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僕は、魔法が使えない。  作者: アーシェス
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68 バーンの悩み

緋毒の収束宣言がされたのは、フェル達のギルモア滞在からおおよそ1か月たったころだった。

フェーンとクロウズが来てからは、重篤な患者が出てもすぐに薬が配られ、”緋毒”とよばれた疫病は一気に収束していったのだった。


「今回は、大変助かった。ギルバート伯爵からも報酬が出ている。

後日、代表してゼペット様には勲章の授与がされるとのことです。」

ギルモアのギルドマスターカシューが、ゼペットと”暁のカルテット”の3人とフェル達にそう告げる。

カシューは、そういうと大きな皮袋をゼペットに渡した。配分はまかせるということらしい。

「評価ポイントも、今回は特別になる。魔法学院の協力があったとはいえ、大災害になるところだったのを防いだ功績は大きいからな。特にバーン。よくやった。」


「おめでとうございます。」

バーンのハンターカードを返却される際に、受付の女性が話しかける。

ハンターカードの帯の色が変更されており、ランクがFに変更されていた。

今回は、フェル達と魔法薬を作ったバーンで評価ポイントに差が設けられたようである。

バーンは、驚きと喜びを隠せないようだ。なにせGランクになってからFランクになるまで3ヵ月かかっていない。かなりのスピードでのランクアップなのである。

ランクアップこそしなかったが、フェルとクリス、”暁のカルテット”の3人にも、かなりの評価ポイントが入った。そして、さらに驚いたのが、ゼペットから配布された報酬であった。

1人白金貨2枚が配られたのだ。白金貨は金貨100枚に相当する希少金貨である。金貨よりもかなり大きいのは、材料であるミスリルという希少金属と金との価値を重量で揃えたためである。

”暁のカルテット”は、一度配られた白金貨2枚を、ゼペットへの依頼料として回収されるのであるが、それでもカティアの命まで助かった上に、大きな収入を得ていた。


ゼペットおよびフェーンとクロウズには、ギルバート伯爵より勲章の授与、そして今回の功労者へは晩餐会への招待がされることとなり、その準備が整うまでの3日ほど、皆はギルモアの街を観光することになった。

ギルモアの街は、商業都市であり様々な工房や店が立ち並んでいた。

また、運河が発達しており、街の中の輸送を小さい船で行っているのだが、その光景がなんとも絵になる。街のいたるところに公園があり、吟遊詩人や大道芸を行う者までいた。

エルアも大きな街と思っていたが、ギルモアを見た後では霞んでしまう。

それぐらいの規模に差がある大都市であった。


ティルクは、様々なところを興味津々と飛び回って落ち着きがない。

まぁ、この1ヵ月はずっと暇をしていたのだからしょうがないといえばしょうがない。

バーンもフェーンと近況報告をしあったり、講義を受けているようだ。

そして、クリスはというとティルクと同じように、見るものすべてに興味を持って色々触ったり聞いたりしていた。

やっと、訪れた平和な時間であった。




・・・・




晩餐会

本来は優雅なドレスを纏ったり正装をして参加をするものだが、今回呼ばれるのは平民やハンターが多いため、事前にギルバート伯爵よりドレスコード不問で気楽な立食パーティーとして行うことが通知されていた。これは、伯爵なりの気の使い方である。


「本日は、ようこそお集まりいただきました。この度の疫病の対応、まことに感謝申し上げます。

今宵は、ささやかですが食事を用意いたしましたので、ぜひご堪能下さい。

なお、本日は気楽なパーティー形式とさせていただきますので、堅苦しい作法等は一切不要にさせていただきます。純粋に料理等をお楽しみください。」


初老に近い男性の挨拶によって、パーティーははじめられた。あれが恐らくギルバート伯爵なのだろう。

そして、壁際のテーブルには、数えきれないぐらいの料理が大量に用意されていた。


「すっごい御馳走。みて・・・この食べ物すっごくおいしい。」

「慌てなくても、無くならないから。ゆっくり食べろ。」

”暁のカルテット”のニースとギルが用意された料理に齧り付きながら会話をしている。

クリスは、ひたすら黙々と料理を食べているし、ウェンツは出された酒の味に舌鼓をうっていた。

フェルは、このような晩餐会などに初めてでたので、戸惑いを隠せずそわそわしていたが、クリスに勧められた料理を食べてからは、無言で様々な料理を食べるとすぐにクリスと同じく黙々と食事をすることとなった。

「おいおい・・・。気持ちはわかるが、ちゃんと伯爵に挨拶しろよ・・」

そういって、メンバーを伯爵のところまで連れてくれたのはギルドマスターのカシューであった。

ガチガチに緊張をしていたのだが、伯爵はそれを見越して、平素に対応をしてくれているのがわかった。


伯爵との会話の後、フェル達はカシューと様々な話をする機会に恵まれた。

元A級ハンターであり”雷神”の二つ名でたたえられた男である。

多くのハンターの憧れでもあるし、滅多なことでは話す機会などない。

「特にバーンよ。お前さんランクアップしたらしいが、そういう時が一番危ないから注意しろよ。

ランクアップしたら急に強くなった気になって、失敗するやつとか多いからな。」

段々、酒も入ってきて説教に近くなってきたが、一つ一つの言葉は間違いなく金言であった。




・・・・




「え?!本当ですか?!!」

バーンが驚いて馬車の中で声をあげる。

エルアの街へ帰り道、突然ゼペットがあることを言い出したからだ。


「そろそろ、儂も引退を考えておる。そこでな・・・バーン。儂の弟子にならんか?」

ゼペットは、確かにもう年齢的にも老齢といってよい。今回の旅の行程もかなりしんどかったはずだ。

かねてから、引退自体は検討をしていたらしい。

ただ、後継者もいないし、いくつかの薬はゼペットしか作れなかったり、古くからの客もいるため、なかなか踏ん切りがつかなかったという。

だが、今回の”緋毒”の件があって、あらためて後継者の必要性を考えたのだという。

確かに、ゼペットが治療薬の作り方を知らなければ、エルアもギルモアも被害は数十倍いや下手をすれば数百倍であったはずである。


バーンはまだ未熟である。しかし、ゼペットにはない魔法の才能がある。

そして、教えればいくらでも伸びるとゼペットは実感をしていた。

それに、実は今回ゼペットは結構な収入を得ていた。報酬として得ていた白金貨は20枚。

フェル達に配分をしたが、10枚は自分のものとした。依頼内容や労力としては正統だと思うのと同時に、”暁のカルテット”とのバランスを取った形である。

一生安泰・・というほどではないが、金には余裕ができているのも次世代育成をしたいという要因でもあった。


バーンにとっては、とてつもなくありがたい申し出であった。

ゼペットの薬師としての腕は、魔法学院から見ても賞賛されるほど。

実際に、疫病から救った実績からも疑いようもない。そんなゼペットに師事できるというのは僥倖だろう。

しかし、それでは、今までのようにフェルやクリスとハンターとしては活動できなくなる可能性が高い。

バーンの悩みは、エルアの街につくまで続くのであった。



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