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いぶきとぬし(2)

 私はあまりの話に堪えきれずついに涙がこぼれてしまった。『呼ばれたものは戻れない』っていうのは戻ったとしてももしかしたら家族や友人は既に居なくて、自分の居場所はとっくに無くなっているかもしれないからって事・・・?

 私は溢れ出る涙を拭う事もせず、自身に起こっている事をただ考えていた。ぼんやりとクナト様の話を聞いているがあんまり頭に入ってこない。


「いぶき・・・。いぶきは災厄を祓う神の自分が村を救わなくて、誰が救うんだ!と裏神栖を飛び出していった。村の様子は酷いもので、干からびた田や荒れ果てた土地や家、食うものにも困る村人達・・・さらには村には疫病も流行っていた」


 クナト様が囲炉裏のお湯が入っている鍋に向かって手をかざす。すると、鍋に映像が映った。そこには荒れた村の悲惨な状況が映し出されていた。


「本当は私が行けば良かったんだが、いぶきは「貴方が勘違いで連れてきてしまったのだから、あなたがちゃんと最後まで責任をとりなさい」と。最初は私が村の責任もとらねばと思っていたんだけど、もはや私は村人にとって、”大事な村の娘を攫った悪い神様”となり人々の信仰心も無くなってしまった。そんな私には村を救う力も無く・・・」


 映像には水色の髪の毛の女性の神様(天女さま?)が移っており、竜巻を起こしている映像が映っている。その映像をじっと見ていると、女性の神様を支える様に黒い髪の男の神様が現われた。


「私もタケミもいぶきなら村を救えると思って安心しきっていたんだ。けど、村の荒廃は我々の想像を超えるほど凄まじく、災厄はいぶきの身体を蝕み始めた。この時点でタケミがいぶきを助けに行ったのだけど、いぶきは最後の力を使ってタケミをこちらまで戻し、災厄を天に送った」


 映像の女性が竜巻の力で災厄を天に送り、村を浄化している。男性の神様の姿は見えなくなっている。そして、最後の災厄を天に送った後女性はみるみる内に小さくなって赤ちゃんになってしまった。


 「力を使い果たしたいぶきは普通の人間として神栖村の村人に拾われ育てられた。いぶきの魂はその後も人間として転生を繰り返している。神ではなく、人間となってしまったいぶきはこちらの事は記憶に残っていなかった。こちらに戻されたタケミにはもう大した力は残っておらず、黙っていぶきの人間としての生死をずっと見守り続けていたんだ」


 鍋に移された映像は氣吹戸主という女性の神様の転生の様子がめまぐるしく映し出されており、やがて私が産まれた映像が映った。

 そういえば、氣吹戸主とタケミ様は恋人同士だとか言っていた様な。

 幾度と無く生まれ変わって、自分以外の異性と結ばれては一生を追えていく。そんな愛する女性の神様をずっと見守ってきたタケミ様は何を想い、何を考えてきたのだろう。


「だから、実際に村の為に犠牲となったのはおとりでは無く、いぶきなんだ。私のせいでいぶきが犠牲になってしまったんだよ。そして、いぶきの何度目かの転生の後にタケミは村外れの川沿いの神社にこもったきりになってしまっていて、先程タケミの遣いが来るまでタケミの状況がわからないままだったんだ」


 私が氣吹戸主の生まれ変わりだとは到底理解出来ないし、信じられない話だけど、夢なんかではなく実際に裏神栖村(ここ)に存在している以上は目の前の神様に頼らざるを得ない状況だって事なんだよね。


 もう戻れないという事実は胸を抉られる程辛い事実だけど、ここで暮らしていかなくてはならない以上は少しでも何かしなくてはと感じてしまった。

 息栖市での私はやり残した事が沢山ある。やらなくてはいけない事を後回しにしたりもしていた。そして向こうでの生活が途中リタイアみたいになってしまい、もうやりたくても2度と出来なくなってしまったからだと思う。

 やりたい事、やれる事はどんどんやっていこう。


 私は痛む胸を抑えて涙を拭った。


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