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05 ミアの能力

「ぬいぐるみを動かすなんて、アーサーにぴったりの魔法じゃねえか。お前、ぬいぐるみ大好きだもんな!」

「ふふっ。本当にそうですね。よかったですね、アーサー」

「はい。ありがとうございます、ブライアン兄上、母上」


 ようやく目が回るのが治まって、僕はノアから立ち上がった。


「ありがとう、ノア」

「ワフ!」


 僕はノアの首筋を撫でると、ノアは嬉しそうに目を細めていた。


 いったいどうなってるんだろう? 本物の犬みたいだ。


 その時、足に何かを感じた。下を見ると、黒猫のミアが私も撫でろと言わんばかりに僕の足に尻尾を巻き付けていた。


「よいしょっと」


 僕はしゃがんで左手でノア、右手でミアの顎をこちょこちょ撫でる。


 すると、ミアはゴロゴロと喉を鳴らし始めた。本物の猫みたいだ。


「アーサー」

「はい?」


 呼ばれたので見上げると、父上は真剣な顔で僕を見下ろした。


 どうしたんだろう?


 父上は僕と視線を合わせるように片膝を突くと、チラッと僕の横にいるミアを見下ろして口を開く。


「アーサー、アーサーは儂らから見ると、この猫のぬいぐるみの影に入っていたのだ。儂らは、アーサーの『魂の魔法』の力によるものだと思ったのだが、アーサーの魔法は人形を動かすことだと言っていたな? そこで考えたのだ。では、アーサーをミアの影の中に入れたのは誰なのかと」


 父上の視線は僕の足元でくつろいでいるミアに向かっている。


 ここまでされれば、鈍い僕にも父上が何を言いたいのかわかった。


 父上の後ろでは、メルヴィン兄上が興味深そうに僕とミアを見ている。


「父上はミアがやったと思っているんですね?」

「そうだ」


 重々しく頷く父上。


 正直、僕には父上の言っていることがよくわかっていない。


 だって、ミアがそんな魔法のような能力を持っているとは思えなかったから。


 でも、僕は父上のことを信じている。


 理由はそれだけで十分だった。


「ミア、できたらもう一度、僕を影の中に仕舞ってほしいな」


 ミアは「こいつは何を言っているんだ?」と言わんばかりに首を傾げて僕を見上げていた。


 そして、次の瞬間。僕の視界は再び真っ暗になる。


「うわっ!?」


 覚悟していたはずなのに、驚いて声が出てしまう。


「おお! アーサーが消えたぞ!」

「あらあら?」

「すげえええええええええ!?」

「やはり! やはり! 私の推論は間違っていなかった!」


 上から声が降ってくる。


 見上げれば、真っ暗な空間の中で猫の形に空間が切り取られたように下から父上たちを見上げていた。


 最初の時はわからなかったけど、ここってミアの影の中なんだ。


 見渡すと、真っ暗な空間がどこまでも広がっているような気がした。こんな所で迷子になったら……。そう思うだけで怖い。


「アーサー! 聞こえるか?」

「はい! 父上!」

「会話は可能なのか。こっちからは普通の影にしか見えんが、この中にアーサーがいるのだよな?」


 父上がこちらに手を伸ばすけど、その手は途中で止まってしまった。


「ふむ……。こちら側から干渉はできんのか」

「このままアーサーを影に入れたまま移動はできるのでしょうか?」


 メルヴィン兄上の声に反応するように、見えている景色が動き出した。


「うお⁉ こいつ、動いたぞ!? 中のアーサーは大丈夫なのか⁉」


 ブライアン兄上が心配そうな声を出している。


「大丈夫です!」

「そうか……」

「にゃー」


 僕の言葉にホッとした様子のみんな。その姿を見て、ミアが不満そうな声を出す。


「アーサー、影の中には何があるんだ? 影の中はどうなっている?」

「中は真っ暗です、メルヴィン兄上。でも、かなり広い空間が広がっている気がします」

「広い空間……。それだけのものを入れることができるということか……? つまり……! ふむ」


 メルヴィン兄上がまたいたずらを思いついたのか、悪い笑みを浮かべているのが見えた。


 人はメルヴィン兄上のことを真面目な好青年だと思うみたいだけど、それは半分当たりだけど、半分ハズレだ。メルヴィン兄上はたしかに貴公子のように誰にでも優しくて気配りができるけど、その実、人を驚かせるのが大好きなのである。


 僕にいろいろいたずらを教えてくれるのもメルヴィン兄上だ。


「ミア、そろそろ出して」

「にゃー」


 その後、いろいろと父上やメルヴィン兄上の思いついた実験をした後、やっと僕はミアの影から出てくることができた。太陽の光が眩しいよ。


「ワフ!」

「ノア!」


 ずーっと待っていたのだろう。僕が外に出ると、ノアが飛び込んできた。


「なるほど、なるほど……」


 メルヴィン兄上が、いつの間にか手にしていたノートにいろいろ書き込んでいる。


「アーサー、お前の魔法はすげえな! こんなに驚いたのは久しぶりだぜ!」

「わわっ」


 ブライアン兄上がそう言って僕の頭をゴロンゴロン振るように撫でる。


「ブライアンの言う通り、儂も久しぶりに驚いたわい。これはもしかすると……」

「あらあら、まあまあ」


 父上の言葉に、今度はみんなの視線がノアに集まった。

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