第39話 危険はいきなりやってくる
「お姉ちゃん。どこ行くの?」
その声を聞いたとき、「ヤバイ」って思った。
いつもは安全のため、遠回りでも人通りが多い道で帰るんだけど、今日はちょっと遅くなってしまったからそれをしなかった。
今、周りには誰もいないし、小さな路地だから声をあげても聞こえないかもしれない。
この街は治安が比較的いいからついつい用心をしなくなっていた。
「ね。一緒に遊びましょう」
もう一人の男が言ってくる。振り返る前から、そいつらは不良かチンピラだってしゃべり方で分かってしまう。
おそるおそる振り返ると、チンピラを絵に描いた男がふたり、いた。
どうしよう。ドラマや漫画だったら、こいつらが私をどこかに連れていこうとするとき、イケメンさんが助けてくれる。
でも、現実はそんなことを期待しても起きたりしないと、前世の経験で分かっている。
「ど、どちらさんでしょうか?」
「それはどうでもいいじゃん。どうせ一晩だけの友達だからさ」
にゃにゃした顔が気持ち悪い。背中にぞっとした感じが走る。
「さ。こっちにおいで」
手をつかまれて、もっと暗い路地に引き込もうとする。
どうしよう。どうしよう。
「あれ?怖がっちゃっているのかな。僕らは優しいよ。楽しいことしようよ」
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
「その辺で手を放してくれませんか」
「えっ?」
男たちが引き込もうとしていた路地の反対側から男がひとり出てくる。
良く顔は見えないが、声からしてもイケメンに違いない。
「なんだ、お前」
「あなたたちの様な者たちに名乗る名前はありませんね」
「ふざけるな」
いきなり男たちはイケメンさんに殴りかかる。
イケメンさん、ひょいひょいとかわしてしまう。
強いわ、きっと。このイケメンさん、もしかしたら騎士か、なにか、かも。
「お前、邪魔するとどうなるか、思い知ってもらおう」
男たちは腰に下げていた短剣を抜くと、イケメンさんに向かって構える。
ええっ、武器持っていたの?イケメンさん、逃げて。
「短剣抜いてしまいましたね。それでは私も得物を使わせてもらうとしましょう」
そういうと、細長い鞄から細長い剣を出す。
レイピアと呼ばれる細剣で、オリンピック競技のフェンシングで使っている剣と似ている。
「なんだ、その頼りない剣は?俺たちにそんなコケ脅しみたいな剣が通用すると思うのか?」
「あれ?この剣、見たことないですか?意外と使いやすい剣なんですよ」
やっちまえと言うと男ふたりは短剣を振りかざしてぶつかっていく。
それをレイピアで受けながして、相手の体勢を崩す。男たちはつんのめる形で前に倒れてしまう。
ひとりの男の背中に足を載せ、ひとりの男の首筋にレイピアを刺さりそうなとこまで肉薄させる。
「まだ、やりますか?次は本当に痛いことになると思いますよ」
「ぐぐぐ。お、覚えてやがれ」
捨て台詞をはいて男たちは逃げていく。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
「このあたりは危険ですから、女性ひとりで歩いてはいけませんよ」
そう言うと、去っていこうする。
ちょ、ちょっと待って。ここは、恋が始まるシチュエーションでしょ。名前、聞かなきゃ。
「どこかの騎士さんですか?私はアリサです。あなたのお名前を聞かせてください」
「騎士なんかじゃありませんよ。ただの売れない役者で、エリオットと言います」
「えっ、役者?」
「ほら、この剣もね」
細い剣で自分の心臓を突こうとする。
しかし、ぐにゃりと曲がってしまう。
「危ないところを助けてくれてありがとうございました」
「役者をしていると剣技も訓練するんたですよ。ただ、私の役は『おぼえておけ』の方ですけど」
笑顔がまた素敵。
こんなに素敵なのに、主役じゃないなんて、もったいなさすぎる。
「助けてくれたお礼させてください」
「それじゃ、もう少しで始まる、ちょい役ですが出演している舞台みてください」
「はい。喜んでみます」
今日は浮島に帰るのはやめて、街に泊まろう。
せっかくイケメンさんと知り合ったことだし。
そんな浮かれているアリサを3人の男女が覗いていた。
ふたりはさっきのチンピラ達、そして、もうひとりは、悪役令嬢。。。おっと違った公爵令嬢のイライザだ。




