちゃんバカだし役に立ちそうもないんだけど・・・。
「あの、動いていないのに何故私を呼んだって事になっているんですかね?」
アクビをして頭をボリボリ掻きながらクナト様はこう答えた。
「恐らくだけど、タケミはなんらかの原因で力が弱っていたんだろう。で、動かなくなる前に君を呼び出す力を使ったが力が弱かったのでキチンと自分の所までいぶきを呼べなかったんだろうってのが私の予想なんだけど」
何も考えてなさそうで少しは考えてはいるらしい。
「で、なんで私は呼ばれたんでしょう?そもそもちゃんとタケミ様のとこに呼ばれたとして私は何にも出来ないんですけど」
「・・・多分出来ると思う。いぶきは、いぶきとぬしだから」
「いぶきとぬしって?」
「氣吹戸主。竜巻を起こして厄災や穢れを祓う神様だよ」
はい?聞いたままの情報をそのまま処理するには私の頭のスペックじゃ無理だ。“そもそも”の理由すら意味不明だもん。
「あっ、おとり。遅くなっちゃうからお風呂に入っておいで」
突然クナト様が、それまで黙って私とクナト様のやりとりを静観していたおとりちゃんにお風呂を促した。
「えっ、でも私も聞きたい」
「ちゃんと後でおとりにも説明するから、さっ。入っておいで」
「・・・わかったわよ」
おとりちゃんは素直に奥の部屋に着替えを取りに行き、お風呂場へ向かって行った。
「さて、私は君に謝らなくてはならないのだ。」
おとりちゃんがお風呂場に入ったのを見届けてから、先程とは打って変わって真剣な眼差しでクナト様が私を見ている。
もちろん私にはクナトに謝られる心当たりなどあるはずも無いのだけれど。
「まず、おとりの前での君への態度を謝る。おとりの前ではおとり一筋の阿呆で居るしかないんだ。すまなかった。君とタケミにした事を思うとすまなかったなんて言葉では済まされない事だとわかっているのだが・・・」
クナト様が私に頭を下げる。
「いやいや、ちょっと待ってください!頭を上げてください」
いくらクナト様がヘタレでも謝られる程の事ではない。
「そして今から話す事はおとりには聞かせたくないので手短に簡潔に話す」
すっと頭を上げてまっすぐ私を見て話を続ける。
「おとりをこちらに呼んだあと、おとりの村の様子を窺っていたら村の様子がおかしい。どうしたのだろうと思ってたらなんと私が勘違いでおとりを連れ去ってしまったという話だった」
「・・・・・・(呆)」
「いや、そんな目で見られても仕方がない。」
さんざん話に出ていたけど、本人の口から真面目に語られるとヘタレ感が増す。どうやら私は顔に出ていたらしい。
「いくら神とてこの地を守っていく存在の者が勘違いで村の娘を攫ったのでは立つ瀬がない」
うんうん。
「しかも、ここと表の世界では時間の経過が違うから私がおとりを返したところでおとり達家族の失った時間は戻す事が出来ない。なんせここの1日は向こうの1年程なのだからな」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「しーーーーーーーっ!!しーーーーーーーーっ!!おとりにバレては困るんだ」
ちょっと待って、ここの1日が私の世界の1年って!?えぇと、1時間で2ヶ月経ってるって事???じゃ、じゃぁ、ここに来てから結構時間が経っているから今戻ったとしても既に何ヶ月も経ってしまっているの!?行方不明事件じゃん!
「・・・話を続ける。神への信仰が薄れると神の力も薄れてしまう。神の加護の力が無くなった神栖村は次第に荒れ果ててしまい、人々の活気も無くなってしまっていた。おとりに聞かせたくないのはこの部分なんだ。おとりは自分が犠牲になる事で村が救われたと信じている。だからこそ、今までずっと私と一緒に居てくれているんだ。そうではなかった事を知ったらおとりはどうなってしまうのか・・・勝手だが私はおとりを失いたくない」
クナト様は複雑な表情でぐっと拳を握り締めた。