85.4章-第1話 ”再びのアレイスター王国の地”
「無事抜けられましたね」
途中まで騎士団長達に先導されて抜けた”彷徨いの樹海”。変質させられた内部環境のせいか、かつて私達の逃避行を支えてくれた”導きの宝珠”は道を示す事なく。やむを得ず、彼らと別れた後2か所ほど、黒い兵士を生み出す宝珠に置き換わった小領域を突破してきました。
「何やらトラブルのようですね」
紗雪が指し示す先、森を背後に商隊……で、あった物。というべきでしょうか。
打ち壊された馬車の数々。食い散らかされたと思しき馬や人の死骸。
「情報では……王国内は……平穏……と」
「何にやられたのか、私達ではわかりませんね。少なくともモンスターの死骸は残っていませんし、あからさまな足跡もなさそうです」
「この世界で商隊って……あるの? ほら、次元拡張のポーチで、荷物はかさばらずに運べるよね。それならば、馬車の台数だって最小限にできそうだけれど」
「ナオさん、ポーチに入るものは無生物だけ。なんですよ」
と、指さす紗雪の示す先は、商隊の中央付近、ひときわ大きな馬車幾台かの残骸。目を凝らすと、地面に打ち捨てられた馬車の荷台部分に見えるのは破壊された金属の檻……。そして、中にはやはり喰いちぎられた、首と手足に金属のごつい枷をはめられた人の死骸。
「テイマー用や見世物、研究等のためのモンスターの売買という場合も、馬車の台数が増えますが。これは、奴隷商というやつですね」
「王国……では、未だ合法……で……大陸全土……の方針で徐々に制限を……かけようとしたり、してはいた……のですが。伝統や……使用する……者、される者……双方に必要がある、との……論調を先導する、者……も、多く」
うつむきがちに零すルナリス。王族の責務を考えているのでしょうが、彼女はそこから望まずとも引き離されていた身。
「ルナリスが気に病むことではないでしょう。それに、もしかするとそれが救済となっている場合もあるかもしれない。というのは、一概に否定できない可能性もありますし。ひとえに何かを思うような事はないですよ。この状況も見る限り、見捨てて逃げたというよりも、諸共やられた。という様相ですし」
ええ、別に、奴隷達を囮にして逃げたとか、そういう雰囲気でもないのですよね。むしろ商品を守ろうとしてあえなく。という配置にも見えます。
「あまり気は進みませんが……放置するのも寝覚めが悪いですか」
「そう……ですね」
「数が数ですから、うちの子達にも手伝ってもらいましょう」
ドール体で連絡を取ってくれたのでしょう。扉が現れ、少女人形達が1レイド24人、出てきてくれます。
「ごめんね。ちょっと手伝ってほしくて……」
「無論なの!」
そしてしれっと、代表として居る、サフィーロ。サファイアの瞳を輝かせ、てきぱきと指示を出し始めています。
悠久の楽園側は大丈夫なのでしょうか。
「襲撃はシフトを組んで対処しています、なの。それに、サフィーロは、主様達のメイドさんなの……置いていかれて悲しいの」
「ぅ……そんなつもりはなく……いえ、ごめんなさい」
うるうると見つめる金髪黒翼の、ゴシックドレスメイドの少女人形に、つい押し負けてしまいました。
「一応ナオさんの第1メイドは私ですが……」
「紗雪様は奥方様になるの、なの! ルナリス様と一緒。お仕えさせろ~、なの」
「えぇ……いや、それは……ま、まあ確かに? そうみられたくてメイド服よりドレスを選んだりも? ……ごにょごにょ」
あ、紗雪も撃沈した。
パーティーに加入し、ますます張り切って仕切り始めたサフィーロ。手際よく分担し、魔法で地面に穴を掘る子達、力は圧倒的に足りないので念動で、しかし丁寧に死骸を穴の底へと並べてくれる子達。迅速に整えられる場。
確かに、敵地を進むにあたって、斥候ができる彼女達第3部隊の子は必要か……と考え直していると。
「ナオ様、生存者です。なの」
「なんですって……!?」
中央の一際頑丈な馬車。よく見ればその馬車は横転こそしていますが、荷台部分は無事なようです。御者台や屋根の木材が破損していたので、ぱっと見分からなかったのでしょう。
錠前のかけられた金属扉をサフィーロがあっという間に、ピッキングで開けてくれ。中を覗くと、横転した際に破損してはいるものの、上質な家財道具。現実で言えば、日本人の感覚ではアラビアやエジプト、あるいは中東諸国の趣を感じる雰囲気。美しい絨毯に、彩り豊かなクッション、透かし模様の調度品に、ランプ。
壁に打ち付けたのでしょうか、額から血を流した跡が乾いた褐色肌の黒髪美女が、力なく横たわっています。手足こそ拘束されていないものの、彼女の首には一際ごつい金属の首輪がはめられ、痛々しいありさま。
「魂魄魔術……にも、霊視にも、怪しいところは……見つかりません」
と、油断がありましたね……そうです、ここは敵地でした。ルナリスが持ちうる限りの手段で迅速に、確認をとってくれたことに感謝を示しつつ。安全が確認された彼女にまずはとにかく治療を施します。
属性:光輝-浄化魔術 続けて、治癒魔術。
医療知識は持たない私ですが、魔術とは便利な物。あっという間に清浄化と治療が完了してしまいます。
とはいえ失った意識はすぐには戻らず、まずは馬車を水平に戻し、奴隷に与える物とは思えない、豪奢な寝床に横たえます。
失礼……と内心詫びつつ
「ルナリス、申し訳ありませんが、鑑定で見てもらってもいいですか」
「はい……こちらが結果、です」
さすが、すでに見てくれていたようで、書き記したメモがすぐに差し出されます。
踊り子の衣装のような薄絹と、金細工で局所のみを隠した、露出の激しい美女の、零れ落ちそうな豊かな胸元を見ないように意識をそらしつつ。
名前 :レイラ
Lv :18
種族:☆1 ヒューマン (ランク1)
性別:女性
年齢:23歳
身長:146cm
職業:占い師
状態:未契約奴隷
「奴隷の権利書もありました。なの」
「さすがですね、ありがとうございます」
「所有者側の紋が薄れていますね。おそらく亡くなったのでしょう。この状態なら奴隷からの開放も可能ですよ」
「わたくしの……魂魄魔術で……代用できます」
「なるほど。では、彼女が目を覚ましたら事情を聴いて、どうするか決めましょうか」
いったん外に出て、作法はわからないなりに、炎を放ち、手を合わせ、埋葬を終えます。
魔術の炎ですと、きちんとこうした事にも対応できるのですね。
と、中の様子を確認してもらっていた部隊の子から目を覚ましたとの報告が。
すでにお茶の用意をしてくれてある机を囲み、何事かわからないのでしょう、恐る恐るこちらを見ている美女と会話を始めます。
「私たちはたまたま行きがかった者です。商隊は全滅。生き残りはあなただけの様子です」
「そう、だったのですね。お助けいただいたことに感謝を。私はレイラと申しますの」
「ご事情をうかがっても?」
「祖先は海を渡り、この大陸に来たと聞いております。昔は森に、今の”彷徨いの樹海”に、暮らしていました。ですが、ダンジョン化が起こり、家族を失い、住む場所を追われ。辛うじて逃げ延びた私はアレイスター王国のはずれの村に身を寄せていたのです。ところが……国王陛下への献上品であると、この商隊の方々に連れられ。そうして運ばれる道中でございました。外から激しい喧騒が聞こえてきたと思いましたら、視界が回り。そうして気が付けば今の状況でしたの」
「それは、災難でしたね……。よろしければ村へお送りしましょうか?」
「いえ。思えば、私を売り渡しましたのは恐らく……ですので、もし。もしよろしければ、私を共にお連れいただけませんでしょうか」
深紅の紅の指された唇に、黒い瞳、薄い褐色の肌に彩られた美女がじっとこちらを見据える姿に、不思議と視線が外せず、魅入られたように……。
ぎゅっと、左の肘に感じる柔らかな感触。腕に抱き着き、横からじっと、麗しの銀の姫が見上げていました。
いけませんね、周りにいないタイプの美女につい、視線が吸い寄せられていましたか? にしても、ルナリスが隣にいるのに、そんなことがあり得るのかと自問してしまうのですが。
大丈夫ですよと、彼女の頭を撫でながら
「私達も訳あって旅をしておりまして。安全の保障ができないのです」
「そうでしたか」
落胆したように目を伏せるレイラさん。
「ですが。そうですね、安全と思える街までであれば、ご一緒いただいてもかまいませんが」
「まあ。何と御礼申してよいか。感謝いたします」
深々と頭を下げるレイラさん。艶やかな長い黒髪がしゃらりと、流れ落ちます。深い胸の谷間が目に毒ですね……。
「それで、この奴隷契約書ですが」
「はい、貴方様が主となられるのですよね」
「え? いやいや、街までと申しました矢先にそんなわけがないでしょう。幸い、と言ってはいけませんが……主であった商人? は亡くなられたようです。解除してしまいましょう。首輪も重いでしょう?」
「よろしいので……しょうか。私が申しあげるのもおかしいですが、容姿に、踊り子や……と……しても。仕込まれております。本業は占い師でしたが。お買い求めになりますと……その……王家への献上とのお話となる程度には」
恥ずかし気に身をよじる仕草が、どうしてこうも色っぽいのでしょうね。思わず邪な気持ちが沸き上がりそうになりますが、腕に感じるルナリスの温かな感触に、自制します。
「お気になさらず。そもそも不当に奴隷に墜とされたのでしょう?」
「はい……ですが、貴方様であれば、私は構わないと直感したのです」
えらく売り込みますね? 思えば身よりもなくし、挙句の果てにという境遇でしたか。同情の余地もあるのでしょうね。
「いづれにせよ奴隷と主という関係性は望みません。問題がないようでしたら解放をと思いますが、よろしいでしょうか?」
「まあ……なんとお優しい。誠に、誠にありがとうございます。御恩はこの身をもって……」
「いえ、そういうのは大丈夫ですから」
ですから、どうしていちいち仕草が異様に艶っぽいですかね。
愛しの銀の姫の過剰なまでの献身とも違う。なんでしょう、無性に心の奥をかき乱されるような。
ルナリスに抱きしめられていなければ、クラっと来たかもしれませんよ。それに見た目的には私、完全無欠に女性にしか見えないはずなのですが。
ああ、この世界、特にこの大陸では同性婚も当たり前でしたか……それに、ルナリスとの見るからに親密な様子。姉妹には見えない容姿から、関係性の推測も簡単ですかね。
と考えていたら、反対側の腕に紗雪も抱き着いてきます。
「私も忘れられるのは、悲しいですよ……?」
「紗雪、決してそういうわけでは。でも、ごめんなさい」
両腕がふさがっているので、可愛い嫉妬心を見せてくれた彼女の頭に、そっと頬を乗せ、和みます。
その後、やっぱり事あるごとに魅了されかけながらも。無事、ルナリスが魂魄魔術による奴隷契約の解除と、それにより無害化された首輪の封印機構をサフィーロに解除してもらい。レイラさんは自由の身となるのでした。
ちなみに衣装は、もともと彼女がいつも着ていたものらしく、このままで問題ないそうです。
普段からこの超が付くほど扇情的な踊り子衣装を着ていたのですか……? 顔の下半分を覆う、黒く透けるフェイスベール越しの唇の艶やかさといい、ほぼ完全に露出されている艶やかなボディラインといい……、村ではそれこそ大丈夫だったのでしょうか。男が野獣と化すには十分以上の、過剰な魅力を放っていますよ。
さすがに商隊の馬車は破損がひどく。自前の、辺境伯からいただいた後にアメティスタ達が改造を施し、過ごしやすさの増した空間拡張された馬車に、騎竜ゴーレム2騎をつなぎ。こちらで移動する事にしました。
内部は結局8倍まで拡張され、広い大部屋と6個の小部屋に分かれているので、そのうちの一つにもともと彼女の家財道具だったという、奴隷商の馬車のオリエンタルな家具一式を積み込み。レイラさんの部屋としました。




