101.4章-第17話 ”王都での、何でもない日常”
「なんとしても。一つでも。確証を拾ってきて、お願い。ルナリスちゃんの消息と、真実の欠片を。少なくとも、”不朽の束縛”への魔力供給のパスが切れていない事だけは確実。辿って。今はそれしか手がかりはないの」
「紗雪様、はい、なの。」
「偽物のドリームランドとつながっていたと思われる他の地域も状況は?」
「目的地だった2か所は、採掘場の町アノクがあった山と同じなの。あたり一帯全部更地、ううん、抉り取られたみたいに消滅してた、なの。動画は2人がとってきてくれた、なの」
「ありがとうございます。外部からの情報は期待できませんが念のため、辺境伯たちに伝わるようアップロードしておきます。3日ほど、ナオさんの状態の安定を最優先で、あちらへの情報更新を一切できませんでしたからね……」
「では、行ってくる、なの。2人とも、一緒に来る、なの」
紗雪とサフィーロが何かお話してる……。
また難しいお話なのかな~……邪魔しちゃだめだけど……もう終わったみたいだからいいかな?
自慢の綺麗な黒髪を指先でいじりながら、大人しくいい子に待っていたのよ、私。
「むぅ。紗雪~、いいからほら、抱っこー。おいで、これも美味しいよ」
「は~い。あ、きゃっ、ダメですよもう」
ふわふわさらさらの、淡いライトグレーのウェーブロングヘア、気持ちいい。
ツーサイドアップの両側の緩く巻いた髪の毛が、しゅ~って伸びてるのが、ゆらゆら揺れるの。最高に可愛いよね~。
お膝に乗った小柄な彼女をぎゅっと抱っこするとね、幸せで、ぽかぽかするの。
私の黒い羽も、ふさふさで気持ちいけれど、紗雪はね、とってもいい匂いがするの。
お鼻をうずめて、くんくん。いつまででもできるよ。
「ほら、ナオさん、いい子ですから。先にマシュマロ食べちゃいましょうね?」
「んーわかった……。おいし♪ 紗雪も、ほら」
「はい、いただきますね。うん、マシュマロってもっと駄菓子っぽいかと思ってましたけれど、これは何でしょう、ふわふわで、上品な味わいで」
「えへへ~昔、食べたことがあるんだ~。こっちでも課金ショップで買えるようになってたの、見つけてね。3人で食べたくて、ほら、わざわざ公式サイトのお気に入りチェック、入れておいたんだよ。あ、ほらこれもこれも、ミニケーキセットなんだけど、ちょうど3個づつ入っていてね?」
3人……? 3個……? あれ、私何を言ってるんだろう。私と紗雪、2人しか……あれ……。
「あれ……?」
自慢の美貌に皺が寄っちゃう。涙が……え、え、私おかしくなっちゃった?
「さ、紗雪、私変だよ。涙が……え、やだ。わけわからない。こわ……こわい!」
なんで、体の震えが止まらなくなって、吐き気が。私おかしくなっちゃった?
「大丈夫、だいじょ~ぶですからね。ほら、ちゅっ」
紗雪が膝の上で振り向いて、ちょっと背筋を伸ばして、ほっぺにちゅって。
かわいい。体勢が不安定で、ふらふら揺れる緩めのツーサイドアップがやっぱり、愛おしいよね。
「ねえ、あのチョーカー、また置いてある……なんだか不気味だよ……呪いのアイテムなんでしょう?」
「でも、綺麗じゃないですか? ほら、あのピンクダイヤモンドとか、現実の有名な、世界最高額のオークションの宝石よりも大きいですよ?」
ジーっと見つめる私の目線の先には、はめたら絶対に痛そうな、棘が内向きにもつけられてしまっている金属製のチョーカー。確かにデザインは秀逸だし、ピンクダイヤモンドも幻想的な輝きで、まさにファンタジーな感じだけれど。
「なんか……嫌! 嫌なのぉ! ね、それより急に眠くなってきちゃった。一緒に……寝よ?」
「いいですよぉ」
「あ、あのね、私達、ふーふになる約束……してる……じゃない? さ、ささ、触りっことか……ちょっと、ちょっとだけほら」
顔が真っ赤にほてっているのを自覚してしまいます。
でも、こんなかわいい子が私と、いづれ夫婦、ふーふになるんですよ!? エンゲージメントスキルだってしっかり生えていて。運営公認夫婦! あれ、でも私の性自認が男女どっちかって難しいのよね。両性具有だし。でも、見た目は女の子、それもとびっくりの美少女だから、やっぱり女の子でいいよね。
男の子のもついてる女の子。なんかすっごく背徳的ね?
「んー、エッチすぎるのはダメですからね?」
「えー……でも、判った……イチャイチャだけで我慢する」
「はい。いい子ですね」
かなり奮発した、ここはアレイスター王国の王都にある高級ホテルのスイートルームなの。
ゲームの中でくらい、ちょっと贅沢したいじゃない? それに、サフィーロ達メイド少女人形の3人と一緒にいたいって思ったら、なおの事、広いお部屋じゃないと都合が悪かったの。
お城には戻れないしね。ところで、私どうやってあんな立派なお城を手に入れられたのだっけ……。
悠久の楽園……普通のプレイでもらえるような物じゃないわよね……?
考えていたらまた頭痛がしたから、やめやめ。
「でも、この暗いのはちょっといただけないね」
「国全土を覆っていますからね」
そうなの。せっかくの綺麗なファンタジー世界なのに、このアレイスター王国は外敵の侵入からの防衛措置って言って、黒い結界で王国全土を覆ってしまっているの。なんでも、近隣諸国が、この国の魔導資源? を狙って攻めてきているらしいの。
おかげで、いつも薄暗くて。
まあ、それはそれで、魔力街頭の灯りが町中を照らしていて、幻想的で綺麗なのだけれどね?
現実の蛍光灯とかLEDライトとかと違って、どこか温もりがある、そして色とりどりの硝子を透過する、とっても美しくて凝った照明。
クロウリード王っていう王様に代替わりして、失われていた古代魔導文明の復古活動を奨励。ご自身の若かりし王子時代の研究成果を公表したのですって。すごいよね。
研究熱心な王子様が、王様に! そして国民の暮らしを向上させる
なんでも、絶世の美貌を備えた王子様らしいから、いつか見てみたいな~……。でも、プレイヤーに会う機会はまずないかな……そういうクエストでも拾えないかしら。
優雅なバスタイムの後は、約束通り、紗雪とベッドイン!
ちょっとエッチなネグリジェで添い寝するの。
黒い姫カットの髪がさらさらと流れて、ふわふわでサラサラな、紗雪の髪と混ざり合うのがなんだかちょっとエッチで幸せ。
でも……なんでだろう……もっとすごい事を毎日のようにして。大人な関係を結んでいたような気がするの。
そんなわけないのにね……それに……。
大きいベッドに、2人だと……なんだか……寂しいよ?
――「王城の敷地内。そこまでは絞り込めた、なの。でも、それ以上はどうやっても無理……なの。特殊な結界で、探知も一切通らない、なの」
「そうですか。”不朽の束縛”の事すら、判らなくなっています。昨日も、神翼種/光、元天使モードの事も一切分からないどころか、白い羽根に触れたとたん、恐慌状態に陥ってしまいました。私の白と黒の2対の羽根には平然とされているのが不幸中の幸いですが……これすらダメだったら、私の白い方の翼は切り落とすところでした」
「それはやめて、なの。ナオ様が正気に戻った時に、余計に絶望でひどいことになりかねない、なの。紗雪様でも、無理です? なの?」
「いくらメディカルプログラムが積まれているといっても、専門ではなく。所詮はあくまで、ゲームのユーザーサポートのさらに補助程度ですからね……。リアルに連絡を取ってみましたが、その経路すら遮断されているようで……。課金ショップ関連は使えますが、情報のやり取り、厳密にはアレイスター王国外部から、内部に向けた、SEO内部/現実、どちらも完全に遮断されている状態ですね。現実への救難信号という意味では届いているはずなので。もし、デウス側の運営が問題視するなら、措置が取られるでしょう。そういう意味では仕様の内……という事になりますが……」
「紗雪様に教えてもらっても、私だと、現実? 側はやっぱりよくはわからない、なの。でも、悠久の楽園とも、通信魔導具が通じない、なの」
「とにかく、あの異空間からすでに5日間。このまま閉じこもった状態でいても、ナオさんの精神、心の回復は望めないでしょう。少し外を散歩してみます」
「デートって言えば喜んでくれる、なの」
「そう……なのですが……ルナリスちゃんがいない、それもこんな絶望的な状況で、それは……」
「荒療治しか、もうないかも、なの。紗雪様で心を埋め尽くすくらい、ヤッタレ、なの」
「さ、サイフィーロ? 可愛い姿に似合わずあなた意外と強引というか、強いですよね」
「お二人の、ひいてはお三方のため、なの。私達が使えるお三方の幸せが、何より優先、なの。そのためなら、なんだってする、なの!」
深夜に目が覚めたら、また、難しいお話をしてる。
ルナリスちゃん……って、誰だろう。なんでだろう、そのお名前を聞いたら、胸の奥がキューって、締め付けられて。頭がふらふらして、それなのに子宮の奥がきゅってなって、訳が分からないよ……怖いよ……嫌だよ……私が私じゃないみたい。
やだ、私の中に入ってこないで。
それになんだか体が敏感過ぎて、すぐ怖くなって。
寝よう、何も聞かなくていい、何も見なくていい、何も知らなくていい、何も感じなくていい。
眠りの中に沈んじゃおう。
――「デート、デート♡」
うふふ、今日は紗雪とデート!
綺麗な魔導街頭の灯りに照らされた、ファンタジーな街並みでまずはウィンドウショッピング。城壁越しに尖塔が見える王城を眺めながら高級商店街を2人で手をつないで、ふらふら。
「ねね、このミスリル銀の蝶々の髪飾り、小さな宝石がたくさんあしらわれたチェーンがぶら下がっていて、すっごくかわいい。ほら、特にこの一番大きなの、深紅の綺麗なルービーだよ。それに、左右対称で2個1組になっているから、紗雪のツーサイドアップに飾ったら、似合うよ♪」
「あ、本当ですね。色も控えめなのに、宝石がきらりと光を反射して、アクセントになる」
「よし、買っちゃお♪ GOLDはいっぱいあるからね! デート記念のプレゼントだよ」
「ありがとうございます」
ルンルン気分でお会計へ、こじゃれた宝石箱に入れてくれたのを、紗雪に、はい♡
プレゼント。
今つけてもいいのだけれど、無くしちゃうと嫌だから、ホテルに戻ってからね。
できれば、アメティスタ達に、不壊は無理でも、再生の付与をしてもらいたいな。思い出の品は、いつまでも綺麗に残しておきたいものね。システムの不調とかで、“悠久の楽園“に行く扉が開けないから、少しの間、我慢ね。
お店を出るところで、ショーケースに大切に飾られた、アクセサリーに目を惹かれて。
「あ、ねね。このイヤリング、澄んだ青色のサファイアに、ミスリル銀の部分が虹色の輝きを秘めて、全体のデザインはシックなのに、神秘的な色合いで……。似合いそ……ぅ……。」
頭が……痛い。私はこれを誰に、誰に似合うと思ったの?
銀、うっすら虹色の輝き、蒼銀の瞳
嫌だ、それ以上考えたくない!!!
「いや……いやあぁぁぁああぁ」
自分の黒い髪をつかんで、頭を押さえてうずくまってしまったの……。
嫌だ嫌だイヤダいやだ嫌ダいやいやいやいやいやいやいやい。
呼吸が止まって、口をパクパクと広げるのに、全然息ができなくて、目が回る、世界が回る。
「ナオさん!!!」
慌てた紗雪がぎゅーーーって、顔を抱きしめてくれて。
心臓の音、魔導人形なのに、紗雪にはしっかりと備わった心臓の音が、ドクン、ドクン。
ドクン、ドクン。
規則正しく、私を包み込んでくれる。
ドクン、ドクン。
だんだん落ち着いてくる。
「ごめん……ごめんね……もう、たぶん、大丈夫」
「無理はしなくていいですからね?」
「うん、大丈夫、ほんとだよ。せ、せっかくだし、これも買ってくるね」
さっきまであんなに見たくなかった、なにか、思い出しちゃダメな事を思い出しそうな、そのイヤリングを。
でも、なんだかすごく名残惜しくて、胸が苦しくて、とりあえず買う事にしたの。
私のことを心配しながらも、紗雪に贈った髪飾りと、このイヤリング。お店で一番の高級品だったらしくて、ちょっと嬉しそうな店員さんがまた、綺麗な宝石箱にしまって、渡してくれた後。
「お姉ちゃん、苦しそうにしてたけれど、大丈夫?」
深くて碧い、海色の髪を長く伸ばした、小悪魔系の美少女に声をかけられました。
現実なら地雷系ファッションというのかな?
お店の中で、ちょうど、別のコーナーのアクセサリーを選んでみたみたい。




