1-3
あの忌々しい出来事(もちろん、買った喧嘩を倍で買われた挙句当初の予定の婚約解消にも失敗したあの出来事である)からはや数日。
お父様にもお母様にもお兄様にも屋敷の皆から婚約したことを祝われては、やっぱり嫌だと言い出せない。
こうなったら、もうあの作戦を実行していくしかないわね…
〜リヒベルク家の娘がこんなヘンテコな娘だなんて!想像と違った!婚約なんて破棄だ破棄!〜
作戦再来である。何がなんでもクラヴィルに婚約解消させるしかない。
頑張って成功させなきゃ、、心にそう誓った。
***
今日はリヒベルク家主催のお茶会がある。お茶会と言っても今日のは小さい催しで、ほとんど顔見知りしか来ないので気は楽なんだけどね。でも、ほとんどと言ってもやっぱり知らない人もいる訳で、挨拶回りは少し疲れる…。
何とか挨拶回りは済ませたので庭の端の方で紅茶をもらう。お兄様たちはまだまだ挨拶回りがあるようで、私より大変そうだ。
少し椅子に座って紅茶を飲みながら休憩していると私を呼ぶ声がした。声をした方をみると藍色の髪を靡かせた二人の少年が。
「パティー!!」
「レイン!カインも!いらっしゃい」
「こ、こんにちは…」
「もう挨拶回り終わった?」
「うん、やっとね」
パティとは、私パトリシアの愛称である。そう呼ぶのはお父様、お母様、お兄様と仲良い人1部くらいだけどね。
カインとレイン。言わずもがなカインの方は攻略対象の内のひとりカイン・セイグリッドだ。
いわれてみればキャラ紹介のカインの面影があるような…でも前髪で目が少し隠れていてもったいない。折角綺麗な顔してるのに。
もう1人は弟のレイン。顔は似ているがカインとは違って人懐っこくて誰とでもすぐに仲良くなるタイプである。因みに攻略対象には載ってなかったはず。
今もレインの後でおどおどしてるカインにやっぱり軟派なイメージは浮かばなかった。
5年後の保身の為にカインとは会いたくないなどと前までは考えていたがやっぱり、幼い頃から3人で楽しく過ごした日々の記憶の方が強いのだ。今更仲良くしないなんて出来ないじゃないか…。というか友達だから後々ヒロインとカインがくっつこうが祝福すればいい。そうすれば危機は回避できるんじゃない!?
「じゃあ僕達がやっとパティを独占できるね!」
「いやだわ、いつも私たち会ってるじゃない」
「最近は全然会えてないよー!ねえ、カイン兄さん?」
「えっ…うん、そうだね」
「2人共最近は剣術の鍛錬で忙しそうだものね」
「でも僕はやっぱり剣なんて使えないよ…怖いし」
「まだ始めたばっかりで怖いのは当たり前なんだから、これから頑張れば大丈夫よ!」
「う、うん…頑張る!」
ぱぁっ、と笑顔を見せたカインに私は思わず頭に手を当てる。
カインめっちゃ可愛いんですけどーーー。
「パティ?どうしたの?」
「え!いや、なんでもない!気にしないで」
「ならいいけど!気分優れなかったら無理しないでね」
「ふふ、ありがとう」
ぽんぽんと頭を撫でられて思わず恥ずかしくなる。もうほんとレインも可愛すぎるんですけど……なんなのセイグリッド兄弟可愛すぎない?精神年齢17と7つの私には破壊力高すぎる。
思う存分2人に癒された私はそういえば、と先程から気になっていたことを聞くことにした。
「ねえ、私2人の鍛錬のお話詳しく聞きたい!聞かせてくれる?」
「もちろんいいよ!じゃあまず飲み物とお菓子取ってこよう」
「そうしましょ!カインも行く?」
「あ、僕は此処で待ってる…」
「そう?分かった、じゃあカインのも取ってくるわね」
「ありがとう」
カインは人が多いところが苦手なのであんまりテーブルに近付きたくないのだろう。現に客人用に出されている飲み物とお菓子をレインと手分けしていくつか取るまでに何人かに声を掛けられたからね。でも、カイン…流石に貴族の長男だから慣れないと駄目なんじゃないかしら。まあ今回はいいとしても。
「こんなもんでいいかな、よしパティ戻ろう!」
「そうね、いきましょうか」
と、先程カインがいたところに戻ると…。
なにやら言い争う声が聞こえてきた。
「お前、こんなちんちくりんの癖にリヒベルク家のお茶会に来てるのかよ」
「お前はお呼びじゃないんだよ、帰れ帰れ」
どうやらどこかのお坊っちゃん達がカインを囲んでいるらしい。
「あいつら…!」
「待って!レイン、あの人達を知ってるの?」
「あいつらはイズロム家のやつらだ!カインを目の敵にしてて、この前もカインにつってかかってたんだ」
イズロム家と言えば、ルザンビーク5大貴族のうちの1つでリヒベルクやセイグリッド、ロヴェーレ家に並ぶ家系である。そのお坊っちゃんがなんでカインに…
「お前みたいなおどおどした奴を見てると腹が立つんだよ」
「悔しかったら何か言い返したらどうなんだ?無理だろうけどな」
「うわっ」
1人がカインを突き倒した。バランスを崩したのか顔から転けて見てるだけでも痛々しかった。なにあれ、ほんと嫌なやつ!
ってそれよりカインを助けないと!
「ちょっと貴方達」
「ちょ、パティ…!?」
「1人に対して複数人で取り囲むなんて汚いわね。品格を疑うわ」
「なんだよ、女の癖に口出しするのか?」
「女の癖にねえ…性格最悪ね、あなた」
「こいつ…!」
「パティ危ない!!」
私の物言いに腹が立ったのか、イズロム家のお坊っちゃんはカインと同じように私の事も突き倒そうとしてきた。まさか手を出されると思ってなかった私は……
―――男の子の腕を引っ張り背負い投げをしていた。
「うわぁぁっ!! 」
「な、なんだこいつ!」
「覚えてろよー!」
私の背負い投げにびっくりして腰が抜けたのか捨て台詞を吐いて男の子達は去っていった。なんてありきたりな捨てセリフなんだ……。逆に恥ずかしいわ。まあ所詮は子供だもんね。
というか……
呆然と私を眺めるレインを見て私はハッと気付いた。
やってしまったぁぁぁーーー!!背負い投げなんて貴族のお嬢様のする事じゃなかったぁぁ!前世である事情で護身術習ってたのが思わず出てしまったーーー
いやだってまさか私に攻撃されると思わないじゃない!?女の子だよ!?しかも今日のお茶会の主催した家のお嬢様よ!?多分私がリヒベルク家の娘だとは気付かなかったんだろうけど。
悪役らしく嫌味言いまくって追っ払おうと思っただけなのに……。
「あーー、レイン…これはね?気にしないで」
「あ、うん…パティが言うなら。でもパティ凄く強いんだね!びっくりしたよ!」
「私も少し自分の身は自分でも護らなくちゃって思ったから少しお稽古してるの」
ごめん!嘘だけど!でもなんとか納得して貰えたみたいだからこれで突き通そう…。
それより顔からこけたカインが心配だ。蹲ってるカインに手を差し伸べた。
「カイン、大丈夫?立てる?」
「ぐすっ…うん」
「怪我は、、少し擦り傷出来てしまってるけどこれなら大丈夫そうね」
目にかかっている前髪をかき分けて顔に傷ができていないかチェックをする。
泣いてたからか目が赤くなっているがカインの綺麗な顔に目立ちそうな傷は無かったので安心した。
「良かった…カインの綺麗な顔に傷が残ったら大変だもん」
「え…えっ??」
「ほら泣かないで?折角の男前が台無しよ」
「えっ、ちょっ、パティ…!ち、近い…」
「あ、ごめんなさい!」
やばい、対応がつい子供を相手するみたいになってしまった…!一応同い年なのに、危ない危ない。
「………」
「カイン?大丈夫…?」
カインは少し俯いて黙っていたかと思うと、何かを決意したように顔を上げた。そして私の両手を力強く握った。
「さっきのパティ、凄くかっこよかった」
「あれは、えっと出来れば忘れてほしいのだけど……」
「忘れないよ、僕を助けてくれたの凄く嬉しかったから。でもね、これからはパティの危険は僕が守るよ」
「あ、ありがとう…」
カイン…さっきとかなり雰囲気変わったわね…。レインはと言えば兄さん成長したね!などと喜んでるし、何が何だかわからないんだけど…!?
「パティを守れるようにレインと2人で沢山鍛錬して、強くなるから…だから、えっと…」
「カイン……ありがとう。私も2人を守れるように頑張るからね」
「…………(そういう事じゃなかったんだけどな)」
「(カイン兄さん…パティは鈍いからちょっと勘違いしたみたいだけどこれから頑張ろ…!)」
「ちょっと!小声で何ひそひそしてるの??」
「「何でもないよ!」」
息ぴったりな2人に渋々だけど納得するしかなかった。
こうして少し問題はあったものの無事にお茶会が終了し、私が背負い投げした男の子だけど…
当たり前のごとく親にわたしに背負い投げされた事を告げ口したものの、相手が主催者の娘であること。そしてカインをいじめていたところに私が現れ、私にまで手を出してこようとしたので正当防衛であることを私自身が主張したため此方には全くお咎めがなく、寧ろ告げ口した方がこってり絞られたらしい。自業自得である。
新しい家系が出てきたのでここで少し細かな設定など…
ルザンビークは
国家が主力を握りますがロヴェーレ、リヒベルク、セイグリッド、イズロム、バーレンの五大貴族がその次に権力を持っています。
リヒベルク家とセイグリッド家は代々友好関係を築いています。
またセイグリッド家とイズロム家には因縁関係があり、互いに牽制しあっています。仲が悪いです。
ロヴェーレ家、バーレン家は一匹狼な所がありあまり友好関係は築いていませんがロヴェーレ家は今回のクラヴィルとパトリシアの婚約で繋がりを持とうとしています。
所々ツッコミどころ満載かと思われますがそこは乙女ゲームのご都合主義ということで、温かい目で見守っていただければ幸いです…!