湯船に浸かりながら
シェールは、湯船に浸かりながら考えた。
「あんな、無責任な言葉……」
当一が言った言葉を、シェールは頭の中で反芻した。
「あんな言葉が通るんだったら、何も信用できなくなるじゃない……」
そういい、桶を使って、自分の頭にお湯をかけた。
頭の上から、お湯をかければ、自分の頭の中にある雑念を振り払えるかもしれないような錯覚を感じていたのだ。
髪が濡れ、髪から水滴がしたたっていく。それをぼうっ……としながら見つめていたシェールは、体を動かしてお湯から上がった。
そこに、風呂の入口を開ける音が聞こえる。
「リーシア……何をしに来たの?」
ドアを開けて入ってきたのはリーシアであった。
「お背中をお流ししようかと……」
そう言い、風呂場にかけてあるスポンジを取った。
「背中から硫酸でもかけられそうだわ」
リーシアが背中を洗うのに、シェールは皮肉を言った。
「お望みとあらば、明日から用意をしてくるわ。今日は普通に洗うだけよ」
そう言い、スポンジをシェールの背中に走らせるリーシア。
「当一って面白い子ね、まさか、あんな事を言うなんて」
リーシアはそう言う。シェールは、風呂の鏡を使いながらリーシアの表情を確認する。
「なんか、嫌な顔をしているわね」
シェールがリーシアの表情を見て感じた。シェールが持っている、今のリーシアのイメージと違い、優しく笑いかけてくるような表情をしていた。
だが、シェールはそれが不愉快だった。まるで、自分を助けるためにここにやってきたような感じだ。自分の事を見つめ、自分の事を助けようとしているような表情に見えたのだ。
「また、いつもの嫌味かしら?」
シェールの言葉を聞いても、それを気にせずに笑いかけてくるリーシア。
すると手を止めたリーシアはシェールの体に手を回した。
ギュッ……っと、シェールの事を抱きしめるリーシアは、語り続けた。
「私はあなたの助けにないりたいの。昔はよかったわ。二人共楽しく遊べて、二人の間に垣根なんて全く存在しなかった。二人はいい友達だったし、仲間だったし、姉妹よりに大切な物に思えていたわ」
「それを壊したのはあなたでしょう?」
シェールは言う。リーシアの方から、その関係を壊したのだ。リーシアは、シェールにとって、許せないような汚い手を使った。例え、敵を倒すためのものであったとしても、そんな方法を選んだリーシアが許せなかったのだ。
「それもそうね……今では、あなたが私のご主人様であるわけだしね」
シェールはリーシアの言葉を聞いて黙った。シェールとしても、こんな関係になるなんて、昔は思いもしなかった。
「それでね、ご主人様。当一の言葉をご一考くださらないかしら?」
シェールはその言葉に何も反応を返さなかった。
「私達はあなたに守ってもらうしかないのよ。あなたが何か信念を持ち、当一には、エスカッションになってもらわないといけない。私達が望んでいるのはその事だけなのよ」
「勝手な事……」
シェールは言うが、リーシアは笑いながら続ける。
「確かにあなたにとっては勝手な事かもしれないわね。だけど、私のような矮小な人間が考えているのは、明日の自分の事だけなのよ。あなたを頼り、あなたについていく事が、自分の事を守る最善の手段でなければならないのよ。あなたは、私達を導いていく責任があるの」
シェールはそれを黙って聞いていた。
「私達のために、考えを変えてくれないかしら? 明日には、まったく別のものに変わるかもしれないような信念でも、当一をエスカッションにするために必要な事なのであれば、それを実行して欲しい」
そこまでリーシアが言っても、シェールは黙ったままだった。
「お願いね」
何も反応の見えないシェール。
だが、そこでリーシアはシェールから離れて風呂場を後にしていった。
「信念は自分のためのもののはずよ。あなた達のために変えるなんて……」
シェールはそこまで言いかけた。だが、続きの言葉はシェールの口から出てこない。
「あいつの事は、コキつかってやるわ……」
さっきの言葉の続きを言わず、そう言ったシェールは、頭からお湯を被った。
そして、髪からポタポタと流れる水滴を、ぼうっ……としながら見つめた。




