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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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エピローグ

 シロナガスクジラは、父によって長々と語られた人間の歴史の物語など、知ったことではない感じで、ゆったりと泳ぎつづけている。青くぼんやりとかがやく惑星と、小さくするどくかがやく恒星「エウロパ」を背後にして、ここちよさ気な宙返りをうったりしている。

 そんなクジラもそっちのけで、すやすや眠る幼馴染みの手を、父の話を聞いているあいだに、エリスは意識もしないうちにギュッと握り締めていた。

「むかしの貧しい集落では、子供も大人になることを、すごく急がされてしまったんだね。」

 少女の寝顔を目のはしにとらえながら、子供が子供のままでいられる彼の時代と、古い時代の集落のことを、エリスは比べていた。

 大人になることを急がされた心は、ときに思わぬすれ違いを演じてしまう。ゆっくりと大人になることができれば、お互いを大切にできたはずの若い2人が、互いの気持ちを見失ってしまったりもする。

「そうだな。学校なんかなかったし、子供も、できる範囲のことを手伝わないと、暮らしが成り立たなかったんだろうな。」

「銀河連邦は、そんな貧しい国の集落からも、多くの人をエージェントの候補として受け入れていたんだね。」

「うむ。第3次の銀河連邦にも、そんな史料はたくさん残されている。それによって、受け入れる側の様子は、かなり詳しく今に伝わっているんだよ。けど、人を送り出していた側の記録は、なかなか見つからないものなんだ。」

「だから、今回の遺跡の発見は、とても重要なものなんだね。」

 第3次の銀河連邦は、第1次、第2次と受けつがれた歴史の記録を多く残している。エリスの父のような、この時代の歴史学者も、連邦に残された史料をひもとくことが、研究活動の中心になってくる。

 だが、第1次の銀河連邦から遠かった宙域のことや、連邦に加盟していなかった国や勢力のことは、連邦に受けつがれた史料だけからでは分からない場合が多い。

 だから、遺跡などからの事実解明も、とても重要になる。考古学的アプローチというやつだ。

 宇宙を静かに漂っていた遺跡に、昔の暮らしを伝えるものがたくさん詰まっていて、今日のエリスたちに教えてくれる。その昔の暮らしぶりは、今のエリスたちの暮らしが、特別に恵まれたものであることを実感させてくれる。

 眠る幼馴染みの手を握る、エリスの手にも、知らずと力が籠められる。おいしい食べ物と居心地のいい空間、その中で、幼馴染みとのんびり向かいあえる時間。

 歴史を知れば知るほど、エリスはそれが、とても貴重で、かけがえのないものなのだと思えてくる。

「銀河連邦に残されている史料で、エージェントの候補としてあつめられてきた人々が、どんなトレーニングを受けたとか、どんな国々を歴訪したとかいうのは、多くのことが分かっていたんだよ。けれども今回の遺跡の発見で、候補者の出身の国や集落のようすが知れたことは、大きな成果だと思う。数千年も前の銀河の実態が、またさらに詳しく分かるようになったのだからね。」

 歴史学者の父にとっては、それは、ことのほか重大らしい。

「偶然に遺跡が発見されたおかげで、名もない小さな集落の暮らしが、今に伝わったのだものね。すごいことだよね。」

 歴史好きのエリス少年も、大きく頷いて父に賛同した。そばで眠る幼馴染みがそれを聞いたとしても、きょとんとした顔をするだけだろう、なんて想像も一方でふくらませながら。

「連邦本部に集められてきて、育成された候補者達の、エージェントに成ってからの活躍なんかも、連邦に残された史料から知ることはできているの?」

 こと歴史にかんしては、父もおどろくほどの大人びた質問を、エリス少年は繰りだすのだ。

 愛息のそんな成長ぶりが、父には眩しくてたまらない。

「もちろんさ。そうして育てられたエージェントが、国家どうしのむずかしい利害対立を、紛争にいたる前に未然に解決してみせたりした事例も、たくさん見つかっているのだよ。」

「へえーっ。やっぱり、銀河連邦ってすごかったんだね。」

「その一方で、エージェントに成ったあとに、出身だった国や集落にもどっていって、そこの発展や平和に力を尽くしたエージェントも、大勢いたようだね。とくに銀河連邦の手がおよびにくい宙域では、現地出身のエージェントの働きで、貧しい国の集落が発展をとげるケースが、とても多かったようなのだよ。」

「そうかぁ、銀河連邦の力を、故郷のために使ったんだね。そんなエージェントも、とてもかっこいいと思うよ、僕は。」

「ねえ、おすし、おかわり。」

「そう、かっこいいおすしが・・・えぇ?? 」

 突然に目を覚ました幼馴染みの、開口一番の言葉が、エリスを攪乱した。

「・・はは、ぐっすり眠っていると思ったら・・・」

 コンタクトスクリーンに映ったヴァーチャルな端末を操作すれば、追加のオーダーも2分とたたずに実行される。

 運んで来るのも機械の仕事で、テーブルの中央に開けられた丸い穴から、料理は自動で供給される仕組みだ。

 昔の集落の人が見たら、目を白黒させるシステムだろう。

 ケミカルプロセスフードなんてものも、エリスの時代には、誰も食べていない。

 稲という作物からとれたコメをふっくらと焚き上げ、酵母菌による発酵で作られた酢と混ぜ合わされ、できあがったシャリに、マグロという魚から切りだされたばかりの新鮮な身を乗せたものが、テーブルの穴から飛びだしてくる。

 生命による恵みに、溢れているのだ。

 エリスの隣で彼の幼馴染みは、すかさずそれを口に運び、口をいっぱいにして頬張っている。

「・・いや、そんなに、あわてなくても・・・」

 大人になることは急がされない彼女だが、マグロのおすしを平らげるのは、なぜか大急ぎだ。

「ぼくも、もうすこし何か食べようかな。」

「そうだな。父さんも、そうしようかな。」

 「エウロパ」星系の第3惑星の静止衛星軌道上にある、人工重力を駆使した宇宙の生け簀に併設されたレストランで、エリスたち3人の楽しい食事はつづいた。

 シロナガスクジラを始めとした多種多様な海洋生物も、人類発祥の惑星にいたときと変わらぬ活動を、宇宙の生け簀の中で営んでいる。遥かなる銀河の旅をへて、ふりだしに戻ってしまったかのように。


 海産物を味わっているのは、かれらだけではないようだ。ずっと昔に、ちょっとした心のすれ違いから、遠く離れて過ごす時間を余儀なくされた、愛し合う若い男女の御霊も、かれらの体を通じておいしい海鮮に舌鼓をうっている・・・ような気配がする。

 少年の好奇心が時空を越えて、歴史の彼方から呼び寄せたのだろうか。

 ケミカルプロセスフードしか知らなかったその御霊には、海鮮の味わいは、目を丸くするほどのものだろう。

 目が、あればの話だが。

 彼らの時代には味わえなかったであろう海鮮よりも、その若い男女の御霊には、注目すべきものがあるようだ。

 大人になることを急ぐこともなく、子供時代をゆったりとすごす少年とその幼馴染みに、優しいまなざしを注いでいる。でも、その一方では、すこし、唇をとがらせてもいるようにも・・・・・・・・・・・・・・・・・唇が、あればの話だが。

 今回の投降は、ここまでです。そして今回で、この作品は終了となります。

 作者にはあっという間にゴールにたどり着いてしまった印象ですが、読者様がたにおかれましては、いかがでしょうか?

 オーソドックスなラブストーリーを、作者独自の未来宇宙の世界観を舞台に展開させる。そんなのが当初の基本コンセプトだったのですが、書いているうちに若干ズレてしまったかもしれません。エルダンドの感じ方や考え方、性格や行動傾向は、オーソドックスでしょうか?異常でしょうか?

 書いているうちに感情移入しすぎて、ラブストーリーの方はオーソドックスを維持できたか疑わしいですが、未来宇宙の世界観に付いては、ある程度表現できたかなとは、思っています。上手く表現できたかどうかはともかく、表現したいことは全て表現を試みたかな、といったところです。

 未来の宇宙に暮らす人が、何でこんな貧しくて苦しそうな生活をしているんだ?なんて疑問にお思いの読者様も、おられるでしょうか?作中でも説明して来たつもりですが、もしかしたら考えが独特過ぎて、理解し切れていない方もおられるでしょうか?

 地球で起こった全面核戦争から、命からがら、一か八かで逃げ出し、宇宙を渡るには未熟な技術しか持たないままで、放浪生活を送った人々の末裔だから、という設定を、改めてご説明させていただきます。

 数百から千人くらいが乗った宇宙船で放浪したことにしていて、その人数では、科学技術や文明の水準は、維持できないだろうと推測しました。宇宙を放浪し続けるのに必要な技術は進歩するでしょうが、別の部分では、後退してしまうであろうと。

 宇宙服をよりシンプルで着心地に良いものに仕立てることはできたけども、穀物や野菜を栽培したり、家畜を飼育したりといった技術や知識は、失われてしまっている、とか。

 なぜそんな、苦しい事態におちいる未来を想像したのか?それは、実際に原子人類がアフリカで誕生し、そこから全世界へ広まっていった、と想像されている経緯を踏襲したからです。

 アフリカを飛び出した理由も、そこでの争いに負けたとか、気候変動で暮らしていけなくなったからといったもので、仕方なしに一か八かで飛び出したのだろうと思います。

 住み慣れた場所を飛び出すからには、それくらい、やむにやまれぬ理由があったはずだし、飛び出すことは危険を伴うものだと、覚悟した上での行動だったとも思います。

 実際に、飛び出した人々の大半は、旅の途上で息絶えたことでしょう。ほんの一握りが新天地を切り開き、そこで、繁栄の途に着いたのでしょう。繁栄の末に、アフリカから飛び出した者の、末裔どうしでの再会(?)があり、そこから、離合集散が起こるようになり、歴史が動き始めたのだと思われます。

 そんな展開を未来の銀河において繰り返させてみたら、というコンセプトで、「銀河戦國史」は書かれています。地球の歴史と相似形をなすストーリーを、宇宙を舞台に描いているわけです。

 以上は、エルダンドがあんな貧しい苦しい暮らしをしていたことの説明に、なっているでしょうか?

 未開な先住民が住んでいる星団に、やや進歩的な民族がやってきて、暮らしを向上させた上で、国にもまとめ上げる、なんて経緯も、実際におこったどこかの歴史を参照しています。まあ、だいたいどこか、お気づきの読者様もおられるでしょうが、あえて明言はしません。

 この「銀河戦國史」は多かれ少なかれ、史実を参照しています。古典を下敷きにするとか、歴史的事件の経緯をなぞるとかの、直接的な参照の仕方もしますし、色んな時代の色んな場所での事柄を、ごちゃまぜチャンプルーにした感じの、創作性の高い作品構築も、やってみるつもりです。

 歴史が好きな読者様には、この辺りはあの史実を参照しているなとか、この時代の社会制度をヒントにしているなとか、予想しながら読んでほしいというのが、作者の身勝手な願望です。

 長い後書きになってしまいましたが、要するに、次週から次回作の連載を始めるので、そっちも読んでくださいねって言う、宣伝をしているわけです。

 次回作も、ミリタリー要素はほぼなし、戦闘シーンは皆無、エンターテイメント性より世界観重視って感じです。そして、恋愛をタテ軸にしたラブストーリーであるのも、今回同様なのですが、オーソドックスなんてことは、とても言えない代物、かも・・。

 エルダンドの物語を楽しんでいただけた方には、きっと次回作も、楽しんでいただけるのではないかと、希望的観測で思っています。エルダンドの話は退屈だった人にも、楽しみを見つけてもらえる可能性が、無くはないとも、思って、いや祈っています。

 一人でも多くの読者様に、次回作も読んでいただけることを切実に願いつつ、ここはひとまず、脱稿の挨拶をさせていただきます。本作を読了頂いた皆様、本当に、ありがとうございました。


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