表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪殺し -悪を引き寄せる話-  作者: 皆口 光成
10/23

悪ー玖ー


粛清ノ時ハ来タレリ。


粛清ノ時ハ来タレリ。




我等イコル教は今日、ユニアドに天罰を下す。

対象はユニアドに住む者、ユニアドに加担する者、全てだ。

そこに女、子どもなどの区別はしない。皆天罰を受ける対象である。




それに対し我々を“悪”と見なす者もいよう。だが別に否定する気はない。




元々我等は宗教集団ではなく、歴史ある差別の酷い国の革命者、レジスタンスの集まりだった。




『全ての人間は平等である』




その言葉を掲げ、我等の先人達は立ち上がった。




レジスタンス活動により見事差別を無くすことに成功した。王政に反旗を翻し、当時の国王を殺し、そして自らが王となることで。

だが問題はあった。




別の差別が起きたのだ。




その理由は様々で、目の色、鼻の長さ、耳の形、顔立ち、髪の色、言語、思想、性別…と多種多様であった。

ただ身体の一部が、考えが、性別が違うだけで起こった差別に当時王となった我等の教祖は愕然としたらしい。




そしてある考えに至る。




『皆の全てを平等にすればいい』




まず最初に行ったのは見た目の平等化。これは体に布か何かで覆い、肌一つも見せないほどにした。これにより見た目の差別が無くなった。




次に思想の平等化。これは国に新たな宗派を立ち上げることで解決した。

それこそがイコル教の始まりだった。




国からの支持を得られるイコル教はあっという間に広まった。その理由は分かりやすい教えというのもあるが、何より国からの生活の援助が受けられるのが大きかったのだろう。




当時のイコル教の教えはこうだ。


『人間は皆平等である』


『人間に差などはない。身分も位の高さも能力も平等でなくてはならない』


この二つの教えだけだった。




なお、この教えに反する者、脅やかす者は異教徒と見なされ容赦無く処罰の対象とされた。

その理由もまた教えと同様二つあった。




一つは何かしらに突出した者が率先して反旗を翻すのを防ぐためであった。




長い歴史の中、一国の王やその国に反旗を翻す者は大抵普通の人間とは明らかに違う何かしらの力があった。

それが単純な力や能力、知力、権力と様々だった。

その危険因子を若い芽のうちに潰しておいたのだ。教えに反する異教徒だと称して。




二つ目はこれは皮肉なことに王自身がその教えに反する存在であったことだ。




全ての身分と位、そして能力を平等にすると宣言する者自体がそもそもあらゆる面に突出していたのだ。

差別を無くすため仕方なく王となったわけだがこれは迂闊にも程があった。




このままではいずれ自分が異教徒として処罰の対象となる。そう怖れた我等が教祖はある手段に出た。




異教徒への容赦無い制裁、つまりは自分の力を見せつけたのだ。




自分の言った教えに逆らえば例え誰であろうと処罰の対象だ。自分に逆らえばこうなるのだ、と。




それを見た人は王への忠誠心と尊敬、畏怖を同時に感じたという。

そして誰も王を異教徒とは言わなかった。いや、言えなくなった。




こうして自らを異教徒としながらも立ち上げたイコル教は長い、長い年月を経て──。




そして現在に至る。




かつてイコル教を立ち上げた国は随分と前に滅んだ、と言われている。

だがその教えはまだ生きている。こうして、我等の中に。




活動内容は昔ほど過激では無かった。まず自分たちの宗派の素晴らしさを語り、勧誘する。それだけだ。

そこに暴力といった無理強いはしない。来る者拒まず、去る者追わず、という姿勢であった。




ある時は差別を受けているとの報告を受け、その場へ赴き差別を無くす活動を率先して協力した。

その活動に大小をつける気は無いが、時には学校でのイジメから時には国家間の差別まで。

広い範囲に活動をしていた。




そんな折、ある噂を聞きつけた。




ユニアド学園都市化計画。




全国から何かしらの能力に秀でた者を集め、育て、その能力を向上させようというものだった。




最初はそれほど気にはしていなかった。




昔ならいざ知らず、今のイコル教は穏健派なのだ。無闇矢鱈と首を突っ込むものではない、とその時は判断した。



昔は昔、今は今だ。そう、思っていた。

だがそれは誤りであった。




ユニアド学園都市化計画の裏では何やら兵器を作られている、という噂が入ったのがキッカケであった。

そこで調査をすると驚くべきことが判明した。




なんとユニアドは自国に黙って自身が調べ、研究したユニアドの生徒たちのデータを海外に売っていたのだ。

しかも、戦争中の国に。




この国では基本武力の所有は禁止されている、なのにユニアドで保管されているデータのほとんどは全て軍事技術と遜色ないものであったのだ。




さらに、だ。




ユニアドの技術を向上させるためユニアド学園はその街の優秀な人材を取れるだけ取り、生徒たちの能力研究、ひいては技術向上に貢献させられた。




その結果ユニアド学園から遠い地域では次から次へと失業者が生まれ、絶対的な差別が自然発生的に出来上がったのだ。




さらに、さらにだ。




ユニアド学園で育てられた、研究された生徒たちは全国から狙われだした。

まだ子どもにして大人顔負けの能力を持ったユニアド学園の生徒たちはあらゆる方面から欲しがられていた。




企業、宗教、そして戦争。




この時、我等始まりのイコル教の教えを思い出す。




『人間は皆平等である』


『人間に差などはない。身分も位の高さも能力も平等でなくてはならない』




これの意味を痛感せざるを得ない。




あぁ、こういうことか。

これが我等が教祖が恐れていたことなのか。

これのどこが平等なのだ?ユニアド学園に近い、言わばユニアド中心部はほとんどは富裕層に対し、ユニアド外周部は家も無い、家族もいない、居場所も無い、まるで街から捨てられたようなものではないか。




生徒の突出した能力を向上させる?向上させているのは街の技術ではないか。あまつさえその技術を他国の、しかも戦争中の国に与え争いの助長までする始末。




学園にいる生徒たちもそこに入ったが最後、一生全国から狙われる運命を背負い続けるのだ。




これは…一刻の猶予もない。今すぐに対処する必要があった。

多少強引であろうとも成し遂げなくてはならない。このまま放置を続けていればいずれはユニアドは全ての争いの火種にもなりかねない。




それだけは阻止しなくてはならない。それだけは。




我等はイコル教。




全ての人間は皆平等でなくてはならない。

そこに上や下、優劣をつけるべきではない。




我等はイコル教。




全ての人間は皆平等で差別などしてはならない。

人間に差などはない。あってはならない。




我等はイコル教。




全ての人間は皆平等で幸せでなくてはならない。

人間に不幸など与えることはもちろん与える存在も許してはならない。




もし、そのような危険因子が存在したならば。




我等、イコル教の教えにより。




粛清せよ。




粛清ノ時ハ来タレリ。


粛清ノ時ハ来タレリ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ