52 私も魔法が使いたい。
「そうすると、ギルモアのギルドに付与系の得意な職員がいるんですね。」
ギルドに戻って、護衛依頼と討伐依頼の両方を報告をしたバーンが、フェスカに魔法技術の訓練依頼について尋ねていた。
ギルモアは、エルアから馬車で1週間ぐらいの距離にある大都市である。
ギルバート伯爵というこのあたりの辺境領の盟主というべき存在が納めている領地で、ハンターギルドもここより一回り大きいらしい。
そのため、魔導学院の卒業生も複数在籍しているらしく、フェスカの同級生で付与魔法の得意な”エンチャンター”がいるらしい。
「ただ、彼女は魔道具を作るほうが専門だから、魔法薬に関する知識はちょっとわかんないわよ。」
魔法は、属性によってかなり扱い方や覚え方が違うらしい。
攻撃魔法に多い”放出系”、回復魔法に多い”治癒・復元系”、肉体強化などの”強化系”、そして魔道具の作成や武器などへの”付与系”などは、同じ魔法という括りのなかでも魔法力の扱いというか捻り出しかたというかイメージというかが全く異なるのだという。
そのため、自分が扱えなかったり苦手な魔法は、人に教えることも難しいらしい。
「ちなみに、訓練依頼料というか受講料ってどれぐらい見ておけばいいのでしょう?」
「そうね・・・。少なくとも金貨30枚・・・。覚えが悪ければ100枚ぐらいは覚悟したほうがいいわね・・・。」
金貨100枚といえば、かなりの大金である。
それでも、これは覚えが良くて最小限の時間でコツを掴んだ場合の費用で、魔法学院などで学ぶのに比べればかなり安い方らしい。
しかも、受講料以外にも生活自体にも費用はかかる。
今のバーンでは払うことが出来ない。
「魔法が使えるかどうかで、稼ぎもかわることが多いし、一生物のスキルだからね。
ただ、教わってすぐにバリバリ魔法が使えるわけじゃぁないから。あくまでスタートラインだと思って。」
訓練依頼での研修は、平均で約1週間。
最低限の魔法発動のコツは教えてもらえるが、そこから実用レベルまでの鍛錬は自分で行なわなければいけないとのことだった。
「攻撃魔法なら、フェスカさんでも教えてもらえるの?」
クリスが、会話の流れに沿って質問する。
このパーティに欠けていて、自分で力になるかもしれないもの・・・。
その中で、クリスにとっての一つの選択肢が”魔法”かもしれなかった。
「そうね。回復魔法と攻撃魔法の基礎なら教えれるわ。
ただ、値段は同じぐらいかかるわよ。私たちも奨学金を返さなきゃいけないし。」
魔道学院の授業料は、とてつもなく高額なため、一部の富豪や貴族の子弟以外の多くの学生は、奨学金という制度を利用することが多いらしい。
この奨学金を出すのが、ハンターギルドをはじめとする様々なギルドなのだ。
ギルドの奨学金を借りた学生は、卒業後は奨学金返済まで各ギルドでの就業が義務付けられており、ギルドにとっては貴重な魔法の使い手を囲い込むことができるようになっていた。
そして、学生側にとっても、就職先が安定する上、自身の得意なことを仕事に活かしやすく、なにより奨学金を返済してもなお高給が得られる双方にメリットのある契約形態なのだ。
クリスの場合、エルアの街で習うことが出来るなら、必要な経費はほぼ受講料だけですむ。
知らない街にまでいって、宿泊費から食事代までかかるよりは、トータルまで考えれば安くすむ。
それでも、受講料は高価であった。
「そこをなんとか・・・安く出来ません?」
クリスが上目遣いに言うが、フェスカは首を横に振る。
「ちゃんと、トータルで考えれば損はしないはずよ。いっとくけど出世払いもないからね。」
一刀両断であった。
「エドガー達は・・・」
エドガーとリュークは首を横に振る。
「俺達も、攻撃魔法は使えるが、まず教えてやることは無理だな。
それに、俺達はギルドで魔法を教わったからな。教えやれたとしても、勝手に他に教えちゃぁ営業妨害になっちまうから、いけない決まりなのさ。」
魔法が使えるのと教えることが出来るのは、かなり異なることらしい。
そもそも、そんな簡単に魔法を教えられるんなら、高い金を出して魔導学園か賢者の学院に誰もいかないだろう。
クリスはがっくりと肩を落とす。
「いや、そんなに欲張るな。お前達、こないだハンターになったばっかりだろう?
もっと身につけることがいっぱいあるはずだぞ。
大体、身の丈を過ぎた力ってのは、身を亡ぼすんだ。
地道に依頼をこなしていけば、評価ポイントも貢献ポイントもたまる。
まずは、Fランク、Eランクを目指すんだ。魔法はそっからでも十分間に合う。」
エドガーにさとされるが、フェルとバーンに対する劣等感からか、クリスは納得がいっていないようだが、無い袖は振れない。
「そんなに、あせらなくても、あなたたちのペースならすぐにランクもお金も貯まるわよ。
それにね。魔法は目的じゃなくて手段なの。そして、魔法は万能じゃないわ。
ハンターに必要なことを一個一個積み重ねるのが大事なの」
フェスカにも諭され、やっと頷くクリスであった。
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