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04 最強

 私、メルヴィン・シド・エインズワースは驚愕していた。


 それは、ノアという白い大きなぬいぐるみに座る我が末弟であるアーサーについてだ。


 アーサーによると、アーサーの『魂の魔法』はぬいぐるみを操ることらしい。ぬいぐるみが大好きなアーサーらしい魔法だと思った。神々はよくよくアーサーのことを見ていると感心したほどだ。


 しかし、それだけでは説明ができないことがある。


 それは、アーサーが猫のぬいぐるみ、ミアの影の中に入ってしまったことだ。


 『魂の魔法』は一人につき一つだけ。その原則は変わらないはず。ぬいぐるみを動かすというアーサーの魔法と、影の中に潜るという魔法がどうしても私の頭の中で結びつかなかった。


 しかし、どちらも実際に私の目の前で起きたことだ。私は私のことを疑問に思うことはない。


 つまり、どちらも成立する抜け道のような方法があるということに他ならない。


 ここでまず疑うべきは、新しく『魂の魔法』を賜ったアーサーだ。


 だが、彼は嘘を吐いていない。


 私の弟は、嘘を言う時、必ず瞬きの回数が多くなるからね。


 今回はそれが確認できなかった。


 ということは、アーサーの仕業ではない。これは確定だ。


 私の知る限り、この場にアーサーを猫の影に入れられる魔法を使える者はいない。


 では、遠隔での犯行か?


 しかし、この場に猫のぬいぐるみがいたことは偶然性が高く、かつ、我々の大事にしているアーサーを標的にした上でのメリットが、我々エインズワース王家を敵に回すメリットがない。


 残るは愉快犯の可能性と……。


 私の視線は、自然とミアと呼ばれた猫のぬいぐるみへと向く。


 ミアはアーサーの足元でくつろいでいた。まるで本物の猫のようだ。


 父上がアーサーを引き上げた時、真っ先に抗議したのがミアだった。


 そのことを考えれば、自ずと答えは絞れてくる。


 だが――――ありえるのか?


 アーサーの『魂の魔法』はそこまで可能なのか?


「ははっ」


 気が付けば、私は笑みを浮かべていた。


 アーサーはもしかしたら、最強の『魂の魔法』を賜ったかもしれない!



 ◇



「父上、少々内密なお話が……」

「ん?」


 儂、コンラッド・シド・エインズワースは、息子であるメルヴィンに呼ばれたのは、アーサーが暢気な顔をした白い大きな犬のぬいぐるみの首筋を撫でている時だった。


 儂としては、もう少しかわいいアーサーの姿を見ていたいのだが、息子に内密の話と言われれば耳を傾けざるをえない。


「父上はアーサーの『魂の魔法』をどう見ます? とくに、ミアの影にアーサーが飲み込まれたことについてですが……」


 二人で少しだけその場を離れると、すぐにメルヴィンがまるで問い詰めるように口を開いた。その目は爛々と輝き、嬉しさが爆発しそうだ。


「ほう?」


 元々冷静沈着で周囲をよく見ている男だと思ってはいたが、メルヴィンも違和感に気が付いたらしい。


 そう。アーサーをミアの影に入れた者が何者かという点だ。


 儂はこの場にいる者の『魂の魔法』について知っている。それによれば、誰もアーサーをミアの影に入れられる者はいない。


 しかし、実際にアーサーはミアという猫のぬいぐるみの影の中に入っていた。


 それはなぜか?


 確証は持てない。だが――――。


「儂の勘だが、あのミアというぬいぐるみが怪しいと思う」


 儂の言葉を聞いて、メルヴィンが我が意を得たりと言わんばかりに大きく頷いた。


 他の者が聞けば、一笑に伏すような内容だろう。


 だが、メルヴィンも儂と同じことを考えているのだとわかった。


「さすが父上ですね。普通は自分の頭を疑うような内容も、勘の一言で済まさせてしまうとは。まったく、父上の勘は素晴らしい。そして、私の考えと、父上の勘が合わさった時、外れた例はございません」


 そう得意げに言うメルヴィン。少し、メルヴィンの子どもの頃を思い出す仕草だ。


「そうだったな。メルヴィン、お前はどう思う?」

「もし、アーサーの『魂の魔法』が、ぬいぐるみに命を与え、おまけにそのぬいぐるみが魔法のようなものが使えるとしたら……。これはもうちょっとした奇跡ですよ。さすがになにか制約はあるでしょうが、それを差し引いても余りある能力です。もしかしたら、最強の一角に手が届くやも……」

「ほう?」


 メルヴィンは知性に優れている。そのメルヴィンが敢えて最強という言葉を使った意味は大きい。


 最強。それは、一人で戦況を変える者。一人で地図を書き換える者。


 儂らの治めるエインズワース王国は、列強同士の空白地帯に位置する小国だ。いつ何時、列強の国々が我がエインズワース王国に手を出してくるとも限らない。


 それ故なのか、我らエインズワース王国民は強さというものに憧れを持つようにインプットされているように、自らを、そして自らの『魂の魔法』を鍛えることを怠らない。


 そんな国の王族の生まれであるメルヴィンが使う最強という単語は決して軽くはない。


 諸外国とはまず人の数が違う。国土の広さも違う。国力など比べるのもバカらしいくらいだ。だが、タダでやられるつもりはない。


 それは我がエインズワース王国民の総意と言ってもいい。


 世界の情勢は戦争へと向かっている。


 そんな中で、このエインズワース王国を守れる者の存在は喉から手が出るほど欲しい。


 もしかしたら、エインズワース王家の悲願を、一番縁遠いと思っていたアーサーが叶えてくれるかもしれない。


 そのことを考えただけで、儂の胸は高らかに弾んでいた。

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