59 それぞれの休日2
「フェル~。朝だよ~。」
ティルクは、フェルの鼻の頭をツンツンしながら起こす。
いつもの光景だ。
「今日は、休みだからもう少し寝かせてよぉ・・・」
時刻は7時をすぎたあたりだが、日が出てからはもう1時間半は立っている。
「もう・・・しょうがないなぁ。あと半刻だけね。」
ティルクが、つまらなそうに口をぷくっとふくらませながら言う。
今日は、休みにして自由ということになっている。
フェルは、久々にティルクと買い物に行くことにしていた。
パーティーを組んでから、自由にティルクと話しながらというわけにはいかなかったのもあるが、弓をもう一度見に行きたかったのである。
ギルドから借りている弓は、そう悪くないが毎日銀貨2枚のレンタル料がかかる。
一時的に使うには良いが、どうせなら自分の弓が欲しい。
弓の引き方もかなりうまくなってきていて、無理なく引ける強さも大体わかってきていた。
それに、矢も補充しなくてはいけない。
クリスのクォレルと違い、フェルの矢は完全に消耗品だ。
フェルは、遅めの朝食をとると、以前に剣を買った武器屋を訪ねた。
ここならば、品質は間違いない。たしかここにも弓があったはずだ。
ガランゴロン。
扉をあけると、ムッという熱気と金属を打ち付ける音が伝わってくる。
「いらっしゃい。」
剣を買うときに接客してくれた線の細い中年の色白の男性が奥からでてきた。
「おや、あなたはリュークさんのお連れさんでしたっけ。剣に何か不具合がでましたか?」
どうやら、フェルの事を覚えていてくれたようだ。
「いえ、剣は特に問題ないです。」
そういって、剣を見せると、男は刀身をじっと見て
「ふむ。ちゃんと手入れされていますね・・・。ただ、ちょっとお貸しください。」
そういうと、剣をとると何やら液体をかけて刀身を拭き始めた。
「この剣は、”巖鉄”を付与したので、そうそう刃こぼれなどはしないのですが、やはり錆などで切れ味が悪くなるんです。特に、血は良く処理をしないと固まって切れ味を悪くするんですよ。
一応手入れはされていますが、時々持ってきてください。程度によりますが銀貨1~2枚でメンテナンスしますから。あ、今回はサービスだから大丈夫です。」
確かに、渡された剣は持ってきていた時とは別の輝きを持っている。
「だいたい、1ヵ月に1回ぐらいが目安ですね。ところで、剣じゃないとすると今日はどうされました?」
「実は、自分に合う弓を探していまして・・・。前に来た時に弓もあったなぁと・・・」
「ああ、なるほど。ちょっと種類は少ないですが確かに弓もありますよ。
どういったものをお探しです?」
そう聞かれてフェルは、自分に引ける弓の大体の強さと、リザードマンに矢が通らなかったことなどを話した。
「なるほど・・・。弓は確かに強さと使いやすさが反比例しますからねぇ・・・。
お仲間のようにクロスボウも選択肢ですが・・・。うーん・・・。
うちだと、おすすめはこれですかねぇ・・・・。」
そういうと、1つの合成弓を指した。大きさはちょうどギルドで貸し出しを受けているものと変わらないぐらいだが、材質が違った。
「これは、グダンの木に鉄を張り合わせて強化したものですね。お値段は金貨8枚。
威力は悪くないはずですが、鉄を使っている分引くのが大変になります。
うちで扱う弓はこれが最上なんですよ。」
少し引かせてもらうが、確かにちょっと硬い。
「もし、これ以上をお求めでしたら、専門店がいいでしょうね。
うちはどうしても鍛冶が中心なので数も少ないんです。クォレルなどの矢は結構お買い得ですけどね。」
クォレルは何度か利用できるとはいえ、確かにもう少しあっても良いように思う。
そこで、フェルはクリス用のクォレルを数本購入し、おすすめの弓の専門店を教えてもらった。
おすすめの店として紹介された店は、かなりギルドから離れた街はずれにあった。
店の大きさもさほど大きくなく、看板も申し訳程度の小さなものが出ているだけの店だった。
フェルは中に入ると、身体の引き締まった初老の男性がでてきた。
「いらっしゃい。ここは弓矢の店だが、要件はなんだい?」
どうやら、フェルが弓矢を買いに来たとは思っていなかったようだ。
フェルが要件の紹介先を告げると、男は少し驚きながら何本かの素朴な弓を持ってきた。
「この順番に弓を引いてみてくれるか?」
そういうと、小さい弓から順に手渡して弓を引かせていく。
そして、合計6本の弓を引かせると、満足したように店の奥に行き、しばらくして一本の弓を持ってきた。
ギルドの貸し出しの弓よりもやや小さく、やや歪な形をした複合弓である。
金属は使われていないが、なにやら動物の角のようなものが使われている。
「今度は、この弓を引いてみてくれ。」
弓は、フェルが力いっぱいで引いてちょうどいいぐらいの張り具合である。
「うむ。今は、ちょっときついかもしれんが、お前さんなら、これぐらいが丁度いい感じだな。慣れれば、連射も可能だろうよ。」
確かに、少し形が変わったことの違和感があるので、精一杯引かなければいけないが、慣れればそこまでのことはないのかもしれない。
「こいつは、この曲がった部分がバネの役目をするんで、引く力の割には威力が高い仕上がりになっている。もちろんクロスボウみたいな機械弓には負けるかもしれんが、その分早打ちが可能だ。
グダンの木に大角鹿の角を削ったものを貼り合わせていて、強度も申し分ないはずだ。
自分で言うのもなんだが、なかなかの技物だ。」
「それで・・・おいくらなんですか?」
「うむ。いくら・・・か。いくらなら買う?」
「いや・・・いくらといわれても・・・。」
フェルは何と答えていいかわからない。まるで禅問答である。
「うむ。そらそうだな・・・。うーん。金貨10枚・・いや8枚でどうだ?」
金貨8枚なら、今のフェルには痛くない金額だ。デザインはともかく引き具合なども悪くない。
そう思っていると、フェルが悩んでいると思ったのかさらに条件を良くしてくれた。
「じゃぁ、今なら大角鹿の骨で作った矢もサービスするよ。木製の矢よりも軽くて丈夫だ。」
骨で作った矢というのは、聞いたことはあるが、使ったことはない。
「あ、じゃぁそれでお願いします。」
そういうと、フェルは金貨を店主に8枚渡した。
意外と、あっさりと購入を決めたフェルに店主は若干驚いたようだが、大層喜んだ。
聞くと、この店は元猟師であった男が半ば趣味でやっている店らしく、場所も郊外にあることから、知名度がないためほとんど売れないのだという。
量販店ほどの品ぞろえがあるわけでも、魔法の品があるわけでもないが、弓の性能だけは自慢らしい。
どうも、工房の店主は遠縁にあたるらしく、それで紹介をしてくれたようだ。
「いい買い物が出来ました。」
そういうとフェルは、弓と骨矢の他に、店にあった矢を大量に購入した。
量販店の価格の半額以下であったからである。質も悪くなかった。矢はいくらあってもこまらない。
まさか、そこまでの買い物をすると思っていなかった店主は、自分の商売人としての才能のなさをほんの少し後悔していた。
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