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真夜中の花屋 Pantalea  作者: 東雲大雅


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第1話「椿」 通った者が必ず並ぶ道

「この花には、こんなお話があるんですよ」


 椿の花が咲いた鉢植えを抱えながら、眼鏡をかけた女店主は唐突に話し始めた。




 ある地域には、「椿通り」と呼ばれる場所があるといいます。


 そこを通った者は、必ず死ぬ。


 一本道の両側に椿が咲いているだけの場所だと、そう語られていました。

 ただ、その正確な場所を知っている者はいません。


 村の奥――「椿山」と呼ばれる山のどこかに、その道はあるらしい。だから村の者は、椿山には近づきません。

 子どもたちにも、決して入るなと強く言い聞かせていました。

 

 ある夏の夜。


 少年は友人三人と連れ立って、その椿山へ入りました。


 ただの噂だろう、と誰もが思っていたのです。


 山道は不思議なほど歩きやすく、暗い森の中でも道だけがはっきりと続いていました。


 まるで、迷うことを許さないように。


 しばらく歩いた頃でした。


「あれ……花じゃない?」


 先を照らしていたライトの端に、赤いものが見えました。


 道の脇に、一輪。


 椿の花が咲いています。


 四人は顔を見合わせ、恐る恐る近づきます。間違いなく椿でした。


 誰かが笑いました。


「こんな時期に咲くんだな」


 そう言って、さらに先を照らしました。


 また少し先に、一輪。


 さらにその先にも。


 点々と、道しるべのように椿が続いています。


 気づけば、四人はその花を追うように歩いていました。


 一輪、また一輪。


 進むほどに数は増え、やがて道の両脇に、椿が並ぶようになっていきます。

 踏み外せば、すぐに花に触れてしまいそうなほどに。


「ねぇ……もう、戻らない?」


 一人が小さく言いました。


 ですが先頭の少年は振り返らず、

「ここまで来たんだぞ。もうちょっとだけ行こう」

そう言って進み続けました。


 やがて、不意に椿が途切れました。


 まるでそこから先だけ、何もなかったかのように。


 四人は足を止め、顔を見合わせます。


「……帰るか」


 誰ともなくそう言って、来た道を引き返し始めました。


「……あれ?」


 後ろを歩いていた一人が声を上げました。


「椿……なくないか?」


 ライトを振って道の端を照らします。


 さっきまであれほど咲いていたはずの椿が、どこにもありません。


 道は同じはずでした。一本道を、引き返しているだけなのに。


 誰も何も言えず、足だけが速くなります。


 そのとき、


 ――ぱた


 何かが落ちるような音がしました。


 全員が反射的に振り返ります。


 ライトの光の中に、人が立っていました。

 道の真ん中に、まっすぐに。


 ただ、その姿はどこかおかしい。


 首から上が、ありませんでした。


 代わりに、その両腕で、自分の頭を抱えていました。


 腹のあたりで、大事そうに。


 抱えられた顔は、穏やかに笑っていました。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、四人は一斉に走り出しました。無我夢中で来た道を戻ります。


 ですが、走る先の道端に、


 一人。


 また一人。


 同じように頭を抱えた人影が、増えていきました。


 道の両側に、並ぶように。


 まるで、さっきまで咲いていた椿の代わりのように。


 誰かが叫んでいました。


 誰かが泣いていました。


 けれど、走るうちに、声は一つ、また一つと減っていきました。


 やがて、足音も。


 気づいたときには、少年一人になっていました。


 止まることもできず、振り返ることもできず、ただ走り続けます。 


 ですが前にも、後ろにも、逃げ場はありませんでした。


 いつの間にか、道の両側だけではなく、

前にも、後ろにも。


 頭を抱えた人影が立っています。


 その中には、少年の友人達の顔もありました。


 どの顔も、とても穏やかな笑みを浮かべていました。


 翌日。


 椿山に続く道は、相変わらず静かなままでした。


 ただ一つだけ、変わったことがあります。


 あの道のどこかに。


 新しく、四輪の椿が増えたのだそうです。




「……趣味が悪いな」


 椿を受け取った男は、訝しげに女店主を眺める。


 夜の帰り道。たまたま普段歩かない道を通った際に、見つけた花屋。

 

 特に欲しい花なんてなかったが、ふと視界に入った椿がどうしても気になった。

 何も買わずに出ていくのも気が引けた男は、その椿を買うことにした。

 代金を払い、椿を渡される際に先程の話をされた。


 女店主は、眼鏡の位置を指で直しながら、小さく笑う。


「そうでしょうか?」


「あんな話を聞かされて、気分のいい奴なんていないだろう」


「ふふっ、それもそうですね」


 どこか他人事のような声色だった。


 男はわずかに眉をひそめる。


「ならどうして話したんだ?」


 女店主は椿に視線を落とし、少しだけ間を置いてから言った。


「——似ていると思ったので」


「……何がだ?」


「さぁ」


 女店主は顔を上げ、微笑む。


「お気になさらないでください。ただの、どこにでもある話ですので……」


 男は釈然としないながらも、店を後にした。


 夜道を少し歩き、ふと振り返る。


 先ほどまであったはずの店の光が、そこにはなかった。


「……たまたま俺が最後の客で、店じまいしただけだろう」


 男は無理に自分を納得させ、再び歩き出した。


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