70 それぞれの道2
バーンはゆっくりと、丁寧に言葉を選びながら話をし始めた。
「僕は・・・、すごく悩んだし、考えたんだが、ゼペットさんの所で修行をしたいと思っている。」
フェルとクリスはそれを黙って聞いている。
ティルクも机の上に座りながらバーンの方を睨むような感じで見ていた。バーンからは見えないのだが。
二人とも、想定していた答えなのだが、かといってやはり直ぐに対応ができなかった。
それは、パーティーの解散を意味するから。
「そう。やっぱりね。」
ため息のようにクリスが言葉を発すると、フェルのほうを見る。
「うん・・。そうだよね。」
フェルも何を言っていいかわからずに、とりあえず頷くような形でつぶやく。
「二人には、申し訳ないと思っているんだ。
だけど、こんなチャンスはめったにないと思っている。
緋毒の対応だけ見てもそうだし、前に手伝ったときもそうだった・・・。ゼペットさんは僕の知る中では一番のすごい薬師なんだ。
僕は、自分の店を持つ事が夢だった。
フェルやクリスと出会って、楽しかったし夢にも近づいていっているのを実感していた。
短い期間だったけど、お世辞抜きに、すごく楽しかったし、充実していた。
だけど、このまま店を持つ事ができても、多分僕は後悔すると思うんだ。」
最初は、うつむき加減で話していたバーンだが、途中からはフェルとクリスをしっかりと見つめて話をしだした。
「今回の緋毒にしても、ゼペットさんがいなければ大変な被害なっていただろうし、兄貴たちの対応を見ても、自分の目指していたものとの差をはっきりと知ることが出来た。
僕の夢は、店を持つことではなくて、独りでも多くの人を救いたいんだと思ったんだ。」
フェルとクリスも黙って頷く。
独りでも多くの人を助けたいという気持ちは、今回の件で、よくわかったのだ。
「だから、本当に勝手を言って、申し訳ないんだけれど勝手を許して欲しい。」
そういいながら、二人に白金貨を1枚づつ渡そうとする。
今回の報酬として受取ったものだ。
「ちょっと、やめてよ。
今回は、大変だったけど、どう考えてもバーンのおかげですごく儲けさせてもらったわ。
白金貨なんて、はじめて触ったし。
それに、別に弟子になったからって、縁が切れるわけじゃないでしょ。
どっちかというと、今後はもっと協力してもらわないといけないぐらいに。」
「そうだね。バーンの選択は、わかるよ。
それに、どちらかというと、僕らにもメリットが多いことも。
優秀な薬師が街にいるかどうかは、重要だし、今回の件でバーンが魔法薬を随分作れるようになったことを考えれば、危険なハンターを続けるよりも安全だしね。
昨日オーギュストさんが、ものすごく喜んでいたしね。」
オーギュストも昨日フェルに話しかけてきていた。
むろん、バーンのことを強要するようなことは立場上言わないが、バーンが魔法薬を作れることは、ギルドにとっても他のハンターにとってもありがたいことであり、期待を寄せていることは感じ取れた。
「僕も、田舎から出てきて、最初に組んだメンバーだし、訓練も岩蜥蜴やリザードマンとかを倒した時もしんどかったけど、今思えば楽しかった。だから、なんか頭ではわかっているんだけど、気持ちが晴れないんだ。ごめん。」
フェルは、謝った。仲間の吉報なのだから、喜んで送り出そうと昨日決めていたのに、できなかった。
「まぁ、たまには息抜きや材料集めもいるだろうから、そのときは、また一緒に行きましょう。
フェルも、別に別れってほどじゃないでしょう。同じ街にいるんだし。」
そういいながら、クリスは、フェルの肩を大きくはたいた。
バチーンと大きな音がし、フェルは肩をさする。間違いなく服のしたには大きな手形がついたはずだ。
これもクリスなりの優しさと照れ隠しなのだろう。
「で、このお金は受取れないわ。手切れ金じゃあるまいし。
とはいっても、今までの配分の件もあるからね・・・。
じゃぁ、私たちには薬を原価で売ってくれるって言うのはどう?もちろん修行が終わってからでいいわ。
あ、別に横流しとかはしないから安心して。」
「出世払い・・・ってことか?」
「そうね。投資みたいなものよ。魔法薬がずっと原価で手に入るなら、安い物よ。」
それは、間違いがない。例え効能が短かったり効果が弱い劣化魔法薬であっても、安くはないのだから。
だが、これもクリスなりの配慮だということはフェルもバーンにもわかっていた。
「わかった。安い買い物だったと思わせてみせるよ。」
バーンは、そういうと白金貨をしまった。
「バーンの進路は決まったけど、あとは私たちがどうするかよね。」
しばらく、話をした後にクリスは、フェルに問う。
エドガーとリュークのようなベテランならともかく、フェル達2人で組んでやっていくというのは得策ではない。配達依頼を受けて食いつなぐのも悪くはないが、フェル達の実力では行けるところが限られていておいしくないのだ。
「一応は、エドガー達にも、暁のカルテットにも誘われているよ。」
なるほど・・・。フェルの収納魔法はどちらにも魅力があるし、エドガー達にはクリスも世話になった。
カティアはまだよく知らないけれど、暁のカルテットのメンバーも気が置けない仲になっている。
ここで、フェルと別れるのはクリスとしては避けたい。
悪い意味ではないが、彼がいるのといないのでは、稼げるお金が全然違うのだから。
ただ、これではクリスはフェルの“おまけ“扱いのような気がして、そこがちょっと気になっていた。
「ねぇ・・・フェル。
どちらと組むにしても、ちょっと相談があるの。
今なら少しお金もあるし、私フェスカさんの訓練を受けたいの。フェルも一緒に受けない?」
「うーん。僕は魔法はちょっと・・・。
だけど、確かにこの1ヵ月ずっと家の中だったからなぁ・・・。昨日ネールさんにも、ちょっと顔を出すように言われたし。じゃぁ、クリスがフェスカさんの訓練を受けている間、僕はネールさんの訓練を受けたり、誰かと近場で採取でもするよ。」
「うん。わかった。」
クリスは、ちょっとほっとしていた。
それは、フェルがクリスと一緒であることが当たり前のような反応だったからだ。
フェルは、整った顔立ちをしているが、まだあどけなさがありクリスにとって魅力的な男性という風には思っていない。同じくらいの年なのだが、子供に見えるのだ。
クリスの好みは、暁のカルテットのギルのようなタイプだ。寡黙で少し陰のあるお兄さんタイプ。
リュークも悪くないのだが、流石に年齢差がありすぎだ。
では、弟のようかといえば、それも違う。ただ、ほっとしたのである。
・・・・
こうして、バーンはゼペットの弟子として薬師の道を進むことになる。
まだ、魔法薬は日持ちもせず即効性の薄い物しかつくれないが、その分安いため、ギルドでは売れ行きも順調で感謝されている。もちろんフェル達だけには、原価での提供だ。
ギルモアからわざわざ薬師が、ゼペットの元に教えを学びに来て、年上の弟弟子ができたり、薬草風呂の素が大流行をして、エリアの街の風呂屋で“薬湯”という他の都市にはない文化が生まれたりするのだが、それは別の話であった。
読んでいただきありがとうございます!
見事に、最初のプロットと違う形で話が進行しています・・・。(困ったもんです。)
薬師は、面白い能力なんですがね・・・。
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