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第1話 3月3日:親友との語らい【旧校舎屋上】

「悠……俺がお前を女にしてやるよ」


 どこのレディースコミックだよ、って感じのセリフを口にしたのは主人公。


 そして俺はその親友ポジションのサブキャラ、周防悠(すおうゆう)


 転生したらギャルゲーの主人公の親友キャラだったってやつだ。


 まあ、それはいいんだ。

 実際そんな悪い役どころじゃないからな。なんせ俺は古典的な三枚目キャラじゃなくて少し華奢な美少年なんだ。


 人生お先真っ暗な底辺社畜リーマンが過労死したら、顔も実家の太さも揃って人生やり直せるんだから。


 ただ大きな問題が。


 目の前の主人公が俺をヒロインとして攻略しようとしているんだ。


 奴が―――主人公、高峰拓斗が迫る。


 旧校舎の屋上。降り注ぐ陽の光が頭一つ分高い拓斗の高身長に遮られ、俺に影を落とす。


「嬉しいよ……悠。俺、ずっとこの時を夢見てたんだ」


「ま、待てよ拓斗」


 拓斗が歯をみせてニヤリと笑う。

 一見すると細身の優男に見えるが、実際は地元のDQN程度なら絡まれたら即ぶちのめすくらいのちょい悪主人公。

 小学校から一緒だった俺が悪ガキどもからいじめられるのを守ってきたっていう設定。


 正直俺にしてみれば直に見たのはほんのさっきなんだけど。


――――そう、始まりは今日の朝だった。


 ”チュンチュン”

 と鳥の鳴き声で目覚めた俺は混乱していた。


 会社で椅子寝していたはずが、気づいたら小綺麗な和室の高級そうな布団の中だったのだ。

 目をこすりながら起き上がれば、横の鏡に映っていたのは連勤でボロボロに荒れた顔とは似ても似つかぬ少年のぽかんとした表情。


『誰だ……これ……えっ……いや、何か見覚えあるぞ』


 鏡の中の姿と学生証やらで自分が『ささやきのムエット』というギャルゲーの主人公の親友キャラ、周防悠に転生したらしいと分かった。


 『ささやきのムエット』は元はセカタサーンという大昔のゲーム機で発売されていたギャルゲーだ。3年間の学生生活の中で5人のヒロインと仲を深め、卒業式の日に想いを伝え合い結ばれるというオーソドックスな学園恋愛もの。


 当時はマイナー作だったが、キャラデザが当時の新鋭で今の大御所funio先生。その神絵師の最新の絵柄でリメイクされた新版を、先生のファンである俺は一月前に購入していた。


 数回プレイしただけで忙しくて放置状態になってしまっているが、そのときの知識で今がゲーム最終日の高校卒業の日であることが分かった。


 最後にプレイした時にそこまで進めて、いざフラグたてたヒロインと結ばれて、というところでデスマーチが始まってお預け状態だった。多分それが俺が命を落とした理由であり、その未練によってこの世界に転生したんだと思う。

 なぜか主人公じゃなくてその親友キャラだったわけだが。


 俺はひとまず周囲をごまかしつつスマホ頼りで何とか高校まで来た。そして卒業式を終えて自由時間になった今、ゲーム中のホームポジションであった学校屋上に来ていた。


 そこで主人公である拓斗と顔合わせ。

 卒業式をさぼっていたらしい拓斗は壁にもたれかかったけだらけた姿勢のまま、三年間でいろいろあったなあと回想を語りだした。


『聡美は進路を医薬研究にするってさ。自分と同じ患者を救ってやりたいって言ってる』

『未優は大学でもう一度バスケに挑戦することになった。またあの地獄のトレーニングに突き合わされんのかな』

『理央ちゃんは3年になってもまだロリのまんまなんだが、そのくせ夢がお嫁さんからお母さんにパワーアップしてんだぞ』

『愛海先生は来年から教員に正式採用が決まった。美術部員にさっそく顧問の依頼を受けてたぜ』

『亜希は結局、進路を理系のままにするそうだ。今の時代はそっちの方が小説家の売りになるって。頭いいやつは考えることが違うな』


 ヒロイン総勢5人との思い出と彼女たちのこの先。明らかに個別イベントが進行している感じのセリフ。


 どういうことだよ。『ささット』はストーリー分岐型のテキストゲームだから全員と知り合うことはできても同時攻略なんてできないというのに、どうも全員の攻略ルートに入っているらしい。


 いや、できるのか。

 今はここが現実なんだ。ゲーム中は選択肢が出てこないとこっちからヒロインにからめないけど、もうそんな制約なんてない。ヒロインそれぞれのメインイベントが時期がずれてさえいれば同時に進めるのか。


『相変わらずだね、拓斗は』 


 俺はたしか悠はこんな感じだったよなと思い出しながら口にした。


 今ごろ拓斗の目の前には5択が表示されているんだろう。

 これからそれぞれのヒロインと縁深い場所にいけばその娘と結ばれるわけだ。


 元プレイヤーとしては悔しい。だが拓斗のセリフからすれば彼女たちの苦悩を救ったのは奴なんだろう。俺はせいぜいそのサポートを務めただけのはずだ。ならば俺にでしゃばる資格はない。


 とはいえ面白くなくて俺は、拓斗から離れた。

『拓斗が女の子といちゃついてるとこなんて見てたくないから僕はもう行くね』

 

 すると拓斗は突然叫んだんだ。


『はっ、ははっ。やった、やったぞ! やはり悠のルートに入れたんだ!』


 えっ!? いまルートって言ったか!?


 まるでギャルゲーみたいな物言い。俺は意味がわからないと同時に言いしれぬ不安感がこみあげてきて後ずさった。


 そんな俺を見て拓斗は笑顔を向けてくる。


『大丈夫さ、悠。俺ならお前の全てを受け入れる。悠の家のしきたりもお前の葛藤も全てを。だって俺たち親友だろ』


 拓斗の意味不明な言葉に思わず素で返してしまう。

『俺の家のしきたりって何だよ』


『俺? ふっ、無理に男ぶるなよ。もうそんなことしなくてもいいんだ。周杜家のくだらねえ因習。直系の男のみが退魔の宝珠を受け継ぐことができるってな。そのために一人娘のお前が男のフリをさせられてることは分かってるんだ』


 えっ!? なにその設定。


 たしかに悠の家は古い平屋の日本家屋で、敷地内に神社めいた建物もあったりしたけど。両親は多忙で、子供の面倒は年配のお手伝いさん任せ。何か事情がある家だとは思ったけど。


 悠ってサブキャラなのに、そんなキャラ立ちするバックストーリーあったの? ギャルゲーで主人公より目立つとかだめだろう。


『嬉しいよ……悠。ずっとお前だけを見ていたんだ。さあ、ハグだよ悠。そうすれば俺たちは一つになれるんだ』


『ま、待てよ拓斗』


 俺はしばらく呆然としてしまっていた。慌てて叫ぶ。


『何を言ってるんだよ拓斗。まるで俺がヒロインみたいじゃないか。お前のヒロインは聡美さんたちだろう!』


『あんな胸に栄養全部いっちまったような、押し付けがましいフェロモン振りまいてるような奴らにか? あいつらは悠とのフラグをたてるために利用しただけだ』


 あん? こいつ何いってんだ。神絵師funio先生渾身のデザインである、あのえっちさと可愛さを両立させた奇蹟のヒロイン達を利用しただと…………と、今はそれよりも大事なことがある。こいつはたしかにフラグって言ったぞ。


 ルートにフラグ。

 どちらもゲーム用語として世に広まった単語だ。

 とはいえ、それを現実(リアル)に適応させようなんてやつは重度のゲーマーか、あるいは…………


『なあ、拓斗。お前、もしかして転生者か? それともプレイヤーって言ったほうがいいか?』

 主人公役にはすでに他の転生者が入り込んでた。それなら俺が親友キャラにとばされたのも分かる。


『えっ、悠。もしかして、お前も……』


 俺はうなづいた。

『今日、この世界に来たばかりだ』


『う……嘘だろ……俺のメインヒロインの悠の中に本物の男が入っていただと…………こんな可愛い少女の中身が男だと…………』


 ショックに身を震わせている拓斗。

 

 つまり、こういうことか。この主人公はヒロイン全員だけじゃあきたらず、隠しキャラである主人公の親友キャラも攻略しようとしていたんだ。実は女の子だったサブヒロインを。


 俺のわずかなプレイ経験では悠が女の子だなんてストーリー展開はなかった。だが、たしかに思い当たるふしはある。


 まず声優は女性が担当していた。

 それにいわゆるサービスシーンである夏の水着イベントでも、同行していた悠は肌をさらすことがなかった。


 そのとき主人公が、

『子供の頃からその素肌を誰も見たことがないから、実は悠は女の子かもしれない。いやきっとそうだ、よし俺と付き合おうぜ』

『なに言ってんの拓斗!?』

 なんていう、コメディパートもあった。


 それに誰とも結ばれなかったノーマルエンドの一枚絵は、主人公と悠が肩を組み二人で連れ立って学校を出ていく構図。


――――やっぱり拓斗のそばにいるのは僕だったね。


 そんなはにかんだ笑顔とセリフ付きで。


 俺は『ささット』の初回プレイでそのエンドになってしまい、めげながらも悠って可愛いよなという印象は抱いていた。


 だから悠が実は女の子な隠しヒロインだというのは分からなくはない。


 目の前の主人公は『ささット』をやり込んでるようだが、それならそんな隠し要素も知っているんだろう。


 だけどそういうのはあくまでお遊びとかIFルートみたいなもんだろう。現に今の俺は男だし、もちろん主人公と結ばれるつもりなんてない。


 当然拓斗にもそのように伝えた。


『そうだ、俺は男で間違いないんだ。だからその実は女の子だったサブヒロインルートは諦めてくれ』


 だが拓斗は予想外の反応を見せる。いきなり両手を天にあげて歓喜の叫び。

『神よっ! いや、女神様か? ああ、感謝します! 俺にTSヒロインをお与えくださったことに!』


『えっ……TSいけるの……お前』

 俺は思わず後ずさって壁にぶつかる。

 拓斗が恍惚とした表情で一歩近づく。


『ああ、最高じゃねえか。こんなの通常ガチャでレア5キャラが来たような幸運もんだろ。柄にもなく子供助けて死んじまった俺への女神様からのご褒美だぜ』


 トラックに飛びこんだのか、通り魔の前に立ちふさがったのか、転生者であることが確定した拓斗が熱をこめて語りだす。


『悠、お前なら分かるよな。日本の創作界は常に進化し美少女の枠を広げてきた。ボクっ娘や男装ヒロインから始まり、男の娘やふた※※とバリエーションを増やし、くだらん常識や偏見をぶち壊してきた。

――――そしてその至高、究極の美少女こそがTSだ!』


 TS(transsexual(性転換))


 男が女に、女が男に。肉体の性別が変わる現象。そして二次元界隈では性癖として捉えられている。

 俺にはさっぱり分からないが、ただの女よりも元は男だったがTSして女になったヒロインの方がいいという需要があることは知ってる。


『今のお前が男? ああ、それでいいんだよ悠。TSは”成る”んだよ。

 ただ女に生まれたというだけのヒロインなんか目じゃない。元が男でありながら女の肉体を得ることで己の中に喚起される女というイデア。それこそが真の理想のヒロイン。元々存在しなかったが故にこそ到達できる美少女の極地! それこそがTS!

 だからさ――――』


 主人公は目を輝かせて言った。


『悠……俺がお前を女にしてやるよ』

 作者は短編・長編でコメディ作品を多数書いております。ページの下部にリンクがはってありますので、よろしければこちらもご覧下さい。

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