悪ー壹ー
前回までのあらすじ。
僕こと“悪殺し”であるサツキは一ヶ月前“悪”を引き寄せる“アクヨセ”であるサヤさんを殺すことに失敗し、それから一ヶ月経った昨夜も失敗してしまったのであった。
しかも今回はなぜか当の本人は記憶を保有したままであり、僕が“悪殺し”であるということもまたもやバレてしまうのであった。
そして現在。
まだ夜が明けたばかりの時間。
「キャーッ!かわいいー!」
彼女はハイテンションであった。
「お人形さんみたいにちっちゃくてなんて可愛らしいの!このまま持ち帰りたいくらいだわー!」
そのサヤさんをそこまで言わせてしまう原因は彼女が抱きしめている女の子。
桜色の短冊調とした髪型に水色のその丈に合わないくらいの袖の長いジャージを着た目が赤い女の子。
僕が住んでいる家の同居人、コノエさんだ。
見た目は確かに中学生くらいの背格好で、可愛らしい容姿をした彼女ではあるが。
その目は明らかに殺意を込めたものであるとヒシヒシと伝わっていた。
〜数分前〜
僕が家に帰る途中に出くわしてしまったサヤさんに全ての事情を話すことにし、家に上げたのが始まりだった。
家のドアを開け、玄関に入るとそこにいたのは誰であろうコノエさん。
いつもはこの時間帯は寝ているはずなのにどうして今日に限って起きて待ち構えているんだこの人は、と僕が思う頃に。
「キャーッ!なにこの子凄くかわいい!!」
と、サヤさんが突然テンション上げて抱き着いたのだ。
あまりの出来事に僕と、コノエさんまでもが状況の整理に時間が掛かってしまった。
〜〜〜〜〜〜
アレ?若干カナデさん化してないか?この人。と思う僕だがそれよりも気になることがあった。
それはサヤさんのコノエさんに対する反応。
一ヶ月、まだサヤさんを殺す前の時にも一度この家に連れてき、その時にもサヤさんとコノエさんは会っていたのだ。
だがその時はサヤさんはなりふり構わずコノエさんに抱き着いたりはしなかった。
これは二度目という異例の悪殺しによる反動の副作用によってのものなのか、はたまたは別の理由なのか…。
僕がそのことに関して結論を導く前に並々ならぬ殺意を前方から(てかコノエさんから)感じたため一度思考を中断し、サヤさんをコノエさんから引き離すことに専念することにした。
「サ、サヤさん。そろそろ離していただけませんか?コノエさん苦しそうですし…」
実際当の本人は表情一つ、眉一つも動かしてはいないのだが余程苦しいのだけは伝わってきた。
「あー、ゴメンねコノエちゃん。また後でねー」
そう言ってサヤさんはようやくコノエさんを解放した。
と、同時に。
突然コノエさんはサヤさんの顔面目掛け蹴りをお見舞いしようとした。
慌てて静止にかかる。
「うわー!ちょっと待ってくださいコノエさん!!」
ドガッ!!
なんとかギリギリで受け止めたが静止に掛かったというより生死に関わるものであった。
受け止めた方の手の感覚が無いんだけどこれもしかして折れてるんじゃないの?
っと、今はそれどころじゃないんだった。
「気持ちは分かりますけど今は事情が変わったんです。そこの説明とかもしたいので今は堪えてもらえませんか?」
サヤさんには聞こえないよう、コノエさんの顔近くで小声で伝える。
そう言うとしばらくして、分かってくれたのかコノエさんは足を下ろしてくれた。
が。
ドゴォッ!!
と、思いっきり鳩尾目掛けて右ストレートをお見舞いされた。
「ぐぼぉっ!?」
そんな情けない声を上げ、僕はその場に崩れ落ちる。
コノエさんはというと何食わぬ顔で、無表情で、そのままリビングへと入っていった。
「で…ではリビ…ングへ…どう…ぞ」
お腹を押さえつつもよろめきながら立ち上がり、僕はサヤさんを我が家のリビングへ案内した。
「う…うん。ありがと…」
その時のサヤさんの苦笑いはいつまでも忘れられそうになかった。




