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見つかり、戦って(5)

前回までのあらすじっぽいもの:敵の攻撃を利用し、敵を攻撃して…

 しかしアキラも、コレで相手に傷を付けようだとは思っていなかった。


 迫ってきているのが分かっていた敵の足止めと、この攻撃を放った敵への牽制。それだけが狙いだった。

 敵としては遠距離からの挟撃ではなく、あえて接近することで、アキラに追い詰められているのを意識させ、動揺させるのが狙いだった。

 だがそれは、完全にアキラに利用される形となった。

 まさに裏目。

 これ以上の攻撃はさらに反対側の仲間を傷つけてしまう。

 攻撃を止めざるを得なかった。



 でもそれが、アキラの狙いだった。



 遠くから攻撃をするのを躊躇った。

 それを確認した刹那、自らが作り出した二つの壁の隙間へと飛び込み、先程壁の向こう側へと落としておいた、地面に突き刺さったままの中剣二本を転がりながら回収。


 そのまま剣を握り直しつつ前転。

 両足を地面に着けると同時、力を込めて地面を蹴り、一気に相手との距離を詰めにかかった。


 ……中途半端な距離。

 一度止めた『変化術』による攻撃を再開するには、微妙に距離が足りないだろうと経験則が訴えてくる。

 だがこのままただ接近されてしまえば勝てない。

 『形態変化』で武器を作り対峙した場合、人口金属とぶつかればあっさりと崩れてしまうのだから。

 しかしそれが分かっていても、この距離で全員が遠距離戦を仕掛けることは出来ない。


 だから……二人が手を地に触れ、扱い慣れた金色の短剣を生み出し、残りの四人が数歩後ろに下がり、しゃがみ込んで遠距離だけの攻撃に切り替える。


 迫るアキラを見て、敵はすぐさまそう判断。

 誰が盾となり、誰が砲台となるのかをアイコンタクトで決める。

 人二人を盾にしてでも仕留める覚悟。……そういうことだ。


 そもそも今回の襲撃だって、人数の半分を犠牲にしてでもナナ姫を殺すこと、に重きを置いている。

 それ故の挟撃作戦。

 アキラが想定していたよりも強いせいで、これだけの犠牲が出てもいまだ殺せていない……あまつさえ、追い詰めることさえ出来ていないだけで……。

 想定通りなら、半分を相手にしている間に、反対側から迫るもう半分が既に女二人を倒し終えているところだったというのに、だ。


「…………」


 ここにきてようやく、こちら側の敵も、アキラが強敵だということを理解した。


「なるほど、ね」


 対してアキラは、前衛二人に後衛四人。そのフォーメーションを見て、すぐさま前衛を犠牲にしようとしている作戦を理解していた。


 即座に対策に乗り出す。


 走る勢いをそのままに、まずは一人目の黒ずくめに斬りかかる。

 速く隙の無い一撃ではあるが、単調なその攻撃は、当然のように金の短刀で受け止められる。

 だが斬られるはずだった身体の変わりを勤めた金の短刀は、不快な耳鳴りのような音と共に砕け散った。


 そうして無防備になった仲間を助けるためか。もう一つの影がアキラの背後へと回り込みながら、その背中を狙って回し蹴り。

 視界の端に映ったその攻撃を、斬りかからなかったもう片方に握る剣の柄で止める。

 それだけで、影が『形態変化』させ持っていた金属性の短剣が砕けた。

 その手の中で起こった変化に僅かばかり動揺している隙を衝いて、剣を切断し終えた中剣を、後衛へと退いた四人の群れへと投げ放つ。


「っ」


 四人の中に動揺が走る。

 その中で一人、自分が狙われていることを悟った黒影が、その飛来してくる剣を跳ねるようにして避ける。


 これで、四人が一斉に攻撃出来なくなった。


 何も全員の攻撃を妨害する必要は無い。

 リズムを崩して同時攻撃させないだけで十分だ。


 そもそもオトリの二人を無視して、四人の攻撃を妨害しに行くことなんて出来るはずもない。

 だから、先程の土壁の扇を、そのまま盾として利用することにした。

 まだ、コガとナナ姫を守っていたソレは無くなっていない。

 けれども、四人一斉の『変化術』を受ければ、さすがに崩壊してしまう。すでにアキラの手を離れ、享受と転嫁の効果が無くなっている以上。

 そうなると、防ぎきれなかった攻撃が二人に及んでしまう。


 それだけは避けなければいけない。


 それ故の牽制。


 攻撃の手を四人ではなく三人に減らすための攻撃。

 三人なら大丈夫。

 その強大な盾は破壊されて使い物にはならなくなるが、三人による攻撃を一度だけなら、二人は守りきれる。


 だがそのためには、まだ一手足りない。



 だってあの土の扇は、泥のままだから。



「しっ!」


 しかしその足りない一手を指すよりも速く、剣を投げた直後のアキラを狙って、黄金の剣を切断された敵が鳩尾を狙って拳打。

 追撃がくることなく敵の手から剣が無くなったのを見て、距離を取らずに攻撃へと転ずる方を選んだのだろう。


 その考えはアキラも理解できる。

 だから、既にその攻撃はアキラも読んでいる。

 彼は躊躇うことなく重心を傾け、その拳を上げた膝で防ぐ。

 さらに追撃として放たれた顔面への掌底は、空になった肘で防ぐ。


 背後に移動し回し蹴りをした敵も、足を下ろし軸足にし、足払いに切り替え放ってくる。

 が、完璧のタイミングで片足をあげ、その足を踏みつけ勢いを殺し止める。


 ――ここで、先程後衛へと投げた剣を敵が避けた。



 この、タイミングだった。



 アキラは右手に残った中剣を逆手に持ち、振るい、正面にいた敵を遠ざける。

 次に踏みつけていた足を上げ、その踏みつけていた足の骨を折る勢いで足を振り下ろす。


 そうして、前衛として残された二人に距離を取らせる。

 そして、再び間合いを詰められるよりも速く、アキラは手に残る中剣を膝を曲げながら土壁近くの地面目掛けて投げて突き刺し、空いていた手を地面へと触れさせ、先程から移動手段として使っていた伸びる道を作り出した。

 その伸びていく土の道の先端に乗り、二人の包囲網から抜け出す。



 その、道の向かう先は……先程中剣を投げた、後衛の四人。



「っ! 避け――」


 中剣を投げられ避けた男が、目くらまし目的で大きく蛇行しながら迫るアキラの姿を見止め、慌てて指示を出す。

 だが他の三人はすでに『形態変化』を放つ直前だったのか、その咄嗟の警告に反応できない。

 顔を上げてアキラを見ても、動けなかった。


 だからアキラは、遠慮なく、そのうちの一人を轢き倒した。


 伸びる道の速度はかなりのもの。

 ましてソレは土の塊。

 馬車に轢かれる以上の衝撃がある。


 そうして一人を倒して――攻撃を二人分に減らしたところで、道をアキラが生み出した扇形の土壁へと向かわせる。

 そして先程投げて地面へと突き刺しておいた中剣を、右手を伸ばしパシッて回収。


 拾うと同時、道がボロボロと崩れ消失した。

 人口金属による『形態変化』の阻害。


 結果、残った運動能力によって、アキラは地面に放り投げられた。


 ゴロゴロと地面を転がって受身を取り、土の壁の前へと戻ってくる。



 そうして戻ってきたアキラの背後に、敵の『変化術』の群れが迫ってきた。

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