58 それぞれの休日1
「え?お姉ちゃん本当に?」
クリスは、家族を街のレストランへ誘った。
レストランと言っても、ドレスコードのあるような高級店ではなく、普通の街の人が誕生日などの特別な時にちょっと背伸びをして行くような店である。
それでも、クリスの家庭では外食をする機会などはほとんどなかったため、弟たちは大変なはしゃぎようであった。
「ちょっと・・大丈夫なのかい?ご馳走してくれるのはいいけれど・・・。」
「大丈夫。今回は獲物が高く売れたのよ。
クロスボウもすごく役に立ってるわ。だからこれぐらいは大丈夫。」
「いいか。絶対に無理をするんじゃないぞ。多少稼ぎが多くても、怪我をしたら一気に大変になる。」
「うん。わかってる。でも、これでも結構強くなったんだから。安心して。」
クリスの父は、ケガで狩猟が出来なくなってしまった。
その経験とその後のつらさをクリスは十分にわかっている。
だからこそ、ほんの少しでも楽をさせてあげたいと思う。
金貨数枚で買える幸せ。
しかし、クリスにとっては、永年の憧れだったのだ。
・・・・
バーンは、再び魔法薬<ポーション>の調合に挑戦していた。
付与の技術が向上したわけではないので、相変わらずの成功率の低さではあるが、できた物の自体には満足していた。薬そのものの調合技術が上がっているのである。
今までは、薬材の乾燥のさせ方や加工の仕方が見様見真似であったが、今は明確なやり方や知識がついていた。まだわからないこともないわけではないが、確実に成長した実感があった。
そして、今回はもう一つチャレンジしたいことがあった。
“魔法薬の生成に失敗した傷薬の活用方法”の開発である。
生成に失敗したといっても傷薬も、使えなくはないのだが、どうしても効能が落ちてしまう。
現在の生成率だと、かなりの“失敗した傷薬”が出来てしまうのだ。
自分達で使うには量が多すぎるし、売り物にもならない。
もちろん、タダで配れば営業妨害になってしまう。
そこでニムロの村をヒントに考えたのが、「薬草風呂の素」である。
“失敗した傷薬“と柑橘類の皮を布袋に入れただけの簡単なものなのだが、繰り返せば切傷や擦り傷などに効果がある。いちいち患部に塗らなくてよいことから、意外と便利と考えたのだ。
中小規模の宿屋には、風呂がないことが多いため、ハンターや商人などの流れ者は風呂は風呂屋で入ることが一般的だった。街の風呂屋は、基本的に水洗い場がメインで、湯や湯船は大きな木樽で別料金で提供される。一応は何人かで使っても良いことになっているが、同時につかれるのは一人だし、1人がつかれば湯はかなり汚れる。そして湯量もそこまで多くないため、大体は一人が1樽を使う。
ニムロのような大浴槽は逆に街ではない。
血まみれのハンターから、旅の商人まで多くの人が利用するため、大浴槽では逆に不衛生なのだ。
また、大きな湯船を沸かすには、時間も費用もかかる。そのため、少量の湯を追加料金でというのは理に適った運営なのだ。
そのため、毎日湯につかる者は少なく、商売が上手く行った時や、疲れが酷い時などのちょっとした贅沢としてつかるものが多い。
早速試作品を10袋ほど作って、バーンはなじみの風呂屋にいき、銀貨1枚を払って湯舟を頼む。
湯舟に試作品1つ入れると、徐々に湯の色がきれいな緑色に染まり、柑橘系の良い匂いが漂う。
浸かってみると、湯がサラサラし、肌がつるつるする感じがする。
「兄ちゃん・・・それなんだ?」
隣の木樽に浸かっていた男が尋ねる。見るからに立派な体つきをしていいることから、同業者か・・・。
その匂いと湯の色、そしてバーンの気持ちよさそうな表情を見て興味深そうに声をかけてきた。
「ああ、試作品なのですが”薬草風呂の素”なんですよ。ちょっとケガをしましてね。傷薬の材料が混ぜてあるんです。細かい傷なんかには、直接塗らなくていいですし。もしよかったら使ってみます?」
そういうと、自分の湯舟から袋を取り出して渡す。
「お、いいのかい?」
「ええ、ちょっと分量が多かったのかもしれません。もう十分にエキスが出てますので。」
しばらくすると、風呂場には人だかりができていた。
「これは、気持ちがいいなぁ〜。」
「この香りはリラックスできる。」
「どこで売ってるんだ?これ。」
いくつかの試作品を使ったが評判は上々のようだ。
「な・・なにかありましたか?」
そういうと、騒ぎを聞きつけて風呂屋の主人が現れる。
「いやな・・・ちょっとこの”薬草風呂の素”ってのを兄ちゃんがくれたんだが、なかなか良くってな。」
風呂屋の主人が木樽を見て驚く。
「な・・なんですかこれ?」
「これ、どこでいくらで売ってるんです?」
風呂屋の主人がバーンに問い合わせる。
「いや、まだ試作品の段階ですし、まだ店を構えてないので売ってないんですよ。」
それを聞いて、主人は嬉しそうな顔をしてバーンを別の部屋へ案内する。
「これ、よければうちの店で売りませんか?利益は折半でどうです?いや、独占契約を結んでくれるなら、6:4で構いません。」
「それはありがたいですが、値付けが難しいですね・・・。」
「では、1回分を小銀貨3枚程度にできますか?」
「多分、1回の使いきりなら分量は今回の1/3程度でいいと思うんです。そうすれば、袋を再利用するなら、全然大丈夫ですね。」
「ああ、袋はかなり使いまわしできますから、中身をだけいただければ十分です。
それなら、重さで買取もできますので。」
「では、でき次第もってきますが、私も毎日来るわけではないので、足りなくなったらハンターギルドで指名依頼をお願いできますか?」
「なんだい?ハンターなのかい?」
「ええ。まだ駆け出しですが・・・ね。」
こうして、バーンは確実に商人としてレベルアップしていた。
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