23.第23話 ”野を越え、森越え、ダンジョン越えて”
“導きの宝珠”の指し示す先もここが終点。無事“彷徨いの樹海”を抜けると、クエスト達成のアナウンスが。
視界の隅に流れるのですが……見ている暇が……ない!
私の翼の陰に半分隠れた、ルナリス。当然庇うように、翼を緩く広げる私。
目の前にはずらりと並んだ、甲冑姿の騎士? ですよね。
こちらを向いて二列に、豪奢な馬車への道をあけて、整列する彼ら12名。
不幸中の幸いは、抜剣されたり、槍を突きつけられたり、しているわけでもなく。むしろ彼らの後方では、徐々に数を増すモンスターがこちらに近づかないよう、打ち払っている揃いの軽装鎧を着こんだ兵士たちの姿が。
騎士たちの間を抜け、歩み出てきた老紳士が一人。白手袋の手を胸にやり、丁寧な所作でお辞儀をし、語り掛けてくる。
「高貴なる御前を拝する無礼をお許しください。我が主、ミドガ帝国辺境伯を拝命しております、アンブロシウスの名代としてお迎えに上がりました。急なご招待にて恐縮ではありますが、何卒、ともにアンブロシウス領、領都にございます、主の館へお越し願えますでしょうか」
ひとまずの逃避先として考えていた事でもありますし、害意を感じることもなく。
ルナリスも翼の陰から歩み出て、私を見上げ、頷きます。
「承知……いたしました」
たどたどしさはやはりあるものの、いつもよりさらに凛とした声で、応じる旨を告げる彼女。
明らかに、立場なり、諸々分かっていてのご招待ですからね。私は付き添いに徹すべきでしょう。
とはいえ、王侯貴族のマナーなど、当然微塵も知らぬ身。冷や汗だらだらなのは、ルナリスさんや、許してくださいね?
自前の、といっても、アレイスター王国から持ち出しただけですが、馬車とゴーレム馬を出すことなく、誘われた馬車に2人で乗り込みます。
「1時間ほどの馬車旅となります。お疲れのところとは存じますが、平にご容赦を」
音一つ立てず、閉じられる扉。よかった……中は2人きりになれるみたいですね。
騎士たちがそれぞれの、乗騎に素早く騎乗するや、出発。馬車は微妙に浮遊しているらしく、かなりの速度で進んでいるにもかかわらず、揺れ一つありません。周りを固める、護衛の騎士たちの乗騎も、馬車を引くのも、馬ではなく、騎竜として飼われている地走竜という種類だそう。
「さて、どんな話になる事やら」
「わからない……ですが、わたくしは、公的には……表に出たことはありま……せん。とはいえ、他国に王族について……情報を集めていないはずも……なく」
「ですよね。こうした場ではどうするのがよいのでしょうね。護衛として、後ろについている感じが無難でしょうか」
「い……いえ……! ナオ様……は。わたくしの、は……はは……はんみょ……みゅぅ……」
真っ赤になった、かみかみルナリスかわゆい。
「伴侶として、ついて行って許されるのですか……?」
「そ……それ以外……い、嫌! です!」
「嫌といわれては、もはや議論もありませんね。さすがに気が早い気もしますが、ルナリスが許してくれるなら、そうしましょう」
「です。です!」
以外と、こういうところは絶対にひかない、銀の姫の事はもうわかっていますからね。
「とはいえ、貴族の所作などは全く知りません。お恥ずかしく、正直悔しいですがフォローはお願いできると」
「は……はい。で、でも、わたくしも、最低限の教育は……うけていても……です、ので。お話の流れに合わせて、り……臨機応変、です」
「はい。いざとなれば冒険者という事で。まあ、登録すらしていませんが。あれ……私よく考えたら、公的な身分はただの無職? ニート? あ、その前に特級呪物か」
「ナオ……様は、て、天使様……です。そのご威光……お借りできればと」
ああ、そうでした。創世聖教、この世界で最も権力を持つ協会の教えの中で、天使はかなり高位の存在なのでしたね。
プレイヤーの場合の扱いが分かりませんが……。
先に決めておけることもほとんどなく、もう一度彼女の気持ちだけ。
将来は一緒に自由に、積極的に冒険をし、常に一緒にいたい。戦う時は必ず一緒。
という、かなり控えめなそれを再確認し、王女としてあるいは、アレイスター王国に関係するような道をこちらからは基本的に選ばない。と、確認し合った後は、クエストのリザルト確認等やることを済ませてしまうことにしました。レベルアップもできるでしょうしね。
ログをさかのぼって……っと。
===============
クエスト名:供犠姫#2-逃避行:魂の香り
ランク:☆8 禁忌級
<評価>
総合評価:☆10
<評価内訳>
☆10:供犠姫の無事 - ”至上の供犠姫”生存、脱出成功
☆10:邪霊からの逃走 - 撃退
☆10:期限内の脱出 – “彷徨いの樹海” 通過所用日数10日間
評価対象外項目、表示不可
<達成報酬>
EXP、スキルEXP
アイテム:☆7星の導きの石
MC:0 GOLD:50,000,000
【確認】
===============
確認を押すと、装着スキル全てがレベルアップしましたね。
道中や邪霊戦でのSLvアップと合わせて、顕現がSLv5、他全スキルがSLv4に一気に上がりました。
二重性での転換が日に16回に増えたのも大きいですね。
そして、レベルも私がLv25、ルナリスがLv19まで来ました。
ルナリスは道中でのレベル低下も込みですね。
邪霊戦の莫大な報酬に、道中の大量のMOB討伐を合わせ、資金も端数は落として、おおよその表示ですが
MC:9,350万, GOLD:10.2億
MMOの世界で上位を目指すなら、これでも、桁がいくつも足りない、はした金という心底、恐ろしい世界です……。
MCを現金に換金できるので、逆に経済感がバグりますね……。MCをリアル換算して考えるようだと、このゲームはトップ層を目指したプレイなんて不可能でしょうね。☆9以上装備なんてもしも、世に出たら、数千億は行くでしょ……。
うーん、あの日見た光景が示す片鱗を考えれば、サービス終了を恐れるよりも、現実の変容が引き起こされることの方を恐れるべきですね、これはもう。
さて。最後に頭が痛いのがこれ。
“☆7星の導きの欠片”
「ルナリス。神様からのご褒美? なのでしょうか。こちらを授かりました」
実体化したそれは、青みを帯びた緑色に輝く、宝石でした。
真剣な瞳で、その宝石を見つめたルナリスが、そっと私の手ごと包み込むように、上から手をかぶせます
「月魔術-輝き」
優しく白い光に照らされるや、先ほどまでの緑の輝きが一転、はっきりとした、赤紫の神秘的な色、輝きに変わったではありませんか。
「アレキサンドライト……?」
長辺方向6㎝はありそうなんですが……? ファンタジー、ファンタジー、ゲームの中……と心を落ち着けます。
世界最大のアレキサンドライトより大きいだけでなく、このもはやCGといわれた方が納得のいく、くっきりとした綺麗な変色。
ここまでの物はこの世界でも稀だとしても、このリアリティーのVRMMO、宝石好きな方々にも、夢の世界でしょうね。
「ティアラを……お出しいただけますか」
言われ、”☆- 星の煌めきのティアラ ※アレイスター王国レガリア(王権の証)を成す品の1つ”を取り出します。
フレーバーテキストが恐ろしくて、実体化していなかったそれ。
日の光を浴びると、高貴とはこのことと言わんばかりに、輝きに満ちています。
合計何カラットくらい宝石が使われているのでしょう。
しかしよく見れば、なん箇所か、宝石が外されたらしき台座のみの箇所があります。
特に目立つ、中心部に星の導きの欠片をそっと、ルナリスがはめ込むと。
【個人アナウンス:”☆7 星の煌めきのティアラ” が神秘を取り戻そうとしています】
ほぅ……と、ルナリスが吐息を零し
「よろしければ……わたくしめに……お載せ願えますか?」
ことりとも揺れない静かな馬車の中が、急に神聖な空気を帯びたように感じる。
光の冠をすでにかぶっているような、美しい銀の髪にそっと、ティアラを載せる。
純白のドレスと相まって、さらに幻想的な雰囲気を増したルナリス。
「美しい。これ以上なく、似合っていますよ」
「ありがとう……ございます」
微笑みも、いつも以上に神聖に見えてしまいます。
「王権を示す1つ……ではありますが、アレイスター王国に……おいて、現存しているだけ……で……王権の証は100以上。現代の……戴冠式や、王位を示す品……に、このティアラは含まれません」
私の心配をくみ取ってくれたようで、一生懸命に説明をしてくれます。
「長い歴史……の中で……力を、失っていた品……でした。わたくし……の……母……古き血……に受け継がれていた……のです」
「あるべき方に受け継がれたという事ですね。彼らが、持ち出してくれていてよかった」
「はい……です。そして……力を取り戻し……さらに取り戻して行け……ば。ナオ様の……わたくしがお力に……なる一助……に」
そうして示してくれた鑑定結果は
===========
☆7 星の煌めきのティアラ ※未だ神秘を取り戻していない
形状:時に青緑に、時に赤紫に色を変える宝石を中央に戴いた、ティアラ。宿る神秘はまだその一端を取り戻したに過ぎない。
主材質:ミスリル/神銀、各種宝石、各種魔核、星の導きの欠片
強化値:0
基本性能: MND/CHR/LUK+☆7
特性:不壊、魔術発動体、星明りに舞う蝶
※星明りに舞う蝶:装備者から一定範囲内の味方と認識されている者に以下の効果を付与
回避補正:小
阻害効果/異常効果への耐性向上:小
意思伝達:相互に漠然とした意志の伝達が可能
===========
ぎゅーっと、手を握ったルナリスから、ほんわかと、温かな好意がなんとなく脳内に伝わってきます。
なるほど、これが、意思伝達の効果。
私からも同じく、愛してますよーと念じると、ほんのり赤くなり、おめめがぐるぐる。
はい、かわいい。
そうして新しい念話もどきで2人して遊んでいると、人々の喧騒が聞こえるようになり、それも静まった頃に馬車の扉がノックの後開かれました。
馬車を降りた先。
「よくぞおいでくださった」
アンブロシウス辺境伯自らの出迎えを受けたのでした。
おすまし顔で微笑みを浮かべ、綺麗なカーテシーを披露するルナリスから、”ひぇー”、と内心の焦りが響いてくる。
あ、これ意思伝達、切り忘れてるね……? 普段クールな彼女内面が伝わって、ちょっと面白い。




