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24.第24話 ”会談、これからは?”

 「天使様、アレイスター王国第四王女殿下をお迎えするに、このような形で大変申し訳ない」


 いかにも軍部のたたき上げと言わんばかりに、筋骨隆々とした偉丈夫自ら応接室へ案内されての流暢な語らい。


 天使は翼があるので、背もたれから腕置きまでがしっかりとした作りの一人用のソファーだと、おさまりが悪いのですね。初めて気が付きました。サユキさんの所でも、ミニチュアコテージでも、比較的シンプルな木製の背もたれだけの椅子でしたからね。

 私にだけ、何やらとても華美な装飾が施された座面だけの椅子と、持ち運びができる、クッションの効いた肘置きをメイドさんが運んできてくれたのには驚きました。天使のような翼のある種族用の椅子との事。


 「とんでもございません、過分なお心遣いに感謝いたしております。されど、この身はただの天使様に付き従うものにございます」

 「なるほど」


 ルナリスの立場は大変危ういものでもあります。

 国家間で見れば、亡命政権を立ち上げる等、容易とはもちろん言えませんが、そこはやりようもあるでしょう、政治利用可能なもの。まして、ここミドガ帝国とアレイスター王国は、かつて長年直接矛を交えていた敵国同士。


 かぐわしい香りの立ち上る紅茶で口を湿しながら、いよいよ会話が始まります。


 「御覧のとおり、ダンジョンや戦場を駆けまわる方が昔から性に合っておりましてな。どうにも粗忽でいかんと細君にもよく怒られるのですが。政治的な迂遠なやり取りというやつで、お心を砕かせるよりも、ぜひ自慢の庭園を楽しんでいただきたいところ。直截に、要件に入らせていただきましょう。問題、あるいは懸念が3つ。そして、それに基づく、いくつかの提案。正直に申せば、ミドガ帝国としての選択肢の提示がございます」


 指が1つ立てられる。


 「まず、帝国が憂うるは、御身のお立場。アレイスター王国の現状は認識しております。姫殿下のお立場もある程度。各国表向きは御身の継承権はないものとみなしている。が……」


 うかがうような視線に表情一つ変えることはなく


 「この身はすでに市井と……なんら変わりませぬ。世界より名すら失い、ナオ様。天使様に従属しております」


 ふむ。と、視線を隠し、再度あらわされた手のには2本目の指が立てられた。


 「もう1つ、申し上げづらい事ではありますが、御身に惹きつけられる魔物共の事」


 あー……これは完全に失念していました、ね。ルナリスも表情には一切出さず、しかし、意思伝達経由で私にだけ動揺を漏らします。


 「道中の様子は当家の者から概要は確認しております。また、なぜ私共が”彷徨いの樹海”の外で、お待ち申し上げることができたか。それはダンジョンの領域を超えて、魔物の活性化と、集結が見られたから。なのでございます。もちろん、アレイスター王国を旅立った馬車と、甚大な爆発の余波を観測した事。が、事前ではありますが」


 間に連邦が挟まり緊張は緩和されているとはいえ、いまだ仮想敵国、当然スパイもいますよね。

 情報伝達にしても、魔術的手段もあるのでしょうし。


 「さて。そこでいくつかの選択肢のご提案です。お二方のご様子をうかがう限り」


 そこで、部屋の隅に控えていた執事さん、馬車で迎えに来てくれていた彼、に視線をやり。

 ……もしや中での様子って聞かれていたりしました? 不用心すぎましたかね……? まずいことは……あーティアラの性能を鑑定結果は口頭で伝えてもらいましたね? 後は特には大丈夫……かな。さすがによそ様の馬車で過剰なスキンシップはしていません。軽い接吻くらいは、まあ。


 「はじめ2つについては……ご不快とは思いますが、立場故、ご寛恕願いたい。」


 わざわざ断りを入れ


 「1つ。当家をはじめ、家族として、お迎えするご用意がございます。そして、王家へのご紹介も」


 つまり、養子として迎え入れ、その後、王家へ側室なり妾として、嫁ぐと。アレイスター王国への札として使ってもよし、何よりこの美貌です……。

 いけませんね。ちょっと見たこともない王様だか王子様だがに殺意が。すていくーる。


 「2つ。アレイスター王都を占拠する、逆賊に対し、正式な援軍をお貸しすること」

 「お気持ちはありがたく存じます。しかし、わたくしの意思は先の通りに変わりございません」


 頷き、少しだけほっとして見える、辺境伯。

 察せられたことに気が付いて、いや、わざと表情を見せたのでしょうね。


 「正直。お断りいただき安堵しているのですよ。かの国における創世聖教教会が廃されたこの2巡り(約60日)以上。ご存じではないかもしれませんが、現在、この世界は大きく変わり始めています。それも、急激に。帝国北東の”始まりの街”に来訪者が、旅人たちが長き時を隔て、再び現れたのです。それも、神話の時代にすら類を見ぬ人数の規模をもって」


 あ、プレイヤー達ですね? サーバーに分かれているとはいえ、かなりの人数が、ほとんど同じ場所に一斉に解き放たれていますからね……それは混乱もするでしょう。


 「かの地には、創世神のご意思の元、我らが手を出さぬ試練も無数に配置されております。当面は帝国北東部にて彼らの大多数との関係性を探っていくこととなりましょう。元々広大な土地を支配下に置き、東西帝国分裂などと案ぜられることも甘受する中、外征する野心は今の帝国には、国家主体全体としては、すでにないのですよ」


 アレイスター王国的には、侵略国家的な教えだったと、これは彼女の父や教育係ですらと、ルナリスからは聞いていましたが。実態はそうなのか、あるいはさすがに真実だけを語ることはないか。


 そして最後3本目の指が立てられた、彼の武骨な手。


 「さて、3つ目の問題はその来訪者たちでもありましてな。あれだけの大規模な人数。それこそ、1つの都市どころか小国にも匹敵しうるかという程。遺憾ながら、犯罪に走るもの、そこまでは行かずとも、我らの規則、常識、風習に寄り添うことを良しとせぬ者が一定数存在します。これらから、お二方が自衛いただけるかという事。彼らは今は脆弱です。しかしその成長はかなり早い。死をさほど恐れぬ、という点がやはり大きい」


 まあ、そうですよね。住民と接する中で、現実と同じに正しく振舞おうとするものもあれば、どうしてもゲームという感覚が抜けない者も多数います。ましてゲームだからこそ、現実にできないことをと。この001サーバーは聞く限り、極めてまともな方ですが、004サーバーなどそれこそ、住民の根絶を目指すプレイをしている集団やら、大規模犯罪カルテットやら、大集団が乱立しているそう。


 「1つ目の魔物の誘引の問題については、むしろ彼ら来訪者は戦闘を好む特性があり、彼らの活動領域の拡大と合わせれば、いづれ問題は軽減されるでしょう。しかし、それまではやはり、ご移動等には多少の配慮を願いたい。例えば農村部等、自衛手段の乏しい地域へは申し訳ないが立ち入りを自粛願いたい。お二方のご様子から、問題はなく無礼とは存じますが、魔物の領域との移動などにもお気遣いを願うことになりましょう」


 私もかなりプレイヤー感覚が抜けていなかったのでしょうね。”彷徨いの樹海”では、狩り効率高くておいしいとすら思っていましたが、下手をすれば、魔物の大集団を引き連れる人工スタンピードなんかだってできますよね……。


 「さて。そこでご提案、と申しますよりもこれは正式な依頼。と、とらえていただきたい。冒険者活動を希望されるとも伺いました。指名依頼としてもお出しし、報酬も相応の物を確約いたします。力をお付けいただきたい。外敵を、心無い来訪者の牙を、退けられると確信できる力を。そして、実力をお示しいただきたい。心苦しいが、お引き受けいただけない場合、あるいは達成がご無理であった場合、帝国の庇護下にて暮らしいただくか、連邦へのご移動ないし、王国への帰還を願うことになります」



 そうして提示された羊皮紙に記された条件、いや、クエスト/依頼は以下のようなものであった。


■依頼1―期日:8月1の巡り中

 ・指定されるダンジョンの踏破

 ・冒険者ランクC以上達成 (ランクアップを意識しながら、ダンジョン踏破挑戦と組み合わせれば自然と可能との事)


■依頼2―期日:8月1の巡り、該当大会時

 ・創世神が来訪者に向け企画した大会において、一定の戦果を示すこと

 ここで初めてイベントの案内が来ていることに気が付きました……これはプレイヤー目線で言えばすなはち

  -PVP大会で本選出場。入賞以上には追加報酬あり 

※制限:今後行動を常に共にする予定の者のみで出場すること(助っ人、PT参加、禁止)

  又は

  -狩りイベントでランキング上位に入る事

 まさか、公式イベントと、個別クエストが連動することなんてあるんですね……。



 ここで少しだけ、Steps to Elysium Online(SEO)の、暦について補足しましょう。

 時間加速4倍なので、当然リアル同じ暦、季節の移り変わりだと、4倍の速さで季節がずれて行ってしまいます。

 そこで、SEOでは、1か月がリアル約120日。1年がリアル4年で成り立っています。

 つまり、リアル7月1日~7月31日が、ゲーム内7月1の巡り1日~4の巡り31日 となっているわけです。


 生命の寿命感覚も地球の4倍の日数が最低値。ただ、”年”という単位は4倍長いので同じ。

 リアル10歳=リアル10年を生きた=リアル約3,650日を生きた。

 ゲーム内10年を生きた人=ゲーム内10歳=ゲーム内約3,650×4=14,600日を生きた。

 よって、リアル10歳=ゲーム内で体感40年を生きた人=ゲーム内でも表記上は10歳。

 となるわけです。


 そして、季節も、リアル7月=ゲーム内 7月 1~4の巡り となり、リアル目線でイベントを考えていれば、ゲーム内でも同じに、ただ4倍長く楽しめるというわけですね。



 今日はゲーム内7月2の巡り6日なので、依頼1の達成完了までは、内部時間で118日あるわけです。(リアルだと約29日)



 「他にももちろん選択肢、例えば、天使様であれば、創世聖教教会の庇護を求めることもたやすいでしょう」


 サービス開始から立ち寄る機会がこれまでありませんでしたが、確実に何かイベントフラグを踏みそうですよね……近寄るなら、しっかり下調べをしてからにしましょう……。


 「ご配慮、重ね重ね感謝いたしますわ。ぜひ、お心遣いを、ご依頼をお受けさせていただきます」

 「承知しました。では本日はどうぞ、当家でお休みになってください。晩餐のご用意もございます。是非それまで、自慢の庭でお茶など、楽しまれてください」

 

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