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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第1部 - 第5章

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107.5章-第1話 “奪還に向けて”

 同日夜。


「紗雪、お疲れ様」

「いえいえ。ナオさんは今は、魔力を温存してください」


 “悠久の楽園”白亜城プライベートルーム。3人の主寝室で待つ私のところに、戻ってきた紗雪。

 アレイスター王国を覆っていた黒い結界が消え、外部と通じるようになった通信を介して、各種報告と情報の共有を辺境伯サイドとしてきてくれたところです。

 同様に、”悠久の楽園”との行き来もできるようになり、あの邪神ヨグ=ソトースへと通ずる扉の前からこちらに退避。

 領域は苛烈な侵攻に晒されていたそうで、うちの子達も生産組の子達まで総出で、かなりギリギリの防衛をしてくれていました。今はいったん落ち着いているので、最低限の警戒だけ残し全体的に休憩をとってもらっています。


 かくいう私は、ゲーム開始直後の頃のように”不朽の束縛”の姿。

 幻影顕現もしていません。


「アレイスター王国全土が消滅。奈落のように深い穴になっていて、おそらく大地が元の高さで残っているのは旧王都王城前、例の巨大な扉、邪神ヨグ=ソトースが封じられている領域へと繋がるあそこだけです。調査隊を派遣しようにも、奈落の底を調べるには準備不足。連邦と帝国で協力し、飛行可能な種族で少しづつ上空からの偵察を進めるそうです」

「私へのお咎めとかは?」

「一切なし。むしろお褒めの言葉をいただきましたよ。創世聖教を通じて大陸中に神託が下りていたそうで、神罰の執行として、創造神様の御心に沿うものであったと、大々的に両国で喧伝までされているそうです。英雄ですね、ナオさん」

「あはは……これ以上ない、私怨と自暴自棄の結果なので何も言いようがありませんが。それで、扉への侵入について、情報はありましたか?」

「いえ、両国とも、状況が完全に解決したわけではない事までは理解し、教会と連携した神代までさかのぼる歴史、各種研究機関など含め、情報をあたるそうですが、今時点では何も」


 務めて淡々と、情報の整理に意識を傾ける私達ですが……。

 まずは状況から、再確認しましょうか。


 顕現体/表、神翼種/光の元天使モードを、生贄としてまるっと捧げ。炎の邪神クトゥグアを召喚した結果、私の望みはかなえられました。


 生存者が既に存在しなかったアレイスター王国は文字通り消滅。いえ、焼滅。

 キャラクターデリートはされなかったものの、神翼種/光の姿(アバター)は凍結状態で、使用不能。

 紗雪は幸い、これまた願いが叶えられ、悪影響無し。

 自動的に”不朽の束縛”の中に戻された私は、紗雪の手の中に保持されていました。

 その後、一つ大きな問題が発覚。神翼種/闇の元堕天使モードは普通に使える状態なのですが、とりあえず幻影顕現で様子見をしたところ、”不朽の束縛”に保管されている魔力が回復しない。

 ついでとばかりに、二重性の反面である元天使モードの不在により、堕天使モードの性能も全体的に弱体化。まあ、そもそも乗算が積み上がってとんでもない倍率になっていた分、そこまで有意な低下ではないので。これはいったん、考慮から除外。



 そこで、なによりも肝心のルナリスの状態。

 彼女の心と魂の状況については知るすべがないので、いったん保留するとして。感情的にならないように、客観的に語るなら……。


 パーティー欄に表示が復活。ここは最前からの大きな前進。

 しかし、会話も、接触も、何もできず。私の側から見た眷属表示、エンゲージメントスキル、共に凍結状態。

 ルナリスのステータス表示は私から、見ることすらできない。

 さらに、こうなる前は魔力供給のパスが私の封印体との間に繋がっていたのも、完全に途絶。


「彼女に捨てられたことで、エンゲージメントスキルは解消されたのだと思いますが、眷属状態が途切れているのが分かりません」

「エンゲージメントスキルの事ですが抹消とかではなく、これも凍結、ですよね。ナコト写本の知識もできるだけ閲覧しているのですが、邪神ナイアルラトテプについて。千の、あるいは無数の貌を持つ。という伝承があるように、もしかしてですが、王都での言動も鑑みるに……。あの時、偽物のドリームランドの月で出会ったルナリスちゃんはそもそも、実は偽物だった。邪神ナイアルラトテプが化けていた。という可能性がありませんか?」


 ルナリスに捨てられてなどいない……。

 あの偽の月面での悲劇が全て、邪神の演技……。


「どれだけそうであればよいだろうと、私もずっと考えていました。ただあの時、私達は紗雪と私のエンゲージメントスキルの、一日千秋の効果で、あの場所に転移しましたよね? という事は、あれはルナリス本人だったとしか……」

「んーそのあたり、どう偽装したのかとかいろいろ謎はありますが。例えば、そう例えば。それこそもっと単純に、スキルで転移したと思ったのが実は邪神に場所を移動させられただけだった。とかもあり得ますよね? 実際、クロウリード王に嬲られるナオさんを、私が囚われていた場所に転移させているわけですし」

「確かに……それに、月では通じなかった意思伝達が、王都では通じました……。希望に縋って、また絶望するのは避けたいので。慎重に捉えるべきではありますが、私がルナリスを信じなくてどうするのか……という話でもありますね。情けない……」


 そう。確かに今、冷静になって思い返せば、違和感はいくつかありますね。


「何にせよ、システム的にルナリスが生存判定を受けられている事だけは、パーティー欄の表示で明らかです。で、あるならば、何を捨て置いても、彼女をどうやって救い出すかですが」

「“☆7 最上級-状態異常除去薬(帰属)”、”☆9 蘇生薬(帰属)“のどちらも効果がなかったのですよね」

「はい。この対象には使えません、と。冷静になって今考えれば、まず蘇生薬は不死の影響もあって、”死亡”していないため。状態異常については、四肢……というにはひどすぎますが、欠損が生命力の回復や再生の分野であって、”状態異常”除去薬では対象外なため。心、精神の状態についても、同様に状態異常ではなく、それこそ当人の心の在り様とか魂とかそっち方面、異常が正常になっている状態だから。と、そう分析してみています」


 この封印体の中では他にできる事もなく。ずっと、考え続けていましたからね……。多少は冷静さと、解決に向けた分析等、自分なりにもしていたのですよ。記憶を封じて、殻に閉じこもっていた期間が恥ずかしいです……とはいえあの時の衝撃、ルナリスに本気で捨てられたという衝撃は、それほどの事でもあったのですが。


「これは、かなり悍ましい推測ではあるのですが」

 紗雪が前置きと共に。

「魂の在りか。それはもちろん、肉体の特定の部位に宿っているのか、いないのか、とか。宿っている魂を司るのは、脳だ心臓だ丹田だ。とか、それはもう、諸説あります。それを、ここで論じるつもりはないのです。が、あの時の……思い出すのもつらいですが……ルナリスちゃんの状態。心臓以外のことごとく。それこそ脳すら……を、穢し尽くされていましたよね?」


 ええ、忘れるものですか。頭蓋に取り付き、脳髄を啜り喰らっていたあの悍ましい生命体。蠢く触手がいくつも生えていた、クリーチャー。

 ゲーム知識的に考えると、”ブレインイーター”とか、そういう類のモンスターでしょう。

 抱き上げるに際し、真っ先に排除したのですから。

 蛆と違い、あれは再出現もしませんでした。


「ええ」


 お互い落ち着くように一拍を置いて

「そして、クロウリード王は心臓を奪い。邪神ナイアルラトテプも、心臓だけは、王の依頼通り触れていない旨を、発言しています。つまりこれは一種の儀式。ルナリスちゃんの魂、存在、なんらか彼らが邪神ヨグ=ソトースへと至る、生贄としての素質を引き継がせるための何かを、心臓に集めていたのではないでしょうか」

「つまり、今は心臓にこそ、ルナリスの存在が凝縮されていて。それが、あの門の向こうに連れていかれてしまっている。だから、魔力供給も途絶えている……」

 いえ、他の要素まで、そのせいと断言するのは甘えですね。ルナリスを信じつつも、無事救出できた後に、彼女と気持ちをきちんと語り合うべきでしょう。


「ええ、今推測しても仕方がない事は、おいておきましょう。ナオさんの精神衛生的にも。ただ、この仮説自体はそう大きくは外れていない気がするんです。そして、どんな状態であれ、パーティー表示に戻っている。”強制的にパーティー戻った”という事は、エンゲージメントスキル”狂愛の楔”の効果が完全に消えたわけではないのでは? パーティー加入申請があったわけでも、それ関連の、システムメッセージもなかったですよね」


「確かに……確かに、その通りですね。ただ、そうなると……ルゥちゃんは……」


 そうして、紗雪と二人。ルナリス奪還に向けた打ち合わせを続けるのでした。


 わからないことだらけながらも、方針だけは何とかまとめ。

 気は急くものの、いざという時のエンゲージメントスキル”依依恋恋たる抱擁 -昼想夜夢”のクールタイム待ちと最低限の休息を加味し、決行を明朝に決定。

 魔力温存のため、私は引き続き”不朽の束縛”で過ごすことに。

 こうして魔力残量を気にするのも、思えば久しぶり。ゲーム開始直後のようですね。


 紗雪は遠慮していましたが、課金で、イタリアンの美味しいディナーを取り寄せ、食べてもらいます。それどころじゃないので、味も分からないと言ってはいましたが、少しでも気を休めてもらえる事があれば、やりますとも。


 領域の主であるプレイヤーや住民がいる場所の状態が、領域。私たちの場合”悠久の楽園”。への侵攻の強度に影響する事はほぼ確定なので、うちの子達には全力でここの防衛に当たってもらう事になります。


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