73 若きフェルの悩み
「ねぇティルク・・・。僕は、どうしたらいいんだろう。」
フェルは、悩んでいた。
バーンが、ゼペットの弟子になることに不満はない。
むしろ、喜ばしいことだと思うし、それ以上に羨ましいと思うのだ。
自分の夢に、自分の力で挑んで力をつけて行っている。それが、輝いて見えるのだ。
クリスもこの1か月で新しい力を手に入れている。
もちろん、まだ実践で使えるレベルではないけれど、それでも着火や水滴の魔法が使えるできるだけでも格段にハンターとしては便利になる。もちろん、クリスが目指しているのはもっと上のレベルだ。
どういう系統の魔法を覚えていくかはまだわからないが、やる気も満々だ。
時間はかかるかもしれないが、間違いなく何かをものにするはずだ。
少なくとも、フェルはそう確信していた。
「僕は、魔法が使えないからな・・・」
フェルは自分が何も成長できていないと思っているのだ。
もちろん、剣術の腕などは格段に上がっているのだが、フェルには実感があまりない。
ネールなどは、成長を実感できても、やっている本人は同じようにあしらわれているから、成長していないように錯覚しているのかもしれない。
また、フェルに中で”転送”はあくまでティルクの技能であって、自身の力量とは関係がない。
「フェルはフェルだから、いまのままでいいと思うけど・・・」
ティルクの感覚は、フェルとは大分違う。
自分が見えるのも話せるのもフェルだけだし、”転送”もフェルだけしか使えない。
他の2人がフェルを見る眼をみていても、おそらくフェルが思うのと真逆の事を思っていたように思う。
まぁ、ティルクにとっては、別にどうでもいいことだが。
「そんなに魔法が使いたいの?だったら、精霊にもっと助けてもらったら?」
ティルクは何気なく話すが、フェルは何を言われているのかよくわからなかったようだ。
今までも、ドリュアデスやシルヴェストルには十分助けてもらっている。
フェルの矢が異様な命中率を誇るのはシルヴェストルのおかげだし、ドリュアデスは植物の蔦などで獲物の動きを封じてくれたり、木の枝で攻撃してくれたりもする。
フェルに見える時だけなので、いつでもどこでもというわけにはいかないが。
「フェルには、ドリュアデスやシルヴェストルしか見えないみたいだけれど、精霊はもっとたくさんいるし、お話しをすることだってできるのよ。」
「それは、ティルクが妖精だからじゃないの・・・」
「うーん。どうなのかなぁ・・・シルヴェストルとかはフェルに良く話しかけてるけどなぁ・・・。」
「そっかぁ・・・」
そうは言われるものの、どうしていいかはわからない。
「まぁ、今度ちょっと気にしてみてみようかな・・・」
良くわからないがゆえに、少し楽になった気がした・・・。
・・・・
翌日の朝、”暁のカルテット”の4人はいつもより早くからギルドに来ていた。
依頼板や採取の値段を確認するのと同時に、フェル達を待つためである。
予想はしていたが、護衛などの依頼が中心で、そうめぼしい依頼はない。
気をつけるべきは、注意情報が出ているエリー湖方面だろう。
ただ、リハビリを兼ねた4人はそこまで行くつもりはないので影響はなさそうだ。
1ヵ月もギルドを開けていれば、確認しておくことや話したい常連も結構いる。
フェルとクリスがギルドに顔を出すのは、結構遅かったが暇というほどではなかった。
「お、フェルとクリス。いいところに来たな。
今日、時間あるか?」
朝から待っておいて、いいところも何もないのだが、ウェンツはそんなことを匂わせない。
「ええ、僕は空いてますよ。今日は弓の練習をしようかと思ってたぐらいです。クリスは?」
「私も、特に何もないといえばないわ。しいていえば魔法の練習だけど。」
「じゃぁ、ちょっと今から一緒にメリアの森に行かねぇか?
カティアのリハビリ兼ねてな。」
クリスが、少し胡散臭そうな眼でウェンツを見る。
「メリアの森なら、ウェンツさん達だけで問題ないでしょうに。」
「いや、そうなんだが、今回は様子を見ながら奥の方まで行けそうなら行こうと思ってる。
もちろん、フェルの収納もあるけど、いざというときに戦力が欲しいんだ。カティアがどれだけ動けるかわからんからな。メリアだと中々一緒に行ってもらえる気心しれたやつっていなくてな。
あ、なんなら採取の取り分は、パーティーで等分でいい。お互い悪い話じゃないと思うぞ。」
「まぁ、特に予定もないし、近場だし、特に危険というわけじゃないし・・・。どうするフェル?」
「ん。いいじゃない。行こうよ。僕も実戦に行きたいし。」
訓練は、所詮訓練である。実戦のほうが間違いなく経験になる。
たとえ、それが角うさぎであろうと、やはり研ぎ澄まされる勘というのか感覚が違うのだ。
リハビリが必要なのはフェル達も同じである。
それに、クリスとて少し意地悪な言い方をしたが、暁のカルテット4人を嫌っているわけではない。
ただ、ちょっと牽制をしておかなければいいように利用されてしまう可能性はある。
そんなに獲物がいるかどうかはわからないが、配分も、実質こちらが2倍の報酬なわけだから悪くない。
フェル達は、暁のカルテットと狩りに行くことになった。
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