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明けの星

 イェースズの遺言状を書きながらも、何度ミコは涙にくれたか分からない。

 金笠キムンカシ太郎、大平オピラー太郎のヌプ、ウタリもまた話を聞きつつ、イェースズ・クリーストス・八戸太郎ハチノヘタラウ天空坊の波乱の生涯を思う時、畏敬と恋慕が今さらながらに湧いてきて彼らの目を涙で潤したのである。


 この遺言状とイェースズの骨像を皇太神宮に奉納する儀が終り、そのままヌプとウタリはその足で諸国漫遊の旅に出た。その後の彼らの消息は、全く知れない。いつ、どこで死んだのかも分からない。

 ただ、金笠キムンカシ太郎天空と大平オピラー太郎天空の一文字づっとった「金平」宮が讃岐に祭られているから、四国までは行ったと思われる。


 その四国の海岸の波打ち際で夕方、彼ら二人の老人が旅の疲れを癒していた。


 その時である。西の空には太陽が沈んだばかり、赤いとばりがあった。その脇にひときわ明るく輝くいちばん星が、ヌプたちの目で確認された。

 この星が今は宵の星で、日が暮れてから最初に光りはじめる星である。だが季節によっては朝日が昇る直前まで最後まで輝いている明けの星でもある。

 そしてそれは、イェースズが「帰る」と称した所である。


 二人の老人は、磯に腰をおろして、じっと海とその星を見つめた。いつまでも、見つめ続けた。足元に打ち寄せる波の音も聞こえないくらい、黙ってその星を見つめた。どこまでもイェースズを慕い、その面影を彼らは星に見出そうとしていた。


 またもや二人の目に、涙があふれてきた。小さな点の星の光の中に、イェースズの顔を二人ともがはっきりと見た。そしてその星の中からイェースズの声が、最初はゆっくりと、そして確かに彼らの胸に響き渡った。


「見よ。私は世の終りまで、いつもあなたがたとともにいるのである」


 

 (「人間・キリスト」 おわり)

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