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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第23話  エルダンドの驚愕

 エルダンドの頭に、次々と記憶がよみがえってくる。

 そういえば、サヒーマだって、クリシュナの潔白を懸命に主張していた。とってつけた言いわけやごまかしにしか、そのときには思えなかった。

 しかし、クリシュナがヴィシュワーナに身体を売ったなんて、そんなことを言い切れるほど確かな情報など、彼はひとつも、持ちあわせてはいなかった。うわさ話を真にうけたうえでの、軽はずみにすぎる判断でしかなかった。

 本当にクリシュナは、体を売ってぜいたくを手にし、彼女に心をうばわれていたエルダンドを、嘲弄していたのだろうか。

 だが、そう思う一方で、もしそれを確かめる行動を起こしていたところで、失望させられ、打ちのめされる結果しか、なかったようにも思える。集落のみんなが口をそろえて言っていたことなのだから、うわさとはいえ、真実だと思っておいても間違いないのじゃないか。

 何度か目にしたクリシュナの姿も、思いこみなしで見たとしても、やはり、身を売った女のそれにしか見えなかったのじゃないだろうか。

 確認できていない情報を確認したとて、結論には、変化のあろうはずもないのじゃないのか。

 それでも、自分はクリシュナに、一度の弁明の機会もあたえることなく、裏切ったとか、嘲弄したとか決めつけて、彼女のもとから去ろうとしている。それは、フェアではないのじゃないか。

 せめて一度くらいは、彼女自身に、直接に、問いただしてみてもよかったんじゃないのか。

 後戻りできなくなったのを実感すると同時に、そんなことを思ってしまったエルダンド。

 もう、どうしようもないのに、どうしようもないことを、どうしようもなくなってから、後悔しはじめたエルダンド。

 後戻りできないのなら、今まで思いこんできたことを、そのまま、思いこんでいればいいものを、こんなタイミングで、疑いだしてしまった。

(確かめればよかった!本人と、話しあってみればよかった!その機会はいくらでもあった。確かめようと思えば確かめられた。なのに、一度もそれをしようとしなかった。)

 はげしい後悔にさいなまれたが、同時に、そんなことをしたって、さらに傷つく結果にしかならないはずだという、あきらめの気持ちも同じ強さでわいてくる。

 でも、もし、うわさ話が間違いだったとしたら。サヒーマが言っていたことが、本当だとしたら、自分の方こそクリシュナを裏切ろうとしていることになるのじゃないのか。

(俺に追いつくとか、俺との距離をうめるとかって、サヒーマは言っていた。とってつけた言いわけだと決めつけて、言葉の意味をよく考えもしなかったけど、クリシュナの方も、俺と同じように感じていたってことなのかも・・・)

 日に日に大人びた体つきになって、かがやきを増していくクリシュナに、彼は置いていかれ、距離を開けられてしまった気がしていた。けれど、クリシュナの方もまた、同じことを感じていた、ということなのかもしれない。

 その可能性に思いがいたると、エルダンドはがくぜんとした。

 改めて思いかえせば、おさない日には、エルダンドは他の仲間にさきがけて、どんどん仕事をおぼえていっていた。

 それはクリシュナとの距離をうめようとの努力だったが、そうやって誰よりも早く仕事をおぼえていくエルダンドを見て、クリシュナの方も、置いていかれているとか、距離を開けられてしまったとか、感じていたのかもしれない。

 そして、エルダンドがクリシュナとの距離を縮めるために、より難しい仕事をおぼえたり、命がけで“皇帝陛下の地上採取施設”を修理したように、クリシュナもエルダンドとの距離を縮めようとして、彼女なりに集落に貢献できる方法をもとめて、ヴィシュワーナのもとに向かったのかもしれない。

 ヴィシュワーナのもとに向かうというのも、みんながうわさで言っていたような、めかけや情婦になるとかいうものではなく、サヒーマが言っていたように、集落のくらしの実情を領民の代表としてヴィシュワーナにつたえることで、彼の管理事業をサポートするためだったのじゃないだろうか。

 おちついて考えれば、その可能性だって、じゅうぶんにあった。

 それなのに、衛星の地上におりる決断を正しいとクリシュナは言ってくれたのにもかかわらず、ヴィシュワーナのもとにむかうという彼女の決断を、自分一人のぜいたくのためと、彼は決めつけてしまっていた。

 彼を信じてくれたクリシュナを、エルダンドは信じてあげていなかった。

 そう思って考えると、いちどだけ話をしたヴィシュワーナの印象も、うわさされているような性悪なものなどではなく、領民のくらしを良くすることに心を配った、誠意のあるものだったようにも思える。

(管理のノウハウが、新政権樹立のときに失われてしまった、と言っていた。それも、口先だけの言いわけだと決めつけていた。けど、本当にそうなのなら、領民の誰かをそばに召しだすことで、領民生活の実態を知ろうとするのは、当然のことだ。そのために、多くの領民の女たちを手もとに置いていたのか?でも、じゃあ、なぜ女ばかりなんだ。)

 その疑問の答えは、簡単にだすことができた。

 男たちは、資源採取などの集落を維持する活動に忙殺されている。女のなかにも、そんな活動に参加している者はいるし、女だからという理由だけで、参加する活動が決めつけられることは、彼の集落ではなかった。だが、それでも、格納パックのキャッチなどの作業は、男のほうが、やりたがる者も高い適性をしめす者も多かった。

 集落を維持するための実務にかんしては、男たちの手が圧倒的におおくとられていたから、ヴィシュワーナが手もとにおいておくとすれば、やはり女が中心になるのは当然だといえた。

 うわさされていたように、めかけや情婦にするために、女をかき集めていたのだと、安易に決めつけていいものではなかった。

 ヴィシュワーナは、より良い管理をするために、集落の女たちの情報や助言を必要としていて、クリシュナたちもヴィシュワーナをサポートするために、彼のもとに向かっていったのかもしれない。

 もし、そうだとしたら、彼女の行為も、集落に貢献するためのものだということになる。そして、エルダンドに追いつき、彼との距離を縮めるためのものだった、ということにも。

(自分も、エルダンドの活躍にむくいることをする。あのときのクリシュナの言葉は、そういう意味だったのじゃないか?俺が衛星の地上におりるのと同じく、彼女もヴィシュワーナのそばに仕えることで、集落に貢献する。そして、そのことで、彼女も俺に追いつこうとしていたのじゃないのか?)

 置いていかれ、距離をあけられてしまっている、そんな、エルダンドがクリシュナに感じていた劣等感や焦燥感を、クリシュナの方もエルダンドにたいして感じていたのなら、その行動もけなげで愛おしく思えるものだ。

 エルダンドには、今さらの、驚愕の事実だった。

(もし、そうだとしたら、彼女をおいて集落をはなれる、という俺の行動は、とんでもない裏切りじゃないのか。)

 クリシュナがヴィシュワーナのもとにいってしまった、と聞かされたときの気持ちをエルダンドは思いだした。

 彼が集落から出ていくと聞かされたクリシュナは、それと同じくらい、いや、それとは比べ物にならないくらいに強く、裏切られたと感じるのじゃないだろうか。

 自分が味わった寂しさや悔しさを、何倍にもして、何の罪もなかったクリシュナに、彼は味わわせようとしているのかもしれない。

(そうだとしたら、俺は、とんでもないことを・・・クリシュナに、なんてひどいことを・・・)

 だが、それは、うわさが真実ではなかったと仮定してのものだ。

 何が真実かは、分からない。

 ヴィシュワーナは、めかけや情婦として女たちを集めていたのか、よりよい管理を目指して集めていたのか。

 クリシュナたちは、集落のためにヴィシュワーナのもとに行ったのか、じぶんひとりのぜいたくを求めて行ったのか。

 彼女はエルダンドを、追いかけていたのか、嘲弄していたのか。

 何もわからない。分かる術がない。

 ただ、何ひとつ確認もしないままに、彼はもう引きかえせないところにまで来てしまっている。

 数秒後にはさらに加速が強まり、彼はふるさとから、何百光年もはなれた銀河の彼方へと連れていかれる。

 次回、第24話 エルダンドの飛翔(本編最終話) です。 2020/4/11 に投稿します。

 エルダンドは、えらく長々と思考を巡らせていて、「シャトルの加速に何分かかっているんだ?」との意見もあがりそうですが、本話の記述はすべて、一瞬の間に彼の脳裏をよぎったものだとご理解ください。文章にすれば、非常に長い思考となりますが、いろんなことがいっぺんに彼の脳裏に浮かんだのです。それを、1つ1つ文章化したから、こうなったわけです。「阿呆なのか賢いのか、分からんわ!」と言われそうですが、阿呆で賢いのが、エルダンドなのだとご理解ください。

 それから、次回で、本編は最終話を迎えます。本シリーズの他作品を読了頂いている方はお察しかと思いますが、本編終了後には“エピローグ”というものが付く決まりとなっております。そちらの方にも、是非目を通して頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。

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