同情
何で……
どうして
あの男が屋敷にいる……
不死身とか強キャラとか最早そんな次元の話じゃない。
「グラドム……スマン!」
スライムのごとき湧き率を誇る変態(不死)はカズマサの手に余った。
懐から取り出した爆竹擬きを上空に投げた彼女は港へ一直線。
バチッバチバチ
「撤退だー!」
「閣下が撤退の合図をなされたぞ!準備しろー!」
そう、カズマサは大陸レベルで逃げる気だった。
「我が妃ィィィ!!!!」
「やっぱり追って来たか!」
カズマサが下を見ると変態が三次元的な動きで屋根の上をぴょんぴょんと雄叫びを上げながら飛び回る。
俊敏性は彼方が高いので生霊に飛行モードがなければ詰んでいたかもしれない。
生霊様々と思わず褒め称えたい所だが、変態はカズマサのほぼ真下からこちらを見上げているのだ。
「カーマサちゃんンンン!!!!」
「俺には分かる…あれはヤバイ奴だ。」
自分だけなら兎も角、雑に抱えられただけの彼らを何時間にも及ぶ空の旅に招待するわけには行くまい。
ペケは糞尿垂れ流しだろうが関係ないが、カズマサは例え人妻や彼氏持ちであろうと『女性』を雑に扱うなんてあり得ないと本気で思っている。
グウェンの為にも港に用意されている聖翼所有の船に乗り込まなければならないのだ。
「(だが、引き離すなんてはっきり言って無理だ!ァァ男なんて助けるんじゃなかった!)」
カズマサは彼女の尻にしかれ変態と屋敷で二人っきりのペケが余りにも不憫に思えて救出しに戻った数分前の出来事を後悔する。あのタイムロスさえなければ上手く逃げ切る事が出来たかもしれないのに己は何と、何と!馬鹿な真似をしてしまったのか。
「思えば俺は男がらみでろくな事がねぇ!女性との関係は薄く狭いというのに!何なんだこれは呪いなのか!」
「妃ィィィ!!!!」
「うるせぇぇ!!!!」
カズマサは思わず手に持っていた石を投げる―――ような感覚でペケを投擲した。
「「あっ」」
「あぁ!?」
「妃ィィィ……オゴフッ!」
不死の変態もまさか人を投げつけるとは思っていなかったのか二人は仲良く激突し家屋の屋根をぶち抜いて落ちて行く。
「―――カーマサちゃん今のうちよ!」
「貴方はもう少し優しさを持つべきでは!?」
彼女持ちの男性など憎悪の対象でしかなかったが、やはりペケだけは同情の念を感じずにはいられない。
一応船まで行き着いたカズマサは色々迷った挙げ句、ペケを助けに戻る事にした。