57.3章-第1話 ”ドール体”
ずいぶんと前の事のように、今となっては感じる。懐かしのゴーレム馬と2人乗り馬車に揺られ、進む私達。
紗雪は副統括の役を担う子達の調整に取り掛かっているので、ハウジングエリア”悠久の楽園”に戻っています。
座席でゆっくりしていてほしかったのですが、ルナリスは私の隣がいいと、御者台で私の隣によりかかるように、寄り添ってくれています。白皙の美貌を彩る、長く、淡い虹色に輝く銀の髪が風になびく姿は幻想的で、見蕩れてしまいますね。
「情報によれば、そろそろなのですが」
メニューから開ける地図機能にマークした目的地、初級試練ダンジョン。”試練の平原 -拾弐-“と、”試練の山脈 -玖-“。
「あれかな?」
遠くに街の外壁が見えてきたところ。
「また……たまって、きました……」
馬車の後ろを追走してくる雑多なモンスターたち。
ルナリスの魂の漏出が醸し出す魅惑の香りに誘引された不埒者達です……。
道中も定期的に止まっては殲滅を繰り返してきたのでした。
「そろそろ到着ですね?」
と、ちょうど良いタイミングで、馬車の中に扉が現れ、中から空中に浮かび現れた紗雪。
黒白二対の翼に、黒白2本が組みあわされたヘイロー。
翡翠の瞳がじっとこちらを……ってそうではなく。
「お召替え、されたのですね?」
「はい、無事副統括の子の生産スキルも最低限まではレベルが上がりましたので。私用の衣装兼防具を♪」
「道中のモンスターたち様々ですね」
ええ、しばらく前に、4人の副統括。魔導人形達自身は完成していたのですが、それぞれ衣装ができるまではと、まだ顔合わせは控えていたのです。そのうち一人は生産特化に近い調整とのことで、道中のモンスタードロップはスキル上げに使ってもらっていました。
そして現れた紗雪はいつものメイド服から一転、ゴシック調の美しいドレス姿に。
黒を基調としつつ、グレーから白へのグラデーションが美しい膝上丈のスカート。
赤の刺し色が随所に目を引き、頭には小さなクラウンをあしらった大きなリボン。
「それに、わがままもお聞き入れいただき……」
「紗雪の頼みなのですから、当り前ですよ?」
「わたくし……も、紗雪ちゃんとの、お着換え楽しむの……好き……です」
旅の間、一緒に過ごす中で紗雪から自分もちゃん付けでと、すっかり打ち解けた二人の距離も大変近くなり、良きことです。
そう、そして紗雪のもう一つの大きな変化が。
ぴょこっ、すっ、ぴょこ
身長140㎝、私より16㎝、ルナリスからすら6㎝小さい紗雪ですが、その比ではなくちっちゃな、淡いライトグレーの髪をした頭がちらちらと、紗雪の後ろから見え隠れします。
ひょいっとその影を抱き、前に抱えて見せる紗雪。
ウェーブロングヘアは長くボリューミーに。さらにその上で緩めのツーサイドアップが長く頭の両脇に垂れる、ドーリーで可愛い髪型。お揃いの髪をしたまさに二人の紗雪が、片や140㎝、片や60㎝でお披露目されます。ドレスもアシンメトリのデザインを逆にしたお揃い。
「か……かわいぃ」
ルナリスの目も思わずハートになる、超絶可愛いの化身。
「「ありがとうございます♪」」
2人の紗雪の口から同時に声が発せられます。
実は紗雪、ナビゲートAIである彼女に、最上級の古代魔導人形の素体に加え、同じく最上級品質の各種素材をふんだんに(惜しみないポイント交換により)投じたことで、現実側の演算能力までもが、素体に合わせるようにデウス側で拡張されました。それにより、2つの身体を同時に、独立して操ることができるようになった彼女。
せっかくなら、その恩恵をフルに享受しよう、という事で3分の1ドールサイズの新たな身体まで生み出してしまったわけです。
“悠久の楽園”を管理してもらう、これから生まれる古代魔導人形達と同じ身長60㎝の身体は、基本的に常にハウジングエリアに常駐し、小柄な女の子姿では、私とルナリスと行動を共にする。という計画です。
素材的に小さなお身体の方は、上級以下の素材で十分すぎると言われたのを、私とルナリス、意見一致の元。最上級素材をもうひと揃え、イベントポイントを贅沢につぎ込んで確保しました。
おかげで、紗雪が逆に目を回して、
「お、オーバースペックですよぉ!?」
と、慌てふためいていたのも可愛かったですね。ええ、本体とほぼ同格の性能の、お身体となったようですよ?
ははははは。
消費ポイント、驚きの750億。
ふっ、全力を出してしまった!
小規模なお城型ハウジングエリアが70個ほど交換できるポイントですからね。
創造神(運営)様の想定すら超えた、あの大会のおかげで、ここまでしても残りポイントは612億ちょっと残っています。
正直他にどうしても欲しい物も見当たらず、残りは古代魔導人形達の生産に、基本的には使う予定としたのでした。
普通に手に入る、常識的? な範囲の交換品は、この第1回大規模イベントの、次のタワーディフェンスイベント等のポイントで手に入れればいいですしね。
「呼び分けづらいと思いますので、ドール姿の時は、紗雪ドールバージョンとか、ドール体、みたいに呼んでもらえればと~」
「わかりました」
「ちなみに、本気の戦闘の場合、ドール体も併せて、2つの身体で参加も可能です」
むっふーと、少女体、ドール体、両方で腰に手を当て、どやっとして見せる紗雪。
怜悧な印象もあるルナリスとは、また違った方向性の可愛いが、最高ですね。
「スキルは私自身に紐づいているので、共有されています。装備だけは別ですが……と、そろそろ街が近いですね。処理しちゃいましょうか♪ せっかくなので私の力を初お披露目です」
ふわり、と空へ舞い上がる2人の紗雪。
スカートの下に隠されたレッグガードの中から、それぞれ4丁の、古代魔導銃が姿を現します。
合計8丁のフリントロック式拳銃は念動により、空を舞い。
さらにそれに加え、対物狙撃銃を、少女体は両手で保持し、肩付け。ドール体は後方のストック(銃床)上部に横座りに腰掛け。
「「ふぁいあー!」」
ちょっと気の抜けた愛らしい声とともに、八つの小さな銃声と、2つの轟音がとどろきました。
対物狙撃銃の弾体は獣型を中心とした集団にはオーバースペックだったようで、後方のモンスターまでを一気に貫通。
自由に空を舞わせ、乱戦状態を作り出し、連射を繰り返す拳銃は一射一殺で、確実に数を削り落としていきます。
繰り返すこと幾たびか。ルナリスに誘引され、あれだけ群れていた敵はあっという間に、靄と消え、インベントリのアイテムに変わっているのでした。
「す……ごい」
「見事な殲滅力ですね。しかも、これまで私たちに不足していた遠距離。本当に素晴らしい」
「ふっふふーん。これからも頼りにしてくれていいのですよ~♪ まあ、ドール体は”悠久の楽園”が本格稼働し始めれば、基本的にそちらに篭る事になるでしょうけれど」
――「あー、つまりあの轟音は君たちで、モンスターの群れを薙ぎ払ったという事だな? スタンピードの兆候ではないのは間違いないか?」
「あ、はい、大丈夫です。体質と申しますか、お疑いがございます場合、アンブロシウス辺境伯様へご確認をいただいても問題ございません」
ええ……対物狙撃銃の音がすさまじく、街へ入るところで止められました。
ドール体は戦闘の後、”悠久の楽園”の管理に戻ってもらっていたので、今は少女体のみの紗雪が、後ろでちょっと小さくなっています。必要な事だったのですから、気にしなくていいのですが。
とはいえ戦闘音に敵が惹きつけられたり、思わぬ問題を引き起こす可能性は否定できないので、消音関連の何かを用意してもいいかもしれませんね。静穏戦闘に近づけるならそれに越したことはありませんから。現実基準で考えれば、対物狙撃銃なんていうモンスター武器の音を完全に消すのは恐らく無理なのでしょうけれど、ファンタジーなこの世界なら、消音の魔導具とか普通にありそうですし。
「宝珠に嘘の反応もないし、提示された素材の量も裏付けに十分。問題なかろう。むしろ、周辺のモンスターの間引きをしてくれたことに感謝せねばな。ありがとう。とりあえずようこそ、この彫刻の街へ」




