60 先輩ハンター1
「メリアの森に行きたい?」
1日の休暇のあと集った3人は、バーンからの提案を聞いていた。
「まぁ、別にいいけれど・・・どうしたの?」
メリアの森は、本来であれば3人にとって適切で安全な採取場ではあるが、今までの経験からすればちょっと物足りなく感じる。
バーンは2本の木筒を出し、フェルとクリスに一本づつわたす。
「実は、昨日魔法薬の精製をしてたのさ。相変わらず上手く行かなくって、できたのは3本だけなんだけどね。で、材料がなくなっちゃってね。幸い、全部メリアの森で採取できるもんだからさ。」
魔法薬は、回復魔法のないフェル達にとってかなり貴重である。
それが3本。いざという時のために各自が一本づつ持つことになった。
「そういうことなら、行きましょう。」
金銭的には、まだ余裕がある。しかも、メリアの森ならそう遠くない。
即決であった。
・・・・
「今回、重点的に集めて欲しいのが、エノク草とエドク茸、そしてチコリの実の3つなんだ。
もちろん、他のものもあってもいいんだけど、優先してもらえると助かる。」
「それが魔法薬の素?」
「魔法薬というか、傷薬の素だね。魔法薬というのは“薬の効果を魔法で高めた物“だから。
でも、一応秘密にしておいてよ。こんなどこにでもある材料で薬ができると知られると、商売に影響するから。」
一般のハンターはあまり植物系に詳しくないし、地味でやりたがらないから、そこまで気にすることはないのだが、バーンは真剣である。
「わかってるよ。将来バーンのお店ができた時に、儲けるためにはね。」
まだ、バーンが実際に店を構えることが出来た先にフェルとクリスがどうするかは考えていない。
ただ、決まっているのは、バーンの店での利益の一部は共同出資者であるフェルとクリスにも分配されるということだけで、具体的な割合などもなにも決まっていなかった。
バーンお抱えで採取などをするのか、はたまた別のパーティを探すのか・・・・。
ふと、フェルはそんなことを思いもしたが、まだまだ3人にとっては”夢”の話であって現実味がない。
「それとね。ちょっと面白いものを開発したんだ。」
採取を続けながら、バーンは”薬草風呂の素”の話を二人にした。
これが上手くいけば、自分達の店を持つことにも一歩近づくからと話すバーンに、二人は尊敬の視線を送っていた。
「いや、僕は二人よりもお兄さんなのに、全然頼りないからね。これぐらいわ。」
そういうと、もくもくと採取を続ける。
確かに、戦闘などの面ではお世辞にも役に立つとは言えないし、口ではクリスに勝てないのだが、このパーティのリーダーは、やはりバーンであった。
・・・・
「ふう・・・これだけ集めれば上等かな」
フェルの収納の中には、かなりの量の薬材や素材が入れられていた。
一応、バーンの指導の下、獲りつくさないようには配慮しているが、しばらくはこの一帯で採取効率は落ちるだろう。まぁ、森は広いのでちょっと奥に行けば済む話だが。
「帰りましょうか。」
クリスがそういった瞬間に、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。
「こっちだ。」
バーンが森の奥を指差す。二人も木の奥に目を凝らすが流石に何も見えない。
「行きましょう。」
クリスはそういうと、森の奥に向かって走り出す。それに二人も続く。
走り出して、5分もかかっていないだろう。
そこにいたのは、武装した3人の若い男女と、5匹の猪のような牙が目立つ豚のような顔をした魔物<オーク>が戦っていた。
でっぷりとした腹、浅黒い肌、太く長い腕に湾曲した脚。
手には木を切るための巨大な鉈や斧、手入れがされているとは言いがたいが槍などを振り回すオークは、数もあって、3人の男女をジリジリと追い詰めていた。
2人の男は剣を持っているが、女性はバックラーと呼ばれる小さな盾を持っているだけである。
近くに、槍が落ちているからおそらく弾き飛ばされたのだろう。
フェルは、すばやく弓と骨矢を転送して出すと、矢をつがえ放つ。
矢は一体のオークの首に見事に命中すると貫通した。
「ブボォ」
突然の攻撃に驚くが、流石に皮下脂肪が厚いためか、首を打ち抜かれたというのに血が吹き出ない。
しかし、流石に二射目が心臓付近を貫くと大量の出血をして動きが鈍くなった。
その隙を逃さずに男の剣がオークの顔に突き刺さった。
クリスは、走りながらボーラをオークの顔に目掛けて投げつける。
本来の使い方とは違うが、顔に投擲されたボーラは錘の重量と遠心力でオークの頭に強い衝撃を与える。
そして、その衝撃を受けたままのオークの首に向かって、ククリナイフを一気に突き刺すと掻ききった。
バーンは、女性のところに駆け寄ると、オークを槍で牽制をする。
決して無理はしない。バーンは自分の実力を正しく把握していた。
だが、それでも女性が自身の槍を拾うには十分役にたっていた。
6対3。一気に形勢逆転である。
「すまん。恩に着る。」
リーダーらしき男が、オークとの距離をつめながらバーンに叫んだ。
フェルは、ゆっくりと間合いをつめながら、オークに矢を射続ける。
皮下脂肪が厚すぎるのか単に痛さに強いのかはわからないが、矢が刺さるにも関らず直ぐに倒れない。
それでも、4射目を受けるとさらに一匹が倒れた。
武器を取り戻した女性も含めた3人も、流石にここまで来れば問題がないようで、3人で一匹をしとめる。
クリスとバーンも上手く連携をとり、牽制する。そして、背後から駆けつけたフェルが剣を心臓目掛けて突き刺すと血しぶきを上げて倒れた。
・・・・
「いやぁ本当に助かったよ。」
そういって男女3人が握手を求めてくる。
3人とも歳はバーンよりも少し上ぐらいだろうか・・・。
3人ともそれなりに使い込まれた革鎧を着て武装していることからも、ハンターなのだろう。
「俺たちは、”暁のカルテット”っていうハンターだ。まぁ、今はわけあって3人だけどな。」
カルテットは四重奏を意味する。すなわち、本来は4人組のパーティーだったのだろう。
まぁ、なぜ3人になったかはフェル達には関係のないことだし、それを尋ねるのはマナー違反だ。
「まぁ、無事で何よりです。」
バーンはそういうと、3人を観察する。
大きな怪我はなさそうだが、ところどころに傷ができている。
「フェル。傷薬を出してあげて」
もちろん魔法薬ではない。初対面でしかも助けた相手に、そこまでサービスをする必要はない。
フェルは、さっと傷薬の入った紙包をリーダーらしき男に渡す。
「傷薬です。何もないよりはマシなはずです。特に女性の方は。」
即効性はないにしても、何も手当をしないのと比べれば随分マシである。
若い女性に傷が残るのはあまりいい気持ちのものではなかった。バーンは結構紳士なのである。
「さて、このオークですが・・・どうする?」
クリスが、”暁のカルテット”のリーダーに対して問う。
ここでいう「どうする?」というのは、配分のことをさしている。
オークは、評価ポイントもそこそこあり、かつ、この手の人型魔物には珍しく売れる。
半分豚や猪のようなものなので、食べられるのだ。
もちろん、先に敵を見つけて戦ったのは、”暁のカルテット”であるから、彼らは所有権を主張することも不可能ではない。自分達だけで狩れるのならば。
しかし、実際には窮地に追込まれ助けてもらっているし、実際に自分達が倒したのは2匹だけである。
だが、だからといって、その所有権をクリスたちが主張すればあとで「横取りをした」といわれかねない。
そのことがわかっていて、クリスは相手のリーダーに問うたのである。
この辺の駆け引きは、バーンはクリスに及ばない。商才という面ではバーンの方が優れているのであるが、なんというか・・・クリーンすぎるのである。
「本当なら、全部君達のもの・・・といいたいところだが、俺たちにも生活があるのでな。3:2でどうだ。もちろん君たちが3だ。」
妥当な線である。実際に倒した数でもそうだし、悪くない稼ぎになるはずだ。
クリスは他の二人が了解したのを確認して、了承をした。
「では、一匹は捌いて持って帰るとして、あとは回収依頼だな。依頼はこちらで出しておくから稼ぎはそこでわけよう。」
”暁のカルテット”のリーダーの提案を受けて、クリスはニマリと笑う。
時々フェルが寒気がする笑い方だ・・・・。
「その回収依頼。私たちが受けましょうか?依頼料は売値の1割でいいわよ。」
いつも応援ありがとうございます!
今週末で、連載1ヵ月になるんですねぇ。
思いたって、軽い気持ちではじめましたが、ブックマークや評価をいただいたこともあり、なんとか続けることができています。感謝です。
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