101 報告
「・・・っというわけなんですよ。」
受付にネールにも来てもらいいくつかの報告を行なう。
もちろん、岩蜥蜴の肝の依頼を受け即時に完了させることも忘れはしない。
地位的には、ネールは本来そこまでの権限はないのだが、とりあえずネールを巻き込んでおいて損はない。このギルド内での調整もふくめて上手くやってくれる。ある意味絶大な信頼をハンターからもギルドマスターからも彼は受けていた。
「なるほどな・・・。おそらくそいつは変異種ってやつだな。ゴブリンとホブゴブリンみたいな関係だと思えば良い。群れのボスの可能性も高いが、それよりも群れの規模の方が問題だな。」
「ええ、見えていただけでも20匹はいました。今回出てきていた奴だけで全部とは限りませんから、その倍は少なくともいると見ておいた方がいいかと。」
「まぁ、でも結構減らしたけどね。」
軽口をたたくのは、クリスだ。
もちろん、彼女も危険な存在だということは認識しているのだが、それを7匹も倒したということの方を褒めてほしい気持ちが勝っているようだ。
「実際のところ、それは助かる。正直それだけリザードマンが出れば逃げ切れない奴の方が多いからな。
少しでもリスクが減ったのはありがたい。が、それにしても・・・・。
とりあえずは、この件はギルドマスターに報告しておく。
おまえたちも、指示があるまで、行こうと思うなよ。」
クリスも褒められたことに満足したようで、皆とともに頷いた。
ニースは、そんなクリスの様子を見て少し羨ましく思う。
ニースは、カティアのように魔法の才能に恵まれたわけでもなく、ウェンツやギルのような力もない。
同じ孤児院で育った仲間であるが、戦力としては他の3人ほどの力がないのである。
それでも、彼女は自分の居場所をつくるために努力をしてきた。
なにもハンターに必要なことは戦うだけではない。むしろ、そんな時間の方が少ないのだ。
彼女は、パーティーの炊事・洗濯などの日常的な面をほとんど独りで支えている。
表立っての交渉などを行うことはないが、ここぞという時に意見をいうのは、必ずと言っていいほど彼女である。暁のカルテットにとっての母ともいうべき存在。それがニースだった。
そのため、クリスのような天真爛漫でストレートに感情を表情に出すようなことは出来なくなっていた。
ニースが大人でクリスが子供と言ってしまえばそれまでなのだが。
「で、買い取るものがあるんだろ?裏に行こうか」
そういうと、ネールは裏の倉庫の方へ向かう。
岩蜥蜴とリザードマン。そして、リザードマンが使っていた武器、荷車などを倉庫に広げる。
「相変わらず荒稼ぎしやがるな。」
ネールはそういいながら、品を見ていく。
「悪いが、武器や荷車は大した値段はつけれんな。まぁ、二束三文ってほどじゃぁないが。
岩蜥蜴とリザードマンは標準品ってところだな。加工手間賃をもらうが、これだけありゃぁ1ヵ月は遊んで暮らせるな。」
そういって、値をメモしていっていた。
「でも、グラスコさんとこで今度は鎧を買いに来いっていわれてるんですよね。」
ギルがネールに答える。言われたら買う必要なんてないが、グラスコ武具店を紹介してくれたのはネールだし、そのおかげで、今回の難局も損害なしで乗り切れたといっても良い。
「ほぅ。お前さんたちの装備が新しいと思ったら、ちゃんと面倒見てもらえたんだな。」
「ええ、正直高いとおもいましたが、結果的にはいい買い物でした。」
「ちゃんと高いものには理由があったろ。こればっかりは使ってみて実感しないとわからんのだろうな。
あの親父がそういうんなら買えるときに、ちゃんと買っといたほうが良い。で、いくらいるっていってた?」
「一人最低30といわれましたね。」
「30か。今回の報酬があればいけるじゃねえか。
肝の報酬が10に岩蜥蜴の尻尾が5に胴体も5、リザードマンは20でが6体でざっと120に武器と廃材が2ってとこだな。金貨142枚。ポイントでも金貨でもいいが。」
「金貨で頼む。」
ギルドの個室で、ウェンツが皮袋から金貨を一人20枚づつメンバーに配る。
今回からは取決めにより、報酬は7等分することになった。
6人プラス共有費用という考え方である。
足りなくなれば臨時徴収となるが、借家の費用や食費などもこの共有費用から捻出していくこととした。管理はニースである。
もともとは、暁のカルテットは稼ぎの半分を共有にし、パーティーとして必要なものもここから支出を行なっていたのだが、幼馴染で家族同然である4人とフェルやクリス達ではやはり考え方も違うだろうしということで、配慮した形にしたのである。特に一緒に暮らさないクリスには不利にならないようにと、銀貨以下の端数が出た場合は全てクリスがもらうことと、いつでも食事は一緒にできるという対応までしていた。
「流石に、そう簡単には貯まらんか。」
「でも、たった1日で1ヵ月分の稼ぎだ。贅沢をいうもんじゃないさ。」
「それに、黒昆布もバーンのところにもっていってやらんとな。
かなり乾燥してるし汚れちまってるが、ないよりはいいだろう。」
岩蜥蜴の肝は依頼が出ていたが、黒昆布は依頼が出ていなかった。
依頼が出ている以上は、ハンターも依頼主もギルドを通すのが筋である。
直接取引の方が手数料が取られない分高く売れることがあるが、それではギルドの面子を潰すことになるし、依頼主も安定供給や商品の品質補償などの面からもギルドを通した方がいいのだ。
ハンターも海千山千の商人に買い叩かれるリスクを回避できる。
しかし、依頼が出ていなければ、別にギルドを通す必要はない。
実際に、おかかえのハンターから直接仕入れる商店もなくはない。
ただし、それはお互いの信頼関係がよほどしっかりしていないとトラブルの種となるのだ。
・・・
「やぁ、バーン。おまたせ」
元気よくゼペット商店に入ったところをゼペットとバーンの二人が迎えてくれた。
「いやぁ、また世話になったの。あれは意外と入りにくいんで困っとった。
また、依頼が出たら、頼むぞ。」
どうやら、フェル達が肝を取ってきたことは既に伝えられているようだった。
本来は、守秘義務もあるのだが、例の件もあったので、ネールが逆に気を効かせたようだ。
「あと、黒昆布ってこれでいいのかな?」
そういうと、フェルは木箱にはいった黒い海草を出す。かなり乾燥してパリパリの状態になっている。
バーンとゼペットはその木箱を覗き込むと頷く。
「これも助かるわい。いつも獲ってきてくれるやつらが、リザードマンに襲われたらしくて、這う這うの態で戻ってきてな。黒昆布はこの時期に水から揚げないと、溶けていってしまうので困まっとった。
肝のように替えが効かんわけではないが、これが一番効果が高いでな。」
なるほど。あの荷車はそのハンターたちのものだったのか。
「お礼としては少ないかもしれんがこれで。」
そういうと、ゼペットは、奥から金貨を5枚ほど用意して渡そうとする。
「ちなみに、その逃げてきたハンターっていうのは無事なんですか?」
ウェンツが確認をする。
「ああ、軽い怪我で済んでおる。だが、荷車とかを置いてきたらしいし、トラウマになったようでもうあそこにはいきたくないと言い出しおってな。」
確かに、自分達は平気であったが、装備も含めて4人の頃のままだったら危なかったかもしれない。
「じゃぁ、2枚だけいただきます。残りはそのハンター達にあげてください。
この黒昆布は水から挙げて荷車で森まで運んであったものです。残念ながら荷車は大破していたので・・・。再購入費用の足しにはなるでしょうから。皆もそれでいいな。」
クリスは、少しジトっとした眼でウェンツを見るが、反対はしない。
全部もらっても誰も文句を言わないのに、この人たちならそんなことを言いそうな気がしていたのだ。
フェルも、さも当然という顔をしている。
格好つけのようにも思うが、意外といやな気はしていない。
以前の自分だったら、金貨3枚も損をするなんて目くじらを立てていたかもしれないが。
金銭的に余裕があることもあるのだろうが、命のやり取りを何度もしているうちに、クリスの価値観はハンターになって数ヵ月のうちに、かなりかわったのかもしれない。
「私も甘くなったもんね・・・」
年齢に明らかに似合わない独り言をクリスはこぼすのをみて、苦笑するニースであった。
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