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拾われたゴブリン〜辺境村の記録〜  作者: 火川蓮
第一章

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2/2

第一話 保護という決断

ゴブリンが見つかった翌日、村には重たい空気が残っていた。

納屋の奥で息をしているそれを、どう扱うか。

その一点だけが、村人たちの間でずっと決まらずにいた。


「魔物だぞ」


「今のうちに始末すべきだ」


「いや、動けない状態なら……」


意見は割れ、どれも正しく、どれも不安を含んでいた。

誰もが知っている。ゴブリンは人を襲う存在だ。

だが同時に、目の前のそれは“戦う力を失った小さな個体”でもあった。


沈黙の中で、最初に動いたのは昨日と同じ男だった。

 納屋の前に立ち、少しだけ息を整える。


「……俺が見ておく」


短い言葉だった。

それでも意味は明確だった。


「ラウル、助けるのか?」


誰かが聞く。

ラウルと呼ばれた男はすぐには答えなかった。

視線だけを納屋の方へ向ける。扉の向こうには、まだ警戒心を失っていない気配がある。


「助ける、じゃない」


少し間を置いて、ラウルは続けた。


「まだ、どうするか決めきれないだけだ」


それは村にとって、折衷のようでいて、実際には保留だった。

完全な敵として扱うこともできない。

かといって、仲間として迎えるには早すぎる。


だからこそ、“見張る”という形が選ばれた。

納屋の鍵は外されないまま。

しかし食事だけは、毎日少しずつ置かれるようになった。


村人たちは納得しているわけではない。

それでも、誰も強く反対はしなかった。

まだ結論が出ていないという事実だけが、彼らの不安をかろうじて宥めていた。


納屋の中で、ゴブリンはその変化に気づいていた。

扉は開かない。

自由もない。

だが、昨日とは違うものがそこにあった。

食べ物が、少しだけ“待たれている”。

その意味を、この時の彼女はまだ知らない。

ただ、ほんのわずかに、空気が変わったことだけを感じていた。

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