64.3章-第8話 ”軍事進攻?”
「次のイベントまでは26日あるわけですが、さて、この間どうしたものか。紗雪と一緒に試練の間に再び、というのもありと言えばありですが……」
4日をかけ、辺境伯領 領都へ戻ってきたその日。とりあえず、ここにもう一つある初級試練を攻略してしまおうという事に道中の相談でなってはいるのですが、それだと時間が余るのですよね。
これまでも、イベント会場空間でリアル連動の様々なアトラクションや展示、飲食店を巡り、3人で遊んでいましたので、そうして、まったり楽しく過ごすだけでも良いのですが。せっかくの間の期間なので、キャラクター育成もある程度は進めたいのです。
「魔導人形の生産と教育は、私のドール体と副統括の子達に任せてくださって大丈夫ですよ~」
「はい、ありがとうございます。移動先でもここに戻って、毎日会えますしね」
「ナオ……様のクエストスクロール……は?」
これらですね……
・ クエストスクロール:旧支配者クトゥグアへの誘い
表記:フォーマルハウトへの道が開かれうるダンジョンの情報
・ クエストスクロール:魔書の源流へ
表記:複数のダンジョン、土地の名称が記載されている
「残念ながら、調べたところ、どちらもアレイスター王国内のダンジョンや場所のようなのです。特に魔導の源流の方の最重要と記されている場所は、アレイスター王城ですね……」
「わたくし……が、昔暮らしていた、あの塔の地下……かもしれません。祭壇……の下に入り口が」
つまりあの邪霊は、その地下のダンジョンと関連性があったという事でしょうかね。地下に続く階段から、あの触手があふれ出してもいたので、まあ、そうなのでしょう。ただ、いづれにせよ。
「今はあちらに行くことは考えられないですね。ルナリスが危険すぎます。万が一にも捕らえられたりしたら、目も当てられません」
とはいうものの、斎賀さんからのクエスト、ルナリスの進化。つまるところ、ルナリス関連のクエストを進めるという事なのでしょう。それを考えれば、アレイスター王国と無縁でいられるとは到底思えないのですが。
遅くとも9月中までにとなると、もう今すぐにでも動き出さないといけないかもしれませんよね……。
無理はさせたくない一方で、現実にルナリスと一緒に、というのはあまりに魅力的で、捨てきれません。
「わたくしの……も、未だ力足りぬ……ようで……」
レベル50を超え、プレイヤーの中にはヒューマンからの進化が可能となった方もいるようなのです。
私達は実感がありませんが、一応Lv50までが、ランク1、Lv100までがランク2と、ランクという分類でおおよその強さの指標が分かれているらしいですね。
ルナリスはレベル50を無事超えたのですが、進化の兆しはみられません。彼女のクエストスクロールも変わらず、条件を満たしていない状態になったままです。
やはり何か特殊なクエストをこなさなければ、ルナリスの進化は達成できないのでしょう。
とりあえず試練ダンジョンの場所を確認しようと、冒険者ギルドへ来たのですが。
「あわただしい……です」
いつにも増して喧騒がすごいです。受付も混雑中。普段は吸い寄せられるように、私たちに向けられる視線も、かなり控えめです。
「何かありましたかね」
と、そんな慌ただしさを、他人事とばかりに見ていると、
「ナオ様、ルナリス様」
おや。いつものゴールデンレトリバー系な、犬耳の受付嬢さんではないですか。
「指名依頼の打診があり。よろしければこちらへ」
「伺いましょう」
連れられてきたのはいつもの個室です。
「フェリシテ連邦マリリーニ州による侵攻の件は、どこまでご存じでしょうか?」
軽く目を見張る私達。
「いえ……恥ずかしながら全く」
そういえば、彫刻の街では冒険者ギルド他、公的な施設には一切立ち寄りませんでしたね……ほとんどずっとダンジョンの中か、馬車の旅の道中でしたし。
ちらとルナリスに視線を送りますが、うん、とりあえず大丈夫そうですね。落ち着いています。
「なるほど。ではまず、簡単に状況をご説明します」
プレイヤーサイドでは、グランドクエストのような連続クエスト。として、何やら戦争イベント的な物の前段階が始まっていたようですね。
辺境伯様から、しばしば、きな臭い動きがある、とは聞いてはいましたが。
そうそう、今回の大規模イベントに合わせて、クエストスクロールの形をとらない重要クエストは、開始アナウンスが流れるようになったそうです。アップデートというものですね。重要クエストを拾ったことに気が付かずに放置してしまったり、他に行ってしまったり、という悲しい事故があったのでしょうね。
・事の発端は、5巡り(約150日)程前。アレイスター王国でクーデターが勃発したのと前後する時期。フェリシテ連邦北東部。北部に海を擁し、東部を西ミドガ帝国北西部と接する、マリリーニ州(旧小王国)から、ミドガ帝国北西部への軍事侵攻が開始される
・規模は小規模であり、早期に鎮圧。ミドガ帝国はフェリシテ連邦へ対応を要請。関係悪化を恐れた連邦は州兵による鎮圧に乗り出し、賠償問題などへは発展するも、ひとまずは収まった
・両国による捜査の結果、一部旧マリリーニ小王国の子孫による独断と断定されるが、これまでそのような兆しもなく。また到底領土拡大を成せるような軍事力もなく。目的、動機共に謎が残った
・二巡り弱前(約50日前。PVP大会の20日ほど前。帝都オークションの直後頃)から、再度マリリーニ州にて武装蜂起の兆しが見え始める
・この頃には来訪者も西ミドガ帝国側へ進出しており、住民と連携しながら、連邦への調査依頼が進められていた
・約20日前からマリリーニ州に軍備増強の兆しを確認。(PVP大会の4日後頃)
・約15日前、マリリーニ州でこれまでの州軍とは明らかに異なる、黒い鎧の兵団が突如発見される。すでに、帝国方面への移動開始している事を確認。(私達が彫刻の街にいた頃)
・同時期に来訪者へも大規模なクエストが発注され、フェリシテ連邦マリリーニ州との国境周辺へ、防衛のための戦力を集結
「そうして、帝国北西部へ戦力が集中され。現在、すでに戦端が開かれた状態にあります」
「なるほど。つまり、そちらへの援軍が必要と」
戦争クエストは、ルナリスを矢面に出したくないので、できれば避けたいのですが……。それに大陸を縦断することになるので、急いだとしても、移動で3週間以上は確かかかりますよね?
「いえ。昨日になってさらに事態が大きく動きまして。帝国南西部、つまり、このアンブロシウス辺境伯領の”彷徨いの樹海”と接する一帯から、黒い鎧の兵士たちの大兵団が、突如として湧き出してきたのです」
対岸の火事かと思ったら思い切り足元で、事態が急変していました……。
「領軍や、冒険者の志願者も北西部、マリリーニ州との戦線へ援軍に出てしまっており。通信の魔導具で連絡は取られているものの、急ぎ辺境伯領へ戻るにしても10日以上はかかります。周辺領地の援軍が望めない事も同様」
「大事ではないですか……」
「はい。そこで、辺境伯様から、ナオ様がたクラン”悠久の楽園”へ、緊急の指名依頼のご相談となったのです。辺境伯様も緊急の対応に追われており、こちら書面にてお預かりしています」
「拝見します」
ルナリスと紗雪にも見えるように、書状を広げます。要約すると以下の情報と、要請が記載されていました。
・黒い鎧の兵士達はアレイスター王国のクーデターにおける主戦力と同種と思われる、モンスターの類である事
・敵は広大な”彷徨いの樹海”と接する領域全域から無尽蔵にあふれ出してきており、水際で抑える事は不可能である事
・同様の侵攻が、観測可能な範囲で、連邦側でも発生しており、相互の援軍が期待できない事
・帝都からも以下の方針にたいして、支持を得ている事
- 各要衝にて敵侵攻を抑えつつ、領都にて籠城
- 以下の援軍をもって、辺境伯領、領都を最終防衛線とする
第1陣:数日~10日以内 ― 彫刻の街他、周辺からゴーレムを主とした援軍
第2陣:10~20日以内 ― 引き返した辺境伯領領軍や、周辺軍の合流
第3陣:帝都他、東ミドガ帝国からの援軍
- 籠城に際し、周辺の村や町を含め、市民の避難を促す。行く先は北部副帝都アスガ方面
依頼と関連するのがこの援軍第3陣について。
辺境伯領から見て、東は竜の背骨山脈、南は海との間に”彷徨いの樹海”が分厚く広がっており、軍の行き来はほぼ不可能。よって、通常このアンブロシウス辺境伯領へミドガ帝国東側から軍を派遣する場合、北部から山脈を大きく迂回したうえで南下してくる必要があり、3か月以上かかる。
ただし、竜の背骨山脈、特にそこに横たわる洞窟型ダンジョン”冥府の洞窟-ニベヘリィル”を抜けることができれば、1か月以内に短縮が可能。
帝国東側に呼応し、西側、辺境伯領側から、この”冥府の洞窟”の攻略。特にボス領域の開放を可能な限り進めてほしい。目標は東側からの侵攻と合流し、再度西側へ抜けるところまで。最深部、ちょうど東西の中間あたりにいるダンジョンボスの討伐については必須ではない。
というのが依頼内容でした。
「なるほど……。ルナリス、紗雪、どう思います? 私は受けてもいいと考えているのですが」
「わたくしは、問題……ありません。一つだけ、疑問が。ダンジョンまでの……距離からして、わたくしたちの、馬車では……2週間以上かかって……しまいます」
「その点は大丈夫です。騎竜型のゴーレム複数で駆る馬車をお貸しします。およそ1週間でダンジョンまではたどり着くことができる見込みです」
すかさず受付嬢さんが補足してくれます。
「紗雪も問題ないです。帝都側の先発隊は誰か。と、符丁などは決まっていますか?」
「はい、そこは別途、身分を明かすお品をお渡しします。先発隊は帝都騎士団長シャーリィ様ご自身が率いる精鋭部隊と、来訪者様がたのパーティー複数となっております。後続各軍は順次。確保した経路の維持のための部隊がさらにその後方から向かう予定です」
「シャーリィ様でしたら面識もありますし、問題ないですね。しかし騎士団長じきじきにとは」
「帝国において今回の侵攻がそれだけ、深刻にとらえられているとお考えいただければと。幸い帝都を含む東側の領域はそれこそ、竜の背骨山脈に守られてもおりますからこそ、とも言えますが」
このダンジョンも”彷徨いの樹海”同様、多数の小領域に分かれており。領域の主の居所は、一定の人数を駐屯させるか、特定のアイテムを設置する事でリポップを停止できるそう。そうして、移動経路を確保するわけですね。
今回私達にはこのアイテムが預けられます。再利用は可能ですが、素材がかなり貴重という事で、辺境伯の信頼を得ており。かつ、試練の間踏破を成し遂げた私たちに依頼が来たと。
ハウジングエリアの”悠久の楽園”を活用した避難民の支援というのも考えはしたのですが、しいて人を大量に招き入れたくはありませんので。指名依頼をいただいたからには、そちらに注力させていただきましょうか。ここも、全くプレイヤーがいないというわけではないでしょうし。
「では、このご依頼受けさせていただきたいと思います」
「ありがとうございます。早急に用意してまいりますが、物資など補充される場合、戻られ次第、受付……は混雑しておりますので、買取窓口周辺にお越しください。お三方はその……目立ちますので」




