160.7章 - 第1話 ”帝都へのお誘い #1/2”
「ナオ殿、ちょうどよいところに来られた」
と、私の前で喜色満面なのは辺境伯様。ここは辺境伯領領都にある、創世聖教の大聖堂の応接室。
目の前、ソファーに腰掛ける2人のもう片方はかつて、“☆8 神威-領域規定”を譲ってくださった、フェルナレン大司教。
「ルナリスのスキル入れ替えをお願いしに来ただけだったのですが……よもや辺境伯様もいらっしゃるとは」
「はは、貴殿らが大聖堂に来たとの報が入ってな、ちょうど伝えたい事もあった故、同席させてもらったわけだ」
「なるほど。私達も、”彷徨いの樹海”調査の件で、ちょうどご報告を思っておりました」
一応、それも冒険者としての依頼という形式をとってもらっていますからね。
8月にあちこちを転々として野良ダンジョン制圧を繰り返したことで、冒険者ランクも上がりました。その終わり際に、ギルド経由でいただいた指名依頼ですね。
「まあ、まずは、そちらの要件を済ませるとよい」
現実で言うバロック様式に近いでしょうか、高い天井に大きなステンドグラス。明るく荘厳な教会建築はやはり心躍るものがあります。そんな中でも、一際豪華な調度品に彩られた応接室……なのは、嬉しくも緊張するところなのですが。それ以上にずっと気になっていたことが。
「その……大変ぶしつけかつ勘違いであれば、非常に申し訳ないのですが……その前にですね」
ええ、さっきからルナリスと紗雪も、若干気もそぞろなのはわかっていますからね。
魂核経由で、二人とも内心、『えー……』って、戸惑っていますよ。
「フェルナレン大司教猊下……あれは……?」
「ほほ、ナオ様は、正しく創造神様の御元にて神域への階を踏み出す御方、そしてお二方もまた、ナオ様に付き従われる御方々でありますれば」
いえ、まあ。何か、というとですね?
明らかにどこかで見覚えのある、4人の姿。それはもう、神々しく大空を舞う姿の描かれた、大きな絵画がですね? 応接室の大変目立つところにかけられているわけですよ。
全ての翼を広げた、多翼の姿で。ええ、私達4人の、直近進化後の姿ですね。
「あちらは来訪者の中でも、名高いイラストレーターなる職業の画家殿が描いた一点を、寄贈いただきましてな。ナオ様は創世神様の神託に示された救世主でもあらせられる。さらには予言の通り、アレイスター王国への神罰を体現された事は他大陸にまで知れ渡っております。特にこの大陸。ミドガ帝国とフェリシテ連邦での人気は計り知れませぬ。両国の全ての教会に聖画として、飾られておりますぞ。どのようなお姿、情景を描いた聖画を飾るか、競い合いまで起きておるほど」
自分の笑顔が引きつっていないか、確認するのが怖いです。
『紗雪も知れなかったの?』
『ええ……プレイヤーの皆さんの間で、ファンアートがたくさん描いていただいているのは知っていましたし、お見せしましたけれど。SEO内でこんなことになっているとは……』
『ナオ……様……の、似姿は当然、ですが……わたくしまで』
いえ、むしろルナリスこそ、絵になるのですが。あぁ、これはアレイスター王国の元姫、第4王女である事の方を気にしていますね?
「ナオ殿方はあまり、他との交流をせぬからな。それに領内では、過度の接触は控えるよう触れを出しておる。それゆえ気が付きづらかったのであろう。画商の店の一つにでも入れば、お主らの絵画は山ほど売られておるぞ? 来訪者ではそうさな、黒蝶姫殿や綾殿の絵画も、特に人気であるな
「住民の皆様からの視線が刺さるな、とは思っておりましたが」
以前にもまして視線が集まっているなとは、ここに来る道中も気が付いていましたが、単に美少女4人組という事でかと思っていました。
「アレイスター王国の消滅から3巡り(※SEO内部時間約90日)は過ぎております故、大分といきわたりましたな。先ごろ各地のダンジョン鎮圧を成されていた頃はまだ、そのような地方にまでは行きわたっていなかったのでしょう。協会もそれぞれ、似姿の”すくりーんしょっと”なるものの印刷物を来訪者から譲り受け、それを元に画家に描かせておりますので」
「そうそう。それと巷ではナオ殿たちの、何と言ったか。かっぷりんぐ? なる絵画は特に人気でな。仲睦まじき様を描いておるのだが、ルナリス×ナオ、やら、ナオ×紗雪。ナオ×ナオなど、こう、いろいろな派閥があるようでな。またこれが、前後の並びを誤って申すと、怒られるのよ。嫁もうるさくてな?」
辺境伯夫人、何をなさっているのですか……。
「はは……それはなんとも」
と、言葉を濁しつつ裏で念話では。
『なんだか、とんでもない文化が持ち込まれていません?』 『文化汚染というかなんというか』
『でも、カップリングイラストの絵画、私も欲しいかも。ナオさん同士のっていうのもなかなか惹かれますね。そういえば、そういうの、夜にしたことが無いですねぇ』
『今夜、そのよう……な、趣向も……わたくし、お手伝いいたします』
『2人とも? 何とんでもない事を』 『体は2つでも、私は一人ですからね?』
「して、スキルの入れ替えでございましたな。よろしければわたくしめが、承りましょう」
なんと、大司教直々にとは。
「恐縮です。ではお言葉に甘え、ありがたく」
「こちら……です」
さすがにスロットエクステンダーの売りはプレイヤーオークションにはなく、住民オークションも地域の物の開催を待つ必要がありますから。今回は入れ替えで済ませる事にしたのです。
「こ、これは……!」
驚きの声を上げる大司教。辺境伯も声こそ漏らさないものの、驚きに目を見張っていますね。
「よもや神話級のスキルを発現なされるとは。誠に、めでたい。さすがはナオ様の眷属であらせられる。ですが、習得はご自身で成されますので、以後はお見せいただかずとも大丈夫ですよ。では、入れ替えられる対象のスキルを、その魂からお引き出ししましょう」
「なる……ほど。確かに、そう……ですね。”☆1 属性:風”……を、お願いいたします」
初めての事で、言われてみれば確かに、ですね。ルナリスは昔、入れ替えなどしたことがありそうですが、きっとその時はお姫様という事で、メイドさんか、呼ばれた聖職者の方が全てやってしまったのでしょうね。
「承知いたしました」
胸元手前にかざされる大司教の手から、温かな波動が放射される。
間もなく、薄緑色のスキル結晶がそっと宙に浮かびあがりました。
「そちら、お納めください。ちなみに、ではありますが。魂魄属性をお持ちであれば、いづれスキルを引き出す事は出来るようになりますよ。聖職者は創世神様からその御業の一端をお預かりしておりますが、元来は魂に作用する術でございますので」
「なる、ほど……精進、します」
それは、頼もしいですね。セレスティアのおかげで、転移移動ができるようになってきているとはいっても、教会にいちいちというのも面倒は面倒ですから。
「せっかくですし、習得もしてしまいませんか?」 「私も楽しみでしたし♪」
向かいの2人も、期待するように見つめていますしね。
「では……失礼いたします」
眩い輝きを放つ結晶をそっと胸元にあてるルナリス。そっと結晶が沈み込み。一瞬発せられる眩い輝き。
「習得……できました。このような事、が……できるようです」
まだ期待の視線をそらさない2人をおもんぱかって、ちょっとだけ実演をしてあげるようですね。
一応念話で許可を聞かれたので、もちろん了承を返します。
ルナリスのほっそりとした手に集まる魔力。複数の属性が入り交じり、複雑な濃淡を描いている様子が魔力視に見えます。
やがてその魔力は、一振りの美麗な剣となりました。
「☆9統合スキル - 麗しき虹華の舞姫……内包する、力の一端 ……“宝石剣顕現”、です」
コランダム、ルビーやサファイアを主軸に、表面には透明な、おそらくダイヤモンドや水晶でしょうか。幾重にも層の重なった、自然にはあり得ない美麗な宝石の剣。
大きさも自由自在なそうですが今は場所を考慮して短剣ほどの大きさ。
ふわり、との宝石で創られた短剣が宙に浮くと、くるくると、刃を明後日の方向に向けたまま、右へ左へ、踊り始めたではありませんか。
「”剣の舞”、わたくし……の意思で、自由に……空を舞わせる事が、できます。また、かつての……守護騎士たちの意思を呼び出すことも」
彷徨いの樹海、ミ=ゴの研究所での配信の後、ルナリスに見せてもらったスキル結晶の性能表示を脳裏に思い出します。
============
☆9 統合スキル – 麗しき虹華の舞姫
ルナリス専用スキル
習得条件:魂魄属性、宝石属性、性愛属性の保有
宝石剣顕現 - 宝石で創られた剣を生み出す。宝石剣には疑似霊魂が内包され、自立空中戦闘が可能
剣の舞 – 生み出した宝石剣を自身の意思に従って操作する
魅惑の煌き - 宝石剣が損傷を与えた対象から生命力、魔力を奪い取り、宝石剣と使役者本人へ還元する
守護騎士降霊 - 顕現した武器にかつての守護騎士の魂を降臨、憑依させ、自動戦闘を行う
============
「なんと……! つまり、神の御元へと旅立った英霊の、降霊までも可能という事ですかな。また、この舞い踊る剣、疑似魂魄を宿しているように見受けられます。仮初めと言えど、魂を宿す存在の創造に、英霊の召喚。これぞ、神話級と称されるにふさわしい! 神託を拝領するならばまだしも、善なる英雄に限った降霊ともなれば、聖国マリシアの聖女やそれに並ぶ限られた者のみに許された御業ですぞ!!」
今にもルナリスを拝みだしそうな大司教。
降霊術と言われると、怪しい呪術とかを思い浮かべそうにもなりますが。なるほど、創造神様に認められた。かつての供犠姫達を護った高潔な騎士達。邪悪の付け入る余地なく、そうした特別な存在を確実に呼べるとなれば。それは別格と言われて納得ですね。
今は実演しませんが、これ、魔力が許す限り本数の制限もないらしいので……とはいえ、共有されている魔力の消耗を見るに、まじめに戦闘をするのであれば、現状ではまだ、2,3本くらいがちょうどよいでしょうね。守護騎士降霊ともなると1人が限界か。
今後の成長がますます楽しみになりますね。




