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それから後に...

予想通りの展開です。

賢者にとっては計算通り。

「ちょっとマオ!!どうして騎士団の訓練内容が勝手に変更されてるの?!」

「どうして、と言われましても...」


困ったように微笑む賢者マオに、わたしは激昂した。

「あと半年もしたらミオウの子供も生まれるし、それまでに完っ壁に騎士団を鍛え上げるってわたしの計画も佳境を迎えているというのに...!」

魔王という脅威が無くなった今もなお、魔物や魔族は存在している。

魔王がいなくなってその勢力は大分なりを顰めたけど、人の世を混乱に陥れようと小賢しく動き回っている気配がするのだ。

もちろんわたしはわたしの持つ力で全力でそれをねじ伏せる気マンマンだけど、わたしが城を出てしまったら一体誰が親友とその子供を守るというのだ?!

フンフンと鼻息荒く演説するわたしの肩に賢者はそっと触れた。

「ヒトミ...そのように興奮するとお腹の子にも影響が。」

「うっ...」

わたしはようやくふくらみはじめたお腹にそっと手を置いた。

そう、わたしのお腹の中にも新しい命が宿っているのだ。

誰の子かって?そんなことは説明しなくても察しがついているかと思いますが?





魔王討伐から城に帰ってきて、3ヵ月後に大々的に第二王子アルトと親友のミオウの結婚式が行われた。

親友の花嫁姿に心から感涙し、披露宴では盛大にお酒を飲んだ。浴びるほど飲んだ。未成年?異世界でそんなこと関係あるか!

ヘベレケになったわたしの耳に、誰かが「これでお世継ぎが生まれればますます国は安定しますなぁ」と言ったのが聞こえてきた。

そして、「誰がその世継ぎの乳母を任されるのだろうか」「それは○○様が」「いやいや、△△様のほうが」「いやいやいや、××様が」と言い合うのが聞こえて、わたしは次なる危機を察した。

親友は勇者の旅に同行した聖女として民からの人気はあったが、貴族からはウケが悪かった。

そりゃそうだろう。新たな皇太子の后、次代の王妃には是非うちの娘を!と画策する間もなく第二王子の婚約者になった親友に、貴族たちはいい顔をしなかった。

自分たちだけが一番大事!っていうのが貴族ってやつだ。

親友は目の上のタンコブ。どうやって陥れてやろうかと暗い策略がいくつも浮上してはわたしと賢者の活躍で潰されていた。

ようやく無事に結婚式を終えたというのに、もう次の火種が!

貴族たちはきっとこう思っているのだろう。

世継ぎの乳母に自分の娘や縁者を差し向けて、生まれてくる王子や姫の後見人となってゆくゆくは権力を我が手に。

そうはさせるか!と思ったまではいいけど、お酒に酔っていたわたしはその場でこう言い放ったそうだ。


「わたしが乳母をする!!」


当然、周りは「は?何言ってんのコイツ?」って感じだったそうだ。

子供はおろか、未婚のわたしが乳母って。正気ならわたしも「何言ってんの自分」状態だっただろう。

だけど、その時ちゃっかりわたしの隣に座っていた賢者マオが続いて言ったそうだ。「なら、私と結婚して子供を産みますか?」と。

お酒に酔っていたとはいえ賢者のことを恋愛対象としてあまり認識していなかったわたしは空ろな目で辺りを見回したそうだ。ほかに誰か適当な夫役は居ないのか、と。

その場にいた男たちは全員、そっと視線を逸らしたそうだ。

そりゃそうだ。わたしは勇者。圧倒的な力を持つ女。そんなのと結婚したら尻に敷かれるどころか、命すら危うい!!

そんな必死の思いがヒシヒシと伝わってきそうな雰囲気だったのだろう。

しばらくの沈黙の後、わたしは「わかった」と一言だけ告げて意識を手放したそうだ。



―――お酒って、怖いね。



本当に、そう思うよ。あれからわたしはお酒はあまり飲まないことにした。

たとえ酔った勢いといえ、正気ではなかったといえ!(ここ重要)

わたしは、あの嫌味賢者との婚姻を了承したというのだ!

あぁ。されど後悔は先に立たず。わたしは晴れて賢者マオの婚約者となったのだった。

それからがまた怒涛の展開だった。

賢者といえばこの国の王の相談役ような立場だ。そして魔法使いの頂点とも言える存在。その権力は王様の次とも言われている。

その上、マオは見てくれだけはそこそこイケてる、独身26歳。その妻の座を狙っている貴族のお嬢様方はたくさんいたわけで...

まさか親友と同じ立場に立たされるとは夢にも思っていなかっただけに、うんざりというよりげんなりした。

勇者という立場をありがたいと思ったのは、初めてのことだったかもしれない。だって、さすがに貴族たちも表立って反対してはこなかったから。

マオは婚約してからというものそれはもう上機嫌で、それまで以上に異様にわたしの身辺を気遣うようになった。

口うるさいお父さんが、スーパー口うるさいお父さんになった。


酒に酔った勢いでマオと結婚宣言した後、マオのわたしに対する態度は周りから見たら甘い束縛?砂糖吐いちゃうぞ☆って感じだったらしいが、すっかり泥酔して意識を失っていたわたしには「??!」な展開だった。

だって、親友の披露宴の最中に意識をなくして、目が覚めたら目の前にすごく嬉しそうなマオの顔が。

ちょっ近?!って、何故に眼鏡を外している?!眼鏡は大事な顔のパーツの一部でしょう!

それに何故ベッドの上?!部屋薄暗っ!!わたしの身体を這っているその手は一体誰の手なんでしょうか?!


...まぁ、さすがにお酒に酔っている女子に手を出すような鬼畜ではありませんでしたが。


こうして色々と既成事実を手に入れたマオの行動は早かった。

酒を飲んでうっかり結婚宣言しちゃった翌日には、わたしとマオの結婚式の日取りが決まっていた。それも一ヵ月後だった。

結婚式って1ヶ月で準備が整うもんなの?それはマオが密かに以前から計画を練っていたかららしい。

親友いわく、「賢者様は最初からヒトミちゃんのことが好きだったんだから!」らしいが...出会った当初はマジで馬鹿にされてたような...?

婚約してからわたしとマオの激しい攻防戦が勃発したわけだけど、色々と、その、まぁ色々とね、あったんですよ。1ヶ月の間に。

流されたというか絆されたというか、なし崩しというか。

わたしの国では未成年は親の了承なしに結婚できないという法律があります!とか言いたかったけど、ミオウはすでにもう結婚しちゃってるし。

問題であるべきことが異世界では全く問題にならないんですよ。

もちろん一番の問題は結婚する本人たちの気持ちだと思うんだけど、マオ的には「全く問題ありません」と宣言されて、外堀まですっかり埋められて逃げ道は無し。

それに、わたしとの結婚のために色々奔走してるマオの姿を見てたら、「この人と結婚するのも悪くないかもしれない」と思ってしまって。

わたしのためにマオが用意してくれた純白のドレスに身を包んだとき、「あぁ、わたしはここで幸せになっていいんだ」って思えて。

いつも嫌味なことしか言わなかったマオはわたしをそっと抱きしめて、「幸せになりましょうね」と耳元で優しく囁いた。

その言葉を聞いて、わたしは勇者としてこの異世界に呼び出されたのではなく、マオの嫁になるために呼ばれたのだとさえ思えた。

旅の途中では散々マオのことを「眼鏡の嫌味賢者」として敵視し何度もきつい言葉を投げかけていたのに。なんとも不思議な感覚だった。


―――それはひとまず置いといて。わたしは晴れてマオの嫁になった。

結婚式で王様となったアルトに「ヒトミのおかげで国は安泰だ」とか言われた。なんで?

ミオウは自分のことのように喜んでくれたし、泣いてくれた。

マッチョ騎士ことアッソンと豊満ボディの魔女ことマリアーデは散々からかってくれた。

キックルは義賊改め冒険者になって世界を放浪していたためお祝いの手紙が届いた。何故かところどころの文字が水で濡れたかのように滲んでいた。

マオはこの世の春かのごとく晴れやかな笑顔を振りまいていた。

―――まぁ、皆が幸せそうだし。

わたしもなんだかんだ言いながら幸せなので、これでよかったんだろうな。




慌しく婚約期間と結婚式を終えた1年後にはわたしのオメデタが発覚。

その1ヵ月後にはミオウのオメデタが発覚し現在に至る。

「女の子でしょうか?女の子でしょうね。えぇ、きっと貴女に似た女の子のはずです。」

結局騎士団の訓練を断念させられ屋敷に連れ戻されたわたしは、現在寝室で軟禁されソファーに座らされ、マオの両腕に束縛されながら何かまじないのような言葉を黙って聞いている。

「えぇ~?わたしは男の子がいいんだけどなぁ。」

どうせなら男の子を生んで立派な騎士に育てあげたい!マオに似たなら魔法使いでもいいなと思うけど。

「いいえ、女の子です。」

何故かきっぱりとそう言い放つマオの目は真剣そのものだ。

この様子だと、もし本当に女の子だった場合相当の親ばかになりそうだ。

どこにも嫁にはやらん!とか言いそうで先が思いやられる。

5ヵ月後、マオの予想が外れていたことが発覚することとか、でもすぐに次の子を妊娠してその子がマオ似の絶世の美少女に育つとか、親友夫妻の子供たちと自分の子供たちが将来この国を背負って立つ重要人物になるとか、色々と騒々しくもおもしろおかしい未来が待ち受けていることなんてまだ知る由もないけれども。

わたしがこの異世界で勇者としてではなく「わたし」として幸せに暮らしたということは後の歴史書でも明確に記されている事実だ。





これが、わたしの物語。



勇者は異世界で幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。



最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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