いじめ事件2 ~新たな戦場~
退院してから数日後、俺は浅間怜奈として高校に通い始めた。ボロボロの制服では、流石にみっともないと思い、ややキレイめのパーカーを羽織って登校していった。
怜奈の通っている学校は男女共学らしいが、元女子校だったせいか、男子の数は極端に少ない。そういえば、転生前の俺は、高校は男子校だったな。大学も女子と関わることはほとんどなかったし、社会人に至っては、女の子と話をすることすら全くなかった。そのせいもあってか、女子ばかりの空間に戸惑いを隠せない。どのようなことを話せばよいのだろうか。そもそも女の子のおしゃべりに付き合ったことすらなかったため、全くどうすればいいのか分からないな。
いや、そんなことはどうでも良い。今は、遺書にあった怜奈の絶望と無念を晴らすためにも生き抜いてやる。その決意とともに、軽くも鈍い痛みを感じつつ、学校へ向かった。
教室に入ると、周囲の視線が突き刺さるように感じられた。皆、怜奈が飛び降り自殺を図ったことを知っているのだろう。俺は、この視線を跳ね返すように、毅然とした態度で席に着いた。
久々に学校の授業を受けた。不思議と新鮮な気持ちで臨んだためか、意外にも面白かった。特に数学の授業は、内容がスッと頭に入ってくるほどだった。前世でも、これほど数学が分かりやすいと感じたことはなかった。
そう思って授業に集中している最中、後ろの席からひそひそ話が聞こえてきた。
「こないだ買ってきたファンデ、どうだった?」
「うーん、ビミョー。カバー力はそこそこあるんだけど、時間が経つとテカってくるっていうか……。」
「えー、そうなんだ。私、あれ買おうか迷ってたのに。」
「やめといた方が良いよ。結局、私はいつものリキッドファンデに戻しちゃった。」
さらに、休憩中、こんな会話も聞こえてきた。
「韓国ファッションもまだまだ人気だよね。ミニスカートにルーズソックスとか、制服みたいで可愛い!」
「わかる! 私も、制服アレンジでそういうの取り入れてる子見ると、可愛いなって思う。でも、学校だと校則厳しいからなかなかね…。」
「ほんとそれ! もっと自由にファッション楽しめたらいいのにねー。」
……なるほど、女の子たちはコスメやファッションの話題が多いのか。前世では、どうしても漫画やゲームの話に触れることが多かったため、ファッションには全く関心がなかった。いや、考えてみれば当たり前か。女の子は可愛くありたいのだから、男性以上にコスメやファッションに気を遣う必要があるのだろうな。
昼休みになり、俺が弁当を開けたときだった。目の前に、3人の女子が立っていた。
厚化粧をして、派手な制服を着崩した、いわゆるギャルっぽい女子たちだ。
「あら、怜奈。元気になったみたいでよかったわ」
彼女たちは、不気味なほどにこやかな表情で俺を見つめていた。まるで、俺が自殺未遂をしたことを喜んでいるかのように。俺は、彼女たちの笑顔の裏に潜む冷酷さを感じ取った。この3人こそが、怜奈をいじめていた犯人たちに違いない。
彼女たちの視線は、俺の全身を舐め回すように動いていた。
「あ、そうだ。私たち、怜奈のこと心配してたのよ。」
「いや、マジで。だから、今度、みんなで遊びに行こうね。」
優しそうに話しかけてくるが、3人とも、視線は冷たい。言葉の節々からも、小馬鹿にしているような感じをしている。俺は、何も答えずに彼女たちを見据えていた。
「ねえ、何睨んでいるの?」
どうやら、3人にとっては、俺に睨まれたと感じたらしい。
「いや、別に。」
「ねえ、どうしたの?」
3人組の1人が、俺の手を掛けようとしたときだった。
「怜奈さん、先生が呼んでるよ。職員室の前で待ってるって」
そう言って、一人の女子が俺と3人組の間に割って入ってきた。その女子は、栗色のセミロングヘアーをしており、いかにも清純そうな雰囲気をしていた。彼女は、3人組から俺を引き離し、職員室の前の廊下へ連れ出した。
「大丈夫? あいつら、明らかに怜奈さんのこと狙っている。」
彼女はそうささやき、周りを気にするようにあたりを見回した。
「あの3人組、学校では色々と悪い噂があってね。怜奈さんがいじめられている話も、私、聞いたことがあるから……」
彼女は、俺の目をじっと見つめ、真剣な口調で忠告した。
「用心して。あの子たちは、怜奈さんを一人にさせないように、行動してるみたいだから」
なるほど。どうやら連中は、怜奈が一人になったタイミングで連れ出して、見えないところで痛み付けたり、私物を汚したり壊したりしていたのだな。彼女の言葉に、俺は怜奈がいじめられていたこと、そして彼女たちが今も怜奈を監視していることを再認識した。
「ありがとう。」
俺が彼女に感謝を伝えようとしたが、すぐに彼女はその場を離れていった。
新たな人生は、いじめの復讐から始まる。さて、こいつらにどう目に物見せようか。