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(10)私、初めて奪われました 前

前世の自分だったら、炎の中に飛び込むなんて想像もできなかったけど―――


「やっと見つけた!!!」


どうやら、今世の私はゲームの悪役令嬢かつ隠しキャラでもあるせいか、ある程度の無茶をやっても平気な質みたいだ。


*****


燃え盛る炎の中に飛び込んでみると苦しそうに座り込むローズちゃんと、どこかで見た事あるような姿の人が…一人立っていた。

イレギュラーな登場に不意を突かれたのだろう、飛び込んでくる私を認識しようと振り向いたその顔―――明確な焦りの色が現れていた。


でも、私も焦ってしまっていた。

飛び込んできたのはいいが、何しろ着地を考えずに飛び込んでしまったのだ。

まあ、想定通りというか…足では着地せずに膝から着地をしていまい、地面と膝の皮膚の摩擦に思わず顔が歪む。

『ぐっ…』とうめき声をあげてしまったが、幸いな事に足が動けないほどの痛みではなかったし、着地した地点もローズちゃんの数歩前だった。


「ローズちゃん!!」


私は手に持っていたお菓子の袋も自分の髪もほっぽり出してローズちゃんの元に駆け寄り…一瞬『自分も燃えてしまうのか』と迷ったが、その迷いを振り切るように、彼女の腕を掴んだ。


すると、今まで彼女を中心に盛っていた炎はみるみる消えていき……最終的に小さな火種がローズちゃんのみぞおち付近でボッと火柱をあげると、そのまま沈下していった。


「…あなた…どうし…て」

「喋らないでいいよ、無理しないで」


やつれたような雰囲気を漂わすか細い声に、私も安心できる表情を見せようとしたが…苦い顔を隠す事はできなかった。

自身の炎による火傷と体力の消耗のせいか、ローズちゃんの身体はボロボロだった。

未だに恐怖を拭えないせいか小刻みに身体を震わせ、その表情にも恐怖の色が染みついている。

だが、それが続くかと思うと…張りつめていた糸が切れてしまったように、ローズちゃんは気絶してしまった。


恐怖に怯え果て気絶したローズちゃんを見て、自分の中に悔しさがこみ上げる。

もっと早く、私が追い付いていれば。

もっと早く、異変に気が付いていれば。


一度後悔し始めると、それは芋づる式にどんどん増えていく。

そして、増えていくものはいつの間にか後悔だけでなかった。

上手く言えないが……『怒り』に近い感情が、自分の中で蠢く。

そして感情だけでない自分の中の“何か”が、暴れようと必死に動いていた。


『お前が、カメリア・クラウディウスか?』


今まで存在さえも無視しようと考えていた人の声に、私の“何か”が出ようと暴れる。

それを必死に抑えなければいけないと、何の根拠もなかったが…そう自分に言い聞かせながら、私はくるりと声の主に向き直った。


「…ええ、そうよ。私が、カメリア・クラウディウスです。…失礼ですけど、あなたがローズちゃんにこんな事を?」


対面し、目の前の人の美しさを冷静にみても……私の感情は変わらなかった。

ほんの少し短めの金髪で、瞳の色は珍しく紫色。

人間ではないと思えるほど、耳はやけにとんがっている。

透き通るような白い頬と整った中性的な顔立ち。男にも女にも見えるが…今はそんな事どうでもいい。


それによりも気になったのは、漏れ出している何か強いエネルギー。

魔法だと思うけれど、私が思っている魔法とは“格”が違う。

今まで感じた…それこそ周りから強いと認定されているはずのユーステス樣の魔力を凌ぐほどの、膨大な量と、純度の高い質。


それを感じた瞬間、“何か”がやってきた。


【ああ、久方ぶりエルフだ。嬉しいなあ、我が同胞よ】


突如、自分の頭の中で誰かが話しかけてくる。

でも、不思議と慌てる事無くすんなりと受け入れられた。

まるで、自分の中に存在していた『知らない自分』と対面したような、そんな感じ。


でもその声を遮るように目の前―――怒りの対象が、口を開く。


『ふっ。元凶はその小娘にあるわ。私の存在に無知であるとしても、口の利き方がなっていなくてな。小娘自身の炎で燃えるように火種を突いただけだ。』


悪びれる事無くそれが当たり前だと言い切るその態度が、私の怒りを増幅させる。

私がさらに怒るこの状況を心のどこかで嬉しいと感じているせいなのか、もう一人の知らない私が、甘い声で誘惑する。


【人が傷づいているのに、こいつは悪いとも思ってないぞ?】

そうだね。私もそう思っているよ。

【そんな奴を、野放しにはできないよなぁ?】

うん。でも相手は強そうだよ。無理なんじゃ…。

【そんな事はない。強そうならば、喰らって己が物にすればいい】

喰らう?食べるって事?そんな事できるの?やってはいけないんじゃ…。

【人が死にかけたのだ。犯した罪は、誰であろうと、償わなければいけないだろ?】

そう、だよね…。どうしたらいい?

【お前はただ、触れるだけ。触れるだけでいいんだ】

触れるだけ。

それで何かが変わるのだろうか?

【そうだ。さあ、触れろ。私を“解放”しろ】


その瞬間、私の意識が強引に引き剥がされる。


*****


『頼む。ここで手を引いてくれないか?』


次に目覚めた時には、何かが終わっていた。


目覚めた視界の先には、片腕をなくしてぐったりとしている先ほどの人と、その人物を支えるもう一人の新手だった。

冷静だが、どこか疲れたような表情でこちらの様子を伺っている。

そして、その新手の顔は……私の知っている人だった。


「お、お姉さん…」


大きく目を見開き、私は思い出すように名前の知らない知人を呼んだ。

この人を、私は知っている。半年前、ユーステス樣と私が失踪したらしい事件のさなかに会っていた、とても美しい人。

イヴァンと再会した時には既に消えていたその人と、まさかこんな所で再会するなんて。


私の声色に何かを感じたのか、急に安堵した表情を浮かべるお姉さん。

だが私自身、自分の記憶が全くなくてこの状況を飲み込めず混乱していた。


「なんでいるの…?そ、それに腕が…?」


目の前にいた怒りを感じていた人は、意識を無くし…おまけに右肩から下の腕は失われていた。

血は全く流れていないが…その代わりに台風のように回転している白いモヤのようなものが、右肩付近を覆っている。

それがこの人は『人ではない』という事を、より印象づけていた。


『ああ、魔力を奪われて形を成してないだけだ。すぐに修復するので問題はない。心配するな』


私を安心させようするように、柔らかい口調で説明するお姉さん。

腕の欠損は私が原因だと思うと、どこかバツが悪い。

とりあえず、腕が治るものであるならばよかったと、胸を撫でおろす。


『本当はきちんと説明するべきだが…そろそろ限界なのだ』


お姉さんは申し訳なさそうに言った瞬間。

急にお姉さんを中心として―――透明な魔方陣が現れる。

アルファベッドや漢字とはまた違う文字の羅列が施され、それらはクリスマスに見る電飾を彷彿させるように…ランダムに点滅していた。


今でさえ状況が理解できず混乱中なのに、これ以上増えてもらっても困るんだが…。

理解不能な私の顔を見て面白かったのか、お姉さんがクスリと笑う。

この状況で笑えるなんて…と私は力なくへへっ…と乾いた笑いを返してしまった。


発動した魔方陣は、下から徐々に白くなっていき…お姉さん達を丸ごと包み込もうとしている。

あまりにも唐突すぎる状況に対し、もう頭が追い付かない。

キャパオーバーした機械のようにぼんやりとしている私に、腰から下まで白い光に包まれたお姉さんが、思い出したように言った。


『アドニス』

「え?」

『私の名前だ。覚えておけ、カメリア』


それから少し呆れたように笑いながら、お姉さん…アドニスは最後にこう付け加えた。


『お前が渡したものは…美味だったぞ』


その言葉を境に、お姉さん達は白い光に包まれ―――その光は一瞬にして消えてしまった。

お姉さん達が消えてしまった後、『どういたしまして…』と届く事のない返事をする。

色々あり過ぎて、正直追い付いていないが。


ふと、先ほどのまで忘れてしまっていたローズちゃんを思い出し、私は慌てて様子を確認するために彼女のそばに寄ってみる。

気絶したままのようだが、呼吸は安定しているしさっきよりも顔色は良いみたいだ。

とりあえず…問題は解決したってことでいいのだろうか?


「はあ~よかった~」


今までの疲れがどっとやってきたのもあり、私は休憩も兼ねてローズちゃんの隣でごろんと大の字を作る。

しばらくして、誰かが私の名前を叫びながらこちらに近づいてくる。


ゆっくり起きてみると、遠くから3人の少年らしき人物が見えた。




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