見つかり、戦って(6)
前回までのあらすじっぽいもの:順調に敵を倒していく中、守る女性二人に迫る攻撃
迫る攻撃の規模は三人分。
中剣を投げられ反応し、遅れてしまった一人の分は、二人分の金色の矢郡の後ろに。錐の群を成して迫ってきている。
ここで先程みたいに、相手の攻撃を受け止め・吸収し・転化するよう泥の扇壁を『形態変化』させるのが一番良いのだが……ムリだ。
さっきよりも準備時間が圧倒的に足りない。
アレは万端で待ち構えてようやく可能な芸当だった。
今は時間が無い。
精々泥の強度を上げるのが限界だ。
土を金属性に変えるよう『変化術』を用いるのだって、アキラの力ではもっと無理。
だから泥から、堅い石を所々に含んだ堅牢な土壁へと変えていく。
だがそれすらも、万全とは成らなかった。
万全に成るよりも早く、二人を守る盾と成していた壁へと、攻撃が集中し始めてしまった。
黄金の矢、とはいえ、その小さな一撃は確実に、壁に突き刺さりヒビを入れ、耐久度を奪っていく。
小さな破片が落ちていく。
次々と、堅牢にしていくところだった盾が、崩れ落ちていく。
それでも、全て突き刺さってもギリギリ耐え……――
――……第二波の、黄金の錐の群れで、ガラガラと大きな音を鳴り響かせ、崩壊した。
「くっ……!」
崩れた際に発生した突風に、身体が持っていかれそうになる。
そんな中、アキラはなんとか踏ん張って、その場に留まろうとする。
だがその突風の次は、崩壊した大きな土壁から、土煙が大きく上がる。
おそらく壁を堅くするために槌を乾かしていたからだろう。
吸収・転嫁のために泥にしていた土を、本当の意味での壁と盾へと変えるために。
しかしそのせいで、壁があった場所を中心に、一帯を土色の空間が支配した。
アキラと、ナナ姫を抱き包んで庇ったコガの三人が、その中に呑み込まれる。
それを好機と見てか、十人が一斉にその場から静かに移動し、『変化術』と『形態変化』を使えるよう、地面に手をつけ準備する。
土煙の中にいては、移動した彼らを見ることは出来ない。
相手も土煙の中では身動きは取り辛い。
でも、その場から動かないという選択肢をとるはずが無い。
相手に記憶されている場所に留まっていれば、いつ攻撃が来てもおかしくは無いからだ。
故に、男達は相手の姿を見止めるまで、手を出さない。
相手が移動しているだろうと確信しているから。
だから、土煙の中に向けてテキトウに攻撃するよりも、煙が晴れるまで待つことを選んだ。
そもそも、残っている男達の数は十人。
その位置は、六人は一方に固まっているが、他の四人は向かいの同胞の攻撃を避けた際、散ってしまったままで見事にバラバラ。
けれどもそれが、上手い具合に包囲の形を取っている。
これだと土煙に紛れて逃げることも出来ない。
それもまた、煙が晴れるまで待つ理由の、一つの要因となっている。
あとは、この姿を隠す煙が晴れた瞬間、一斉に攻撃すれば、それで終わる――
――そう思って準備していてしまったが故に、土煙の中からの攻撃に対処が遅れた。
ドンドンドン……! と六人が固まっていた方角から、大きな地鳴り音が聞こえてきた。
それが何か……? バラけていた四人が怪訝に思っていると、すぐさまその正体が判明した。
土煙の中からの攻撃だった。
それも、黄金色の槍や矢や錐といった、先程放たれた『形態変化』を流用しての。
しかしその攻撃であれだけの大きな音が鳴り響くか、と思考を巡らせながら、その攻撃を跳ぶようにして避ける。
その思考の答えへは行き着くべきだった。
だって攻撃は、それで終わらなかったのだから。
正確無比に、避けた先の着地点を予測し、四人全員に、人一人を余裕で圧し潰せるほどの大きな岩が放り投げられてきた。
その岩の中には、何かを反射しているものまで。先程同胞が放った黄金の武器類が、太陽の光を受け反射していたのだ。
それはつまり、先程攻撃を受け止める際に使って、破られ壊れた土扇の欠片だということ。
やられた……!
残った黒ローブの一人が、内心で舌打つ。
さっきの大きな地鳴りはコレだ。
この、大きな岩が落ちてきた音だったんだ。
土煙の中へと攻撃するため、しゃがみ込んで準備しているところに、不意打ちで攻撃を放つ。
立ち上がっての移動をさせないために、あえて低い位置を狙って。
そうすることで跳躍による回避を強制させ、さらに避けた先の着地地点を読み、そこを狙って上空から岩を落とす。
回避が難しい二段構えの攻撃。
もしあの攻撃が土煙の中からでなければ、こんな攻撃はあっさりと読み、隙なく避けることなんて容易かっただろう。
男達だって、土煙が晴れてからの攻撃の準備、なんてものを必要としなかったのだから。
だからといって、土煙が立ち込めている中目掛けて攻撃するのは得策ではなかった。
『形態変化』させたものはそのまま相手の武器になり得るからだ。
この二段構えの攻撃の一段目に、こちらの『形態変化』が流用されているのが何よりの証。
もしむやみやたらに放っても、避けられた『形態変化』を手に取られ、操られ、それで防御されるのが関の山だ。
だから、土煙が晴れるまで、の判断が、今でも間違いでは無いと、その男も思っている。
だから舌打ったのは、そのことではない。
舌打った理由は唯一つ。
相手の中に、気配を読むことに関してズバ抜けた才能を持っている人がいることを、忘れてしまっていたことだ。
土煙を囲う際、男達は皆気配は消して移動した。
移動した後も、気配を消し続けなければ読まれてしまうことぐらい理解していた。
十人全員が。
だから呼吸を、移動の際の足音を、殺していた。
そこからも音を発さないようにした。
それが当たり前で、むしろあえて考えるまでも無く、自然に行うことだと知っていたから。
にも関わらず、攻撃が的確に飛んできた。
……つい、男とばかり戦っていて、忘れてしまっていた。
相手はアレだけで、アレさえ倒せば他は相手にもならないと思ってしまっていた。
だから、その可能性に至れなかった。
土煙の中で合流し、気配を読み、攻撃の指示を出す。
……そんな、当たり前の可能性に。
考慮して当然の、当たり前の戦力がいることを……。
「裏切り者が……!」
憎しみを込めて呟きながらも、慌て地面に手をついて、上空目掛けて黄金の壁を作り出す。
自分を覆うためにの大きくなっていく影が、一瞬だけその広がりを止める。
その隙に走って移動する。
一度地響きがあり、それがなんだったのかを考えていたおかげで対処できた。
だがそうでなければ、足を動かすことも『変化術』と『形態変化』を使うことも出来ず、やられていただろう。
……あの、六人の同胞のように……。
「四人が残った、か」
アキラの呟きは、けれども敵四人も同じ気持ちを抱くもので……。
一瞬だけ壁の側面に止められ、けれどもバランス保てず、今度こそ地面へと岩が落ちる大きな音。
その音に掻き消えていながらも、強く耳に残った。
そしてようやく、その大きく砕ける岩の音の残響が晴れるのと一緒に、土煙もまた、晴れてきた。
アキラが作り出した壁。
崩落したその壁があったであろう場所の近くに、男の予測した通り三人が固まっていた。
そしてこれまた予想通り、その足元には瓦礫のようなものは既に無くて……。
「どうする? まだ戦う?」
アキラの問いかけ。
その問いをかけるは三人。
かけられるは……四人。
……考えるまでも無い。
「…………」
スッと手を挙げ、三人の中に残っていた司令塔らしき人物が退却の指示を出す。
完全な包囲攻撃を仕掛けたにも関わらず、九人がやられてしまった。
そんな敵を相手に、これだけの人数では勝てるはずも無い。
その判断は、指示を出された残りの三人も、納得できるものだった。
ここに、雌雄は決した。




