第9話 遭難者
「大丈夫?」
私は15歳くらいの少年の顔を覗き込んだ。
高さは私と同じくらいだから160センチくらいかな。まだまだ伸びそうね。
髪の色は濃い青で、しなやかにウエーブしている。
肌は健康的に焼けた褐色をしているし、筋肉質だから身体を使った仕事をしているのね。
「うーー」
目覚めた様だけど、まだ混乱しているのだろう。
一度目を開けてまた閉じてしまった。
瞳も濃い青ね。
「えっ・・・ここは?」
「沖合3キロほどの島よ」
「島?そんなの近くにない・・・あなた誰?」
「私はアリサ。あなたは?」
「僕はミッシェル。漁師なんだ」
意識がしっかりしてきたから、話を聞いてみたの。そしたら。
漁をしていて舟が転覆して遭難してしまったとのこと。それが朝のことで今はお昼だから5時間くらい漂流していた。
舟の一部の木片を抱え込んでいたから沈まずにいれたらしい。
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
小さな訪問者が遊びにきたってことね。興味あるみたいだから、浮島を案内してみた。
「ここはパンの木。いろんなパンが実っているでしょ」
「えええー。パンって焼いてつくるんじゃないの?」
「ここでは木になるのよ」
「本当かな。パンみたいな何か、じゃないの?」
「信用してないな。食べてみる?」
小さめの丸いパンを採って手渡してみる。
「これがパン?ずいぶんと柔らかいけど」
「私、堅いパンが苦手だから柔らかいパンにしているの」
「ふーん。うわっ、おいしい。ふわっとして、ほんのりバターの香りがする」
「でしょ」
ちょっとドヤ顔してしまった。パンの木や軽食畑は販売用じゃないから、私以外が食べたのは初めてかな。
最初の頃は固くてぼそぼそだったけど、ずいぶんと美味しくなったのよね。
「コーヒーもどうぞ」
「えっ、何?ええっ、ここから出てくるの?」
ドリンクバーの木にぴっくりしている。
木にひっかけてある木製マグカップに、ドリンクパーのこげ茶の弦をひっぱって注いでみせた。
「うん。便利でしょ。いつでも飲みたい物がすぐ飲めるのよ」
ネットカフェみたいでしょ・・・って言おうと思ってやめた。
そんなの知っているはずないからね。
本当を言うと、いろいろ見せてびっくりさせてみたいけど、あんまりやりすぎると混乱しそうだから、庭に植えてある物だけにした。
「このあたりって、魚一杯とれるの?」
「うん。沖に出ると大きい魚が釣れるんだ。でも、時々大きな波が来るから危ないと言われたんだけど、
ちょっと無理しすぎて、転覆しちゃって」
「そうなんだ。大変だったわね」
そんな話をしている彼の目がじーっとウサギのキャラの置物に目が行っている。
「うふ。かわいいでしょ。ミミーっていうのよ」
「実は、妹がいてそういうの好きなんです」
ミミーは私のオリジナルキャラ。今は高さ7センチの置物ができた。もちろん、錬金畑製。
試作品が5つだけあるんだけど、人気が出たら一杯作りたいなと。
だけど残念ながら、お店に並べても売れない。買いに来るのがおっさんが多いから、興味持ってくれない。
前に、お父さんのためのポーションを買いに来た女の子に期待したけど、お父さん助けることしか頭になくて、ミミーちゃんに反応してくれなかった。残念。
「妹さん、ミミーちゃん、かわいいと言ってくれるかな」
「それはもう」
「じゃ、ひとつ、プレゼントね」
「うわっ、ありがとう。なんかせびったみたいですみません」
「いいのよ。ミミーちゃん気に入ってくれて、うれしいから」
そろそろ帰らないと、と言うから岸の方へ浮島を寄せて、100メートルくらいは泳いで帰っていった。
そこから歩いて帰るんだって。1日かがりになりそうね。
ミミーのファンがひとりできたみたい。
私の夢は雑貨屋さん。
ポーションとか実用品を売るのもいいけど、かわいい雑貨を一杯ならべて女子がキラキラした瞳で見てくれる。
そんなお店になったらいいな。
今日も2話更新です。ブクマしてくれるとうれしいです。