7 邂逅
青空の下を歩くマグナーが、隣を歩くノウムスに声を掛ける。
「魔王と言うのがいただろう?」
「今度のは、ちゃんと魔王って認識でいい?」
「無論だ」
「魔王がどうかしたの?」
「その…… いなくなったと言うのを風の噂で聞いた。いつ頃、いなくなったのだ?」
「えっと…… 確か一年近く前に、国王が魔王討伐を宣言したみたいだね」
「い、一年……?!」
「う、うん……」
「なんてことだ……」
明らかに表情が強張って、顔色も少し青くなっているマグナーに、ノウムスは不可思議そうな表情をしながら、
「どうしたの? 具合でも悪くなった?」
と尋ねた。
「い、いや…… そうか、そんなに前から魔王がいなくなっていたのか……」
と言って、しばらく経ってから、
「――魔王軍について、何か話を聞かなかったか?」
「魔王軍……?」
「あ、いや…… 国にいた頃、魔王軍の中に四天王がいると聞いてな」
「あぁ、向こうの軍隊の偉い人たちってこと?」
「まぁ…… そうだな。魔王がいなくなっても、そいつらが残っているのではないか?」
「多分だけど、ほとんど全員、勇者に倒されたんじゃないかな?」
「…………」
「港で聞いた噂だけど、なんか、最後まで残ってたのは大将の魔王だけだったらしいって…… そんな会話を聞いた気がする」
「そう、か……」
「――マグナーは、いつ頃から旅をしてるの?」
「えっ?」
「その感じだと、一年や二年じゃないよね?」
「ま、まぁ…… 我が国はその…… それこそ遠方にあるからな。小さい上に辺境の地だから、外からの情報が中々入ってこないのだ」
「じゃあ、数年前までこの国が魔王の脅威にさらされて大変だったことも、知らないんだね?」
「そう、だな…… いや、仲間を探すため、勇者を探してはいたから、魔王の動向も併せて知っていたつもりだが…… やはり、どうしても直近のことは知らぬことが多いようだ」
「――勇者を探しているのはどうして?」
「モーリスからは何も聞いておらんのか?」
「うん、何も聞いてない」
「ふむ……」と言い、立ち止まって振り返る。
少し離れた位置にいるモーリスも立ち止まっていて、首を傾げていた。
「彼奴は何をしている……」
「さぁ……?」
「ちょっと待っておれ」
ノウムスにそう言ったマグナーが、モーリスのいる所へ移動し、
「なぜ、そんなに離れて歩いている?」
と、目を細めて言った。
「あ、いや…… 邪魔してはいけないと思いまして……」
「町中に入ったら、尾行みたいで怪しまれるだろ。もう少し近くにいろ」
「わ、分かりました」
「あと…… 勇者のことについて話を聞きだしたいのだが、何か都合の良い理由付けは無いか?」
「理由、ですか?」
「勇者を探していると言うことは、黙っているわけにはいかんだろう? 彼奴を利用するにしても」
「まぁ、そうですね…… ひとまず、我々の親の仇にでもしておきますか?」
「歴史的事実ではあるが、大丈夫なのか?」
「今は我々も人間ですから、年齢的なことは気にしなくても良いかと」
「いや、そうでは無い。勇者は人間たちにとって英雄だろう? 悪者扱いするとマズそうだが……」
「英雄の本当の正体と言うことで、吹聴するのも良いかもしれません。現に、人間共の支配者は、時に私利私欲を尽くしていたこともあるようですから」
「その時代は魔物もやりやすかったろうな…… まぁ、無いものねだりしても仕方ないか」
こう答えたあと、マグナーがノウムスの元へと戻り、モーリスも二人の近くへ寄っていった。
「失敬、失敬」とモーリス。「どうも景色が良くて、歩くのが遅れてしまいました」
「別にいいけど……」と訝しむノウムス。「なんか二人共、コソコソ話すことが多いですね?」
「今のは、単純に遅れて歩いていたから注意していただけで、少し前の話しあいは…… あまりお前に失礼が無いようにしろと、モーリスから注意されただけだ」
「――じゃあ、早速だけど失礼だと思うこと、言っていい?」
「ん? なんだ? 何が気に障った?」
「まだ自己紹介もしてなかったから、仕方ないのかもしれないけど…… 僕はノウムスって言う名前があるんだ。君はマグナーって名前だろ?」
「まぁ…… そうか?」
「えっ? 違うの?」
『マグナー』と言うのは、人間の古代語で『魔王』を指していた。そして、父親が死んだあともずっと、家臣にそう呼ばれてきたために、自然と名前みたいに定着しただけで、魔王自身は名前を持っていなかった。
「本当は、なんて言う名前なの?」
ノウムスが尋ねると、マグナーは咳払いをし、
「いや…… マグナーで良い。それが我の名だ」
と言った。
「そうなんだ。じゃあ、続きを話すけど…… さっきからお前お前って言うの、この国ではかなり失礼だから、もっとちゃんとした言葉にした方がいいと思う」
「ほう? 例えば?」
「丁寧な場合は『あなた』…… 仲良しなら『君』とか『名前で呼ぶ』とか……?」
「分かった。じゃあ、君で良いか?」
「え?」
「こうして普通に話しているのだし、もう顔見知りだろう?」
「そ、そうかなぁ……?」
「あなたの方が良いか?」
ノウムスが急にアタフタとしだし、
「い、いや……! 御免! やっぱり名前呼びで……!」
と言うから、マグナーが眉根をひそめ、
「小難しい奴だ……」と言った。
結局、呼び方は名前呼びで決まり、決まった頃には町の市街地に差し掛かっていた。
市街地はノウムスの家の周辺よりも都市部として整備されており、家も人通りも多く、荷馬車が停車してある所もあった。
「よもや、これほどの人間がいるとは……」
「遠目からだと分かりませんでしたね……」
「置いていくよ~?」
二人は慌ててノウムスを追いかける。
彼の隣に追いついたマグナーが、
「これほどの数の人間が、この地域にいたとは思いもしなかった」と言った。
「港町だからね。昔は魔王の手先がいたから寂れてたみたいだけど…… 今はもういないから、世界中から寄港してくるよ」
「うぅむ……」
「なんか、さっきから不機嫌な顔してるね? 何かあったの?」
「あ…… い、いや、そうではない! その、なんだ……! 人間が多くいる所が苦手で……!」
「マグナーもそうなの? 僕も苦手なんだよね、人の多い所……」
本当はそうでも無いけれど、そうだと言うことにしたマグナーは、否定も肯定もせずに分かりやすい愛想笑いをしていた。
「ところで」と、背後にいるモーリスが問うた。
「一年前に魔王を倒したと言う勇者ですが…… 今はどこで何をしているのですか?」
「えっ? 勇者?」
立ち止まって振り返るノウムスに、モーリスも立ち止まって、
「実は我々、勇者の行方を追ってましてね」
「えっ? そうなの?」
「えぇ…… 詳細は話せませんが、魔王を倒したのなら、英雄とされていても奇怪しくは無いでしょう? どこで何をしているのか、とても気になるのです」
「英雄、かなぁ……?」と首をひねる。
「えっ? 違うのですか?」
「うぅ~ん」と、顎をさすって下向くノウムス。「どうなんだろ…… 正直、勇者の話はほとんど聞かないんですよね……」
「聞かない……?」
と言って、モーリスがマグナーを見やる。彼は両肩をすくめていた。
「な、なぜです? 我々が集めた情報によると、世界中の王族と非常に親密だとかなんとか……」
「えっ、そうなんですか?」
「そう、なんですがね、確か…… 以前は……」
「へぇ~、そんな偉い人だったんだ、勇者って……」
モーリスが唖然としていると、遠くから、
『本当に助かりました……! ありがとうございます……!』
と言う声が響いてきた。
そちらへ目を向けると、市場をやっていそうな一画の入り口周辺で、一人の若い女性が、初老の男性に頭を下げられて謙遜している姿があった。
「あっ、そうだ!」
ノウムスが不意に、左掌へ右拳の小指球を打つ。
「確か、あの人は勇者の仲間だったと言われている女性ですよ?」
「「えっ?!」」
モーリスとマグナーが同時に驚くから、ノウムスも驚き、
「ど、どうしたの二人共……?」と尋ねる。
「あの女が勇者一味の仲間だと……?!」
マグナーがノウムスへ迫りながら問うと、彼は引き下がりながら上体を反らし、
「急にどうしたの……!」と答える。
「モーリス!」と言いながら、マグナーが振り返った。
「あちらへ歩いて行きました、マグナー様!」
「追うぞッ!」
マグナーとモーリスが走っていく。
一人、取り残されたノウムスが、しばらく経ってからやっと、
「買い物はどうするのさ……!」
と憤っていた。
★多忙につき、更新は一週間に一度の予定(予定は未定)
「応援してもいい」「気に入った」と思われた方は、
下部にあります『星(☆☆☆☆☆)』から作品の評価をして頂けると、励みになります。
また、「いいね」もありますので、よければご検討ください。
なお、今作はシリーズ物なので、過去作をお読み頂くと少しだけ本作の見方も変わります。
よければ、過去作もご覧になってみてください。
(↓ 下部にリンク有 ↓)
ここまでのご精読、誠にありがとうございました。




