50 ゴブリン退治だって、新人には大変なんです3
「大丈夫か?」
リュークは冷静にフェルに声をかける。
どちらかといえば、傷そのものより、フェルの精神状態を気にしてことだ。
ティルクは、慌てているが、傷自体は、さほどのことではないのは、リューク達は良くわかっている。
短剣の質が悪すぎて、刃こぼれしていたためかえって傷口が広くなり出血しているが、傷自体は深くない。
問題は、なれない実戦で怪我・・・それも出血したということによる精神状態の方だ。
むろん、経験を積めばこのような傷で取り乱したり、落ち込んだりすることはないが、フェルはまだハンターになって日が浅い。
コクリ。
フェルは腕を押さえながら力強く頷く。
「詰めが甘かったな。まぁ、授業料が安くついてよかったと思うことだ。」
エドガーが剣についた血をベッドのシーツでふきとりながら、フェルの肩を軽くたたいた。
倒したと思っていた敵が、実は死んでいなかったというのは、稀にあるらしい。
大抵は、出血などのショックで気を失っているなどの理由だが、相手が盗賊などであれば“死んだふり“ということも十分ある。
「勝ったと思った瞬間が、一番ヤバい。最後の詰めを誤って手痛い目にあったパーティなんざ、腐るほどあるからな。相手がゴブリンだからこんなもんで済んだが、これがもうちょっと強力な魔物だったら、一撃でやられることもある。最後まで気を抜くなよ。」
そういうと、入り口の方に向かう。
「早く、治療しちまいな。ほっとくと化膿するぞ。」
「これで終わりだと思うが、まだ奥もあるからな。あまり時間は取れんぞ」
リュークも坑道の方に出て周囲を警戒する。
「フェル。前に渡した木筒・・・あれと新しい布を出して。」
バーンは受取った木筒の中のゼリー状の液体を布につけて、傷に塗りこむ。
「ちょっとしみるけど、我慢して」
確かに少ししみるが、我慢できないほどではない。
それよりも、液体を塗りこむ毎に傷が小さくなっていき、瘡蓋ができていく。
「うーん。やはり、これぐらいの効果か。」
バーンはそういうが、回復魔法も使わないのに、ほぼ傷がふさがったのだから、フェルだけではなく他のメンバーも驚きである。
「おいおい・・・。そいつは、すげぇな・・。まさか魔法薬<ポーション>かい・・。」
「えぇ・・。かなり弱い効果ですが一応は。」
「まさか、お前・・それを作ったのか?」
「はい。ただ、かなりの量を試作してこれだけの量ですし、今回は効きましたが、効能期限もおそらくそう長くないので販売などには耐えられませんが・・・。」
「戦闘能力は、正直褒められんが、大したものだな。」
魔法薬<ポーション>が高価な理由は2つある。
一つは、単純に効果がわかりやすい上にニーズが高いことだが、もう一つが効能期限であった。
様々な工夫でなるべく長く効くようにされてはいるが、総じて増幅効果を維持できる期間が決まっており、期間を過ぎるとただの薬になってしまうのだ。
フェルの”転送“が品質劣化を防ぐため、実は問題がないのだが、正直バーンは何処まで効くか半信半疑だったようだ。
「あとは、普通の傷薬を塗って、この布を巻いて置いてください。先ほどの薬ほどの効果はないですが、なにもしないよりはマシですから。」
そういって、治療を終えた。
・・・
結局、炭鉱の奥まで行ったがもうゴブリンはいなかった。
「さすがに、金になりそうなものはないな。」
魔物の中には、まれに隊商などをおそった時の商品などを巣に持ち帰っている場合があり、運がよければ金銀などが手に入る場合があるらしい。
残念ながら、今回は使っていた武器なども含め、金になるようなものはなかった。
「本来なら、こんな武器は放置するか埋めちまうんだが、今回はフェルがいるしな・・・。もし持てるなら持っていってくれ。」
くず鉄同様で二束三文だが、数があれば昼飯代ぐらいにはなるし、このまま置いておくと、また魔物が発生した際に、余計な武器を与えてしまう可能性もある。
フェルは、ゴブリンたちの使っていた粗悪な武器を次々と”転送“をしていった。
「よし、あとは村に帰って、検分してもらうぞ。」
討伐依頼をした場合、場合によっては検分作業というものがある。
“真実の口“があるので、討伐結果の嘘をつくことは考えられないのだが、村人にとって見れば脅威が去ったのかどうかを確認したい場合が多いのだ。
特に、今回は村からわずか30分の距離である。
もう一度現場に往復するのは手間ではあるが、これも仕事の一環だと説明をフェル達は受けた。
検分は、幸い午後にも行なわれることになった。
通常は、翌日などが多いのだが、討伐が早く終わったために午後にも確認できることになったのだ。
村人を代表して2名が5人と一緒に廃坑へ再び向かう。
検分時のハンターの主な役割は道案内と護衛だ。
・・・・
検分自体は、特に問題なく終わった。
ただ、問題だったのは、ゴブリンたちの死体の処理であった。
そのまま放置しておいて自然に任せる場合も多いのだが、今回は村からかなり近いため死体を食らう他の魔物の発生を嫌った村人が処理を依頼してきた。
「追加料金になりますが、よろしいですか?」
エドガーが村人に確認をする。
依頼は討伐までなので、このような場合は多少なりとも追加料金を請求しなければいけないらしい。
さもないと、他のハンターが討伐依頼を受けた際の評価が悪くなってしまったり、過度な要求をする依頼者がでてくるからである。
村人たちも、その辺はわかっているらしく料金の確認をして納得をしたようだ。
一般的な死体の処理となると火葬か土葬になる。
「エドガーさん・・・。ちょっと試してみたいことがあるんですが・・。」
「なんだ?」
「要は、穴を掘る必要があるんですよね?」
「そうだが?」
そういうと、フェルは小声でなにかいいながら、入り口横の土を一度“転送”し、できた穴の横に再度“転送”した。
一度に“転送”する量を少なめにすることをティルクには伝えてある。
それでも、スコップで掘るよりも圧倒的に早い。
転送を繰り返すこと30回ほど、時間にすればものの十数分でゴブリンを埋めるには十分な穴ができあがった。
「な・・・。」
村人はおろか、これには他のメンバーも開いた口がふさがらない。
収納魔法がこのような使い方ができるなど聞いた事がなかった・・・。
「バーンといい、フェルといい・・・。教えることも多いが、驚かされることの方が多いな・・。」
半ば、あきらめたようにエドガーとリュークがため息をついた。
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なんとか、50話まで続けることができました。
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