表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/37

28.2章 - 第1話 ” ダンジョン-試練の間-前半 #1/2”

本日から1日1回、22:10更新予定となります。

「ナオ……様、どう……ぞ」


 ととと、と、小走りに駆け寄るルナリスをふわりと抱き留める。彼女の銀の髪がふわりと香る。どちらからともなく、長い口づけ。唇が重なり、温かい息が交じり合う。銀と黒のシルエットが一つに溶けあい、甘く、切ない時間が流れます。


 いえ、これにはきちんと理由があるのですよ?

 もちろん、純粋に彼女を愛おしく思う気持ちが大きな割合を占めていることは否定しませんが、これはれっきとしたゲーム内のMP補給と治療行為、なのです。

 彼女の”供犠姫”が内包するスキル”生命供与/精神供与”の恩恵にあずかっているのです。

 私の顕現体は何といっても、呪いの影響でMP回復効率が激減してる底辺クラスですからね……。


 対してルナリスは超速再生をはじめ、多様なスキルで回復力が途轍もない事になっています。

 接触、特にその、粘膜接触とかが最大効率で効果を発揮するスキルなので……って、まあ半分は言い訳ですね、こうしていると本当に幸せで、温かな気持ちがお互いに、意思伝達を通じても伝わってくるのです。



 十分に回復し、そっと彼女を離すと、ほんのり上気しつつも、おすまし顔の彼女。ですが……

 “もっと……“

 連続戦闘中で、意思伝達をお互いつなぎっぱなしの私の脳内には彼女の本心が、堕天使モードの私の心に、ほんわかと伝わってきます。その純粋な欲求が可愛くて、でも、今はまだ、と自制を働かせるのに苦心します。


 さらさらの、ティアラを載せた銀の髪をそっと撫でて、我慢してもらいましょう。


「次で35階層目ですか」

「はい……。まだまだ……いけ、ます」

「ルナリスに痛い思いはさせたくありませんからね……今日は50層くらいで、ひきあげましょう」


 この世界のダンジョンは大きく2種類に大別されています。

 1つは、発生理由や性質は多岐にわたれど、等しく人にあだなすもの。

 先日の”彷徨いの樹海”しかり、いわゆるゲームやファンタジーのダンジョンと言われて思うのが、こちらでしょうか。

 時にスタンピードを起こし、外部へモンスターを放出。放置すれば領域を拡大し、人の住まう地を侵食していく性質を持つ。他方、資源の採掘先としても重宝される。


 もう1つが試練と称されるものです。

 これは、創世神が与えたその名の通り試練であるとされ、人の成長と発展を促すことが目的とされています。


 この試練の間と呼ばれるダンジョンもそんな、創世神が与えた試練の一つとされている中の一つ。

 試練は世界各地に点在し、特に”始まりの街“周辺には多く配置されています。

 基本的には、自然を侵食する事はなく、大きな扉が設置されている。という形式です。

 塔、谷、洞窟、形状や内部の法則は様々。現実とは思えない特殊な規則が敷かれていることが往々にしてある。


 アンブロシウス辺境伯領にある試練の一つが今回の依頼の対象であり、試験でもある、”試練の間“です。

 所在地はなんと、領都の東部中央広場に面した、神殿内部。


 教会のように神をまつる宗教的な場ではなく、この試練の間の入り口を保護する目的だけの建物。

 内部中央奥に鎮座する巨大な、白地に金の装飾が施された扉に手を触れると、パーティー単位で別空間に転送されます。

 ここもまた、きわめて特殊。内部は各パーティーで独立した、たった一つの空間が広がっています。

 入口側面に数字が表示されており、これが階層、というか、フェイズをカウントしているのです。


 この空間は、フィールドの形状、環境、広さも、出現する敵に合わせて変化する。

 敵を倒し終えると、一度元の白い空間の状態に戻るとともに、数字がひとつづつ上がっていく。つまり階層が進んでいく。

 出現する敵はランダムと考えられているようです。時にボス、時にモンスターハウス、数も強さも千差万別。

 後方の扉に触れることで離脱は可能ですが、次回入場時はまた初めの1層目からとなる。つまり、コンティニュー不可で、踏破完了しなければならないわけですね。

 階層数は過去の踏破例では、100と記録されているそう。


 なお、良くも悪くも、内部に入ると、時間加速が施される。

 住民含め、プレイヤーも現実比では4倍からさらに加速されるわけで、大丈夫なのか? と内心不安を覚えないでもありません。


 さらに、その加速倍率そのものは不明。なぜかといえば、一度試練に入り、いかなる理由であれ外に出ると、ゲーム内時間できっちり6時間が強制的に経過します。内部にとどまった時間の長短に限らず。

 高効率な鍛錬ができる一方、時間経過はゲーム内の通常ワールド基準。つまり、1日単位の、回数制限があるスキルはゲーム内側の時間に依存し、試練の間の内部でどれだけ時間を過ごそうとも、回復しません。私で言うと、二重性での顕現体の転身がこれに引っかかるのが非常に痛いです。


 ただし、時間経過でのMPなどの回復は試練の間内部の時間経過基準と、そこは温情でしょうかね。背水の効果もこちらに分類されていたのは不幸中の幸いでした。


 罠の発見、解除などのダンジョン探索要素は排除された、ほぼ純粋な戦闘能力を問うタイプの試練。

 この点は、実にルナリスと私向きです。

 辺境伯の配慮をありがたく受け取りつつ、将来的にはメンバーの追加か、何らかの手段で、手当てすることを考えなければなりませんね。ルナリスとも相談しましたが、住民の感覚としても、スキルスロットが限定されている中、オールマイティーという事はほぼ不可能との認識でした。


 そうこうしているうちに、表示が36階層目に上がり、フィールドの情景が変化します。


「では、これまで通りに」


 ルナリスの凛とした美しい声が、しずしずと歌を奏で初め、刀と扇を両手に、ゆうらり、ゆうらりと、体が拍子を踏み始めます。その足元が木製の床板に変わったかと思えば、ここは大きな船もどきの上。周囲には穏やかな海が広がり、潮風が頬を優しく撫でていく。

 後ろにあった外への扉は甲板の上にそびえたったまま健在なことを確認し、陽射しがさんさんとさす上空を見上げれば、空高く飛ぶ大きな影が16.


 出現したのは頭部と前足が鹿、体は青い羽毛に覆われた鳥。人間と同程度の体高の動物型モンスターでした。

 しかし、通り過ぎた影を見ると、彼らの影はまるで人間のそれ。

 簡易鑑定が映す相手は、 “☆4 Lv.32 ペリュトン”

 世界中のファンタジー、伝説、伝承から本当にランダムに、かつレアリティーもレベルも様々に召喚されるようで、まったく知識にないモンスターが突如現れるのもこの”試練の間”の厄介なところ。


 相変わらずの誘引効果で、ルナリスまっしぐらの彼ら。

 6体が急降下してくるのに合わせ、


 “氷結魔術-戒め”


 意思伝達経由で、翼の拘束を試みることをそれとなく伝え、魔術発動。

 そこまで期待していなかったのですが、2体が羽ばたきの制御を失い、海面へ墜落。


「ナオ様……すごい」


 ルナリスからの温かな意思伝達に、面映ゆさを感じる。彼女の瞳が、私への信頼を映していた。


 対抗するように飛び立つ私。すれ違いざまに2体をハルバードの斧部の餌食に。

 すれ違った残り2体の片方は、彼女の月魔術の幻惑効果でそもそも見当違いの所を狙い、甲板に激突。

 最後の1体はくちばしを扇で払われ、円を描くような曲線の足運びですれ違いざま、一刀の元に切り捨てられます。


 残り10……と、上を見上げたところで。


 “まだ、です“


 ルナリスからの意思伝達に、慌てて、靄と消えるはずのそれぞれの斬撃に倒れ伏したはずの3体を見ると、確かに切り裂いたはずが、何事もなかったかのように、無傷。


「回復……でもないですね」


 狙いをこちらに切り替えた先の2体に、上空からさらに追加された4体を相手に空中でドッグファイトを開始しながら考えます。

 対ボス用に堕天使モードをメインで今回使っていますが、こういう相手は若干不利ですね。日に16回の顕現体の転身は100階層まで突破しようと思えばそうそう、札として切るわけにもいかないのですが……。


「ああ。これ、そもそも物理が無効ですね?」


 完全に真っ向から真っ二つにしたはずが、そもそも切断跡がないどころか、すり抜けているのをはっきりと目視。


「……物理攻撃が通じない、半霊のような存在……みたい……です」


 ルナリスの知識でも、このモンスターは奇妙なようだ。


 “切り替えます”


 堕天使モードでは攻撃系魔術が使えないので、やむを得ず顕現体-表 天使に転身。

 相手の速度を大きく上回るAGIを全開に振り回し、双短剣から接触と同時に、消し飛ばす融炎を叩き込めば、バッタバッタと、大型のモンスターももはや烏合の衆。


 ルナリスが惹きつけ、まさに舞の相手と、肌に触れさせることもなくかわし続けてくれているところを、後ろから次々瞬殺して回れば、この階層もクリア。


「1層ごとは問題ありませんが、やはり、100層までとなると厳しいですね」

「です……ね。私も魔術攻撃……も、必要、かもしれません」

「それもありますが、私の継戦能力の欠如が致命的すぎて……申し訳ない」


 ふるふるふる、と必死に首を振って否定してくれますが……どうしたものか。


「レベリングやスキルレベル上げにもなります。ひとまず今日は予定通り50階層あたりまで進めて、戻ったら作戦会議にしましょうか」

「はい!」


 ルナリスは私の言葉に力強く頷いた。


 元々24時間常時ログインなうえに、この”試練の間”の仕様のおかげで、他のプレイヤーと比べて、格段に密度の高いゲームプレイができています。


 目的の試練の間が内部に滞在できる場所でもなく、クリアまでこの領都に長期滞在が確定したことで、長期連泊で抑えた高級宿のスイートルーム。宿泊費が2人で1泊25万GOLD、都内の高級ホテル位の感覚でしょうかね。食事はホテルのレストラン、街に繰り出す、現実のコラボ料理を購入と、2人の気分で相談しながら日替わりで。


 冒険者ランク上げのために、外の依頼も受けることになると思っていたのですが、以前の辺境伯とのお話の通り、あまり、外に出てほしくないらしく。辺境伯みづからの推薦を元に、試練の間の到達階層を基準にランクアップを許されるという破格の対応をいただいております。とはいえ、試練突破時通常Bランクに上がれるところをCランクで止められる、という条件を冒険者ギルド側とは合意しています。護衛依頼、採集依頼等、本来多角的に評価するランクアップを、試練の戦闘だけにしてもらっているのですから妥当ですね。


「さて。今日はちょっと反省会というか、まじめにどうしようかなと、相談会です」


 辺境伯からの依頼(条件)を受けて、リアル7月18日、ゲーム内時間すでに32日(サービス開始から72日)が経過しました。最高到達階層は61階。

 踏破依頼自体は、ゲーム内8月1の巡り中に達成が目標なので、まだ86日の猶予があります。


 しかし、2つ目の依頼。実績を示すことを考えると、対プレイヤーパーティー戦をこなすわけで、できればそれまでに、試練の間の突破は果たしたいところ。踏破報酬とかもきっとあるでしょうからね。

 そうなると、PVPイベントがリアル7月26日。前日には完遂したいと思えば、すでに半ばを過ぎ、残りはゲーム内時間約28日しかありません。

 正直、内心焦っています……。


 まかり間違っても、依頼失敗、ルナリスをどこかの貴族の養子にとられ、そのまま王族に献上……。それはさすがに阻止可能だとしても、最悪、帝国にはいられないか、隠れ潜む身になれば、彼女に不自由を強いることになりかねません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ