そして始まる決戦の日
そして翌日。
儀式が始まるのは昼からであり、支度を整えた一行は諸々の準備を終え、集まっていた。
陽が差し込む廊下にて、顔を合わせながらメルは口を開く。
「アタクシはこれから、血盟決議の儀式を警護しに行きます。敵が動くとすれば確実に儀式場でしょうから。ですが、敵が別の手段を講じる可能性もあります。ケルティオ、貴方は念のために、アタクシが敷いた結界の結び目を警護してくださいませ。これを破られれば、都市に莫大な被害が出かねません」
「わかりました」
「ラーツェル、貴方はどちらにでも飛び出せるよう、議事堂内で見張りをお願いします。襲撃を受けた場合、貴方がそれを阻止しなさい。外で騒ぎが起きた場合は貴方の判断に委ねます」
「御意」
各人の行動を改めて確認しつつ、メルは気を引き締めるように言う。
「おそらく、今日が正念場ですわ。これ以上の犠牲が無いように、気を引き締めていきましょう」
「勿論です」
「無論のこと」
「当然!この僕が居るからには安心してくださいメル教授!カーマス家の一人でもある僕ならば、どんな魔物が相手でもチョチョイのチョイだとも!」
「…なんで貴方が居るんですか」
真横からのケルトの胡乱げな眼差しも何のその、カーマスは軽やかに笑いながら前髪をバサァッとしている。なぜか紛れ込んでいるこの男、当然のような顔で話に混じっていた。
「ふっ、このカルヴァンに喧嘩を売っている無頼の魔法士を野放しにするなんて、我らが全カルヴァンの魔法士にとっても侮辱なのだよ。それに昨日の話が確かなら、そいつは大勢の人間を傷つけている。未来の魔法騎士としても、見過ごせる問題ではないのでね」
思いの外、真面目な返答にケルトは思わず目が点になる。
一方、メルはクスクスと笑っている。
「どうやら、誰かさんが努力しているのを見て、奮起したようですわね」
「………はぁ」
ケルトが魔法士としての階段を登りつつあるのを実感し、彼なりにプライドが刺激されたらしい。
カーマスはそのままビシィ!とケルトに指差し宣言する。
「そういうわけだ、ケルティオ!まことに不本意ではあるのだが、君と僕で外部の見張りを行おうじゃないか!」
「はぁ、人手は多いに越したことは無いのですが、儀式に参加されなくてよいのですか?」
「儀式と人命、どちらが優先かは言うまでもないことさ。それに僕一人の投票権だけで何かが変化するわけでもないし」
「………頭の奥までお花畑かと思いきや、意外とまともな事が言えるんですね、貴方」
「もの凄く失礼じゃないかね君ぃ!?」
「昨日までのご自身の発言を思い出してからもう一度言ってください」
相変わらず梨の礫なケルトへ、カーマスはぐぬぬと悔しがりながらも、それ以上は絡まなかった。
そんな両者に大人達は苦笑してから、メルは手を叩いて注目を戻す。
「ともあれ、何かがあれば即座に連絡ができるようにしましょう」
メルは錬金陣を広げてから、手早く精霊を複数召喚する。
緑の小さな人型は、1レベルの風の精霊だろう。
「元来、『送言の魔法』は数百メートル程度の範囲しかないのですけど、アタクシが召喚した風の精霊同士を契約で繋げておけば、好きな時に精霊同士で声を届けることが出来ます。それを利用して、精霊を経由して互いの声が聞こえるようにしておきましょう」
「さ、さすがメル教授!素晴らしいお手並みだ!!」
「本音を言えば、魔道具として作り出せればよろしかったのですけど…この子達を犠牲にする気にはなれませんからね」
声を届ける魔法道具を作る場合、複数の精霊を道具に縛り付けることになるので、メルはそんな非情なことは出来なかったのだ。精霊を知覚できる彼女にとって、過去の友人の例もあって、精霊とは良き隣人である。
そんな事を呟きながら精霊と戯れるメルを、ケルトはなんとも言えない顔で見つめている。
(…言う必要も無い、ですよね)
ケルトは彼とは違う人格なので、彼の言葉を代弁できるわけではない。言ったところで詮無いことではある。
・・・・・・・・
…各人へ指示を出し終え、メルは儀式の場である議事堂へと向かっていた。メルがそこを警護するのは、見張り以外にも理由はある。
なんとも、講師達からメルにも儀式に参加してほしい、という要望があったのだ。
一応、メルはかつて講師としてここに居たわけだが、身バレして帝都へ帰る羽目になった。しかし講師としての席を失ったわけではなく、ゲーティオと同じく名誉講師として席を置いているのである。本当は抹消するつもりだったのだが、前議長がなんとしてでも勇者の席を置いておきたかったらしく、押される形でオッケーしてしまったのが原因であった。
故に、メルもまた血盟決議の投票権を持っているのである。
「しかし、なんだか嫌な予感がしますわね…やはり投票は遠慮しましょうかしら」
「いや、それは困るな」
「あら」
唐突な声にもはや驚くこともなく振り向けば、そこには腕組みして壁により掛かる老人の姿。無駄に格好をつけている。
そんな相手に肩を竦めながら、メルは尋ねた。
「おじい様、どうなさいましたの?まだ敵影は見えておりませんけど」
「わかっているとも。なに、一つお前にやってほしいことがあってだな」
「やってほしいこと?」
カロンはニヤリと笑い、こう言った。
「メルよ、血盟決議に参加しろ」
※※※
「…嫌な空気だな」
一人、コルティスは庭園を歩いている。
血盟決議の日ということもあり、皆が皆、どこか浮足立った様子で忙しなく動いている。勇者の言う「敵」の存在、それが人々の心に引っかかり、純粋な投票儀式としてではなく、有事に備えた心構えを促しているのだ。主に講師陣の空気が研究生に広がり、こんな重苦しいものへと変えている。
どこかいつもと違う光景の中、コルティスは思案に暮れながら庭を散策していた。
「………ケルティオ、兄上」
コルティスは思う。
どうして、彼は勘当されたんだろう?と。
…昔、コルティスがまだ幼い頃、初めてケルティオと会った時を思い出す。どこか物寂しい、けれど母の手作りの小物が置かれている部屋で、彼はひっそりと過ごしていた。病弱ではなかったらしいが、世話は母のみが行い、散歩以外では外に出ることは許されず、白い相貌から病人のようにも思えた。側仕えの使用人も魔法士も居ないそれに、不思議に思いながらも話をしたのだ。
ただ、ケルティオはとても無口で、オドオドとした様子でこちらとうまく会話ができず、常に後ろの使用人を気にしていた事は、覚えている。結局、その日はろくに会話もできずに去ることとなったが、怯えているようにも見えるそれに、コルティスはどこか興味を唆られ、また会ってみたいな、と思ったのだ。
…だが、それは叶わなかった。
ある日、母が部屋から出てこなくなった。主に父が部屋へ通い、時折、悲痛な泣き声が聞こえるだけで姿を見せないそれに、コルティスは無性に不安に思った。ひと目、母に会いたいと泣いてもそれは叶わず、ただコルティスはゲーティオに世話をされながら、母が出てくるのを待った。
…そして、かなりの時間が経ってから、母は姿を見せた。しかし魔法士としての訓練を幼いながらにしていたコルティスは、ひと目で母の異常さに気づく。姿も雰囲気も以前と変わらないが、その周囲にヴァルの気配を感じなかったのだ。
そう、魔法を使えなくなっていたのだ。
どうしてそうなったのか、誰も教えてはくれなかった。ゲーティオでさえも、その話題には閉口した。
ただ、ひそひそと囁く使用人の噂話を盗み聞き、母をああしたのはケルティオだと知り、コルティスは大きなショックを受けた。口さがない使用人は、ケルティオが呪われた子供だと噂し、母を傷つけて喜んでいるのを見た、と実しやかに吹聴して回っていた。
コルティスはその時、ケルティオを恨んでしまった。憎んでしまった。
あの自信なさげな姿は仮のもので、本当はこちらを呪おうと虎視眈々と様子を見ていたのだと、決めつけてしまったのだ。
そして、長らくコルティスはケルティオに会うこともなく、彼が勘当されたと聞いたときも、ああようやく居なくなってくれたのか、と、胸を撫で下ろした。母を傷つけた兄を、彼は許せないまま大きくなっていったのだ。
…そして、今。
コルティスはケルティオと再会し、助けられ、心の底から困惑していた。
「………本当に、あの人は…母上を、傷つけたんだろうか?」
ベンチに座りながら、ひっそりと呟く。
ずっとそうだと思っていた。小さな頃の使用人達の言葉を真に受けて、それを信じ続けていたのだが…しかし、ならばどうして、魔物に襲われた自身を助けてくれたのだろうか?
コルティスの中で築き上げられていた、非道な兄という像が掻き消えてしまい、今はもう途方に暮れるしかなかったのだ。
「はぁぁ…」
ゲーティオならば知っているだろうか。しかし、ゲーティオはケルティオの事を聞くと、酷く怯えた目をするのだ。あの誰からも尊敬される聡明な兄が、どうして彼を恐れるのか、コルティスにはわからなかった。
ぼーっと考え事をし続けていると、ふと声がして振り返る。
「…ああ、見つけた」
「…君は?」
見知らぬ顔だ。
内心で首をかしげるこちらへ、やってきた彼は気安い感じで述べた。
「コルティスくん、教授が君に用があるということで、呼んでいましたよ」
「教授?それはどの教授ですか?」
「ええ、それは…」
…その人物は、静かな笑みを浮かべて、名を告げた…。
※※※
ケルトは議事堂前でラーツェルと別れ、カーマスと共に魔法陣の結び目へと向かっていた。結び目は、魔法陣の要の部分。ここに解呪の魔法を刻まれると、風船のように結界が壊れてしまうのだ。メルの結界は内部に存在する魔物などの動きも阻害できるし、常時展開することで敵の魔法陣の発動を妨げる。決して突破されてはならない代物であろう。
結び目に到着し、ケルトは周囲を一巡する。
…弱点となる位置に、メルは多くの防衛者を配備していたらしい。魔法陣発動を妨げる要点ならば、敵が殺到しうるのもここだからだ。衛兵に魔法士などが数名、常駐しているようだった。
ウロウロする衛兵だが、ケルト達のことは聞いているらしく、敬礼して迎え入れてくれた。
「見た感じでは、敵の細工した痕跡はないようですね」
「メル教授が張った結界を解くなんて、それこそ高レベルな解呪の魔法しか不可能だよ。そんな使い手が敵に居るとは思えないけどね」
カーマスの言う通り、これを壊すのは面倒だろうな、と思いつつも、ケルトは地図を取り出してメルの魔法陣を確認する。
「ここが結び目ですか。もしこれを突破しようとするならば…」
「ははは!突破なんて、魔王でなければ勇者の張った結界を壊すなんて不可能さ!」
「もしも相手が魔王レベルの敵だったらどうするんです?」
「え」
魔王レベルというのは誇張だが、知恵ある魔物と考えれば、ただ厄災を振りまくだけの魔王と比較にならない厄介さであろう。
一方、そう言われたカーマスは、冷や汗をたらりと流しながら尋ねてくる。
「え、その、冗談だよね?」
「冗談で勇者がここまで来るとお思いですか?あの方が来るに値する相手ということは、確かです」
「え…ええ…?そ、そんなの僕は聞いてないぞ!」
「そりゃあ言ったら混乱しますからね。帰りますか?」
ケルトの挑発的な問いに、カーマスはぐっと詰まってからバッサァして言う。
「な、何を言うんだね!?この僕を見くびってくれては困る!元落ちこぼれの君に遅れをとったらカーマス家の人間として日の元を歩けないじゃないか!」
(…胆力がありますね、意外と)
明らかにビビってはいるのだが、そのプライドは確かではある。虚勢を張れるだけ将来性はあるだろう。
多少は見直しつつ、ケルトは地図上のメルの魔法陣を再び読み解く。
「…メルさんの魔法の特徴だと、おそらくヴァルの流れはこう来て、こう…と、なると、ここ、この上が弱点ですね。ここから半径3メートルに解呪を打たれると、解けます」
「わ、わかるのかい?」
「仮にも師匠ですから、魔法の癖は覚えていますよ。ええ、貴方より偉大な勇者様の魔法を何度も間近で見てきたので」
「ぬ…!な、なんだか鼻につく物言いだね…」
「気のせいでしょう。ともあれ、敵が狙って不味い部分は、おそらくここ。ラーツェルさんを議事堂前に配置したのも、すぐにこちらへ向かえるように、でしょうから。ならば、ここを重点的に警戒しましょう」
「一応尋ねるけど、敵ってのはどれだけいるんだい?」
カーマスの問いに、ケルトは顎に手を当てて以前の事を思い出す。
「…以前、クレイビーと相対しましたが、あの老人は魔物を使役していました」
「ま、魔物を…そうか、昨日のアレはそのせいで…」
「しかも、人間を殺してゾンビーにし、それらを合成して強化体にしていました。実に厄介な能力です」
「きょ、強化体!?」
「さらに先日、クレイビーの仲間とも交戦しましたが、彼女も多数の魔物を生み出していました。砦を覆い尽くすレベルの魔物の大群は圧巻でしたね」
「た、大群…」
どんどんと顔が蒼白になっていくカーマスを横目に、ケルトは尋ねる。
「帰りますか?」
「……………………ば、馬鹿にしないでももももらいたいね!!そ、そんな脅しでこのカーマス家の男がににに逃げ帰るなんて無様は晒せないさっ!!!」
めちゃくちゃ足が震えているのだが、まあそこは見ないでいてあげよう。ケルトは意外と根性のあるカーマスの評価をもうちょっと上げておいた。
しばし周囲の地形を確認していると、立ち直ったカーマスが眉を顰めて尋ねてきた。
「しかし…本当に敵はここに来ると思うのかい?」
「来るでしょう。相手が魔法士に執着している限り、確実に」
眉を上げるカーマスへ、ケルトは考えを述べる。
「クレイビーは魔法に執着しているようです。魔法士として勇者に喧嘩を売っている点から見ても、それは明らかかと。ならば、魔法士としての手法で対抗してくるのも確実」
「だから、結界の結び目のここを襲ってくるって?…その、クレイビーってのがここへ来たとしたら、僕らに勝ち目ってあるのかい?」
「…あまり見込めませんが、足止めはできます。相手が動いて後に、メルさんや応援が来るまで持ちこたえるのが、我々の仕事です」
本音を言えばカロンが来てくれるのを望んでいるのだが、あの老人は時々その動きが理解できない時がある。来てくれても、修行や試練と称してあえて手を出さない事もあった。なので、過信はし過ぎないつもりではあるのだが。
「…あ、ケルティオさん!」
「…おや、貴方は」
名前を呼ばれてそちらを見れば、手を振ってやってくる黒髪の少年。サーテュの教え子であるアズキエルであった。
少年はどこか硬い表情で笑いかけてくる。
「ケルティオさん達も、ここの守りですか?」
「ええ、そう言うアズキエルさんも?」
「はい、先生から命じられて」
「…ケルティオ、この子供はなんだい?」
怪訝なカーマスへ、ケルトは不承不承、アズキエルを紹介する。
頭を下げるアズキエルへ、カーマスは首を捻っている。
「ふうん、ひょっとして内弟子かい?君みたいな小さな子どもを教授が、ねぇ」
内弟子とは、カルヴァンに正式に在学させているわけではない者でもある。各講師の私的な助手や弟子の中で、カルヴァンにふさわしくない…費用が払えなかったり、普通の人間種でなかったりする者は在学できないため、内弟子という形で存在しているのだが。エルフの特徴を持つアズキエルも、そんな弟子の一人らしい。
(内弟子…そういえば、そんなのもありましたか)
興味がなかったためか覚えていなかったケルト。まじまじとアズキエルを見ていれば、少年は天を指していう
「もうすぐ血盟決議が始まる時間です。お二人も一緒に守りましょうね」
「ああ。もちろんだとも」
「…そうですね」
もやもやしたケルトの声を最後に、一同は気を引き締め直しながら、警備を行うことにする。
・・・・・
・・・・
・・・
「…何も起こらないね」
「今のところは平和なようですが…」
数時間後。
血盟決議は順調に続いているようで、警備している魔法士も何度か交代して投票に行ったりと、特に何の動きもないままに時間だけが過ぎていく。アズキエルが緊張した面持ちで周囲を探っているが、問題もなく静かなものだ。
もともと退屈は苦手らしきカーマスは、もはやあくび混じりで警戒の欠片もない様子である。
「ふぁぁ…本当に敵は来るのかね?まったくもって音沙汰なしじゃないか」
「正確には、来る可能性が高い、ということですが。…しかし油断は禁物です。あの老人のことですから、最後の頃合いに何かしでかすでしょう」
「…思っていたんだけども、君はそのクレイビーという邪教の手先と、どういう関係なんだい?」
カーマスの退屈まぎれの問いかけに、ケルトは少しだけ動きを止めて瞬いた。
「……関係、ですか」
「聞いていれば、よく知っているようじゃないか。メル教授は、まあ勇者であらせられるから納得できるけど、どうして落第生だった君が、そんなヤツに面識があるのさ?」
「…そうですね…奴、クレイビーとは、ある依頼で敵対した人物でした」
ケルトは簡潔に、クレイビーとの出会いを話す。ダーナの祖母の事に、仲間であるハディを傷つけたことも。
「相対したのは少しでしたが、どことなくわかりやすい相手でした。裏がないと言うか、とてもシンプルな人となりですね」
「シンプル、ねぇ。邪教の手先だから単純馬鹿ってことなのかい?しかし、なんだってそんなバカバカしい宗教に嵌ってるんだか」
「そうなのですよ。普通の人間ならば、邪教の幹部になるという思想に染まることは、ありえないはずなのです。特に、虚無教などという存在は」
自殺志願者の集いとも言える虚無教だが、それを率先して行おうとしている者は少ないと、ケルトは考えている。彼らの破滅願望は、ひとえに絶望が契機でその思想に染まっているからだ。いわば、救いがあれば捨てることもできる程度の、自暴自棄。それが実態だろう。
「ですが、クレイビーやアーメリーンは、そのような絶望とは無縁にも思えました。そもそも、彼らは人間的な感情が薄いようにも見えます…」
一瞬、アーメリーンの憂い顔が浮かぶが、すぐに首を振って消し去る。
他に思い出せるのは、トゥーセルカの精神攻撃にクレイビーが苦しんでいた事か。その事実は、ケルトにとって興味深い事象でもあった。自身が喜びというプラス方面の感情を抱くことを嫌悪する、これは普通の人間にはありえない精神構造だ。
「彼らは、かなり我々とは違う存在のようです。アーメリーンが吸血鬼という異形であった点から見て、クレイビーも普通の人間ではないのは確実でしょう。そして、彼女が言っていた、「我々はそういう風に出来ている」という言葉…彼らは、何者かの手によって作り出された存在であるという仮説が出来ます。それこそが、現在ゲンニ大陸を騒がせている元凶と見ていいでしょうね」
「…なんだか、異形を作り出すなんて魔王みたいな存在だな」
「ある意味でその通りでしょう。魔物を作り出し、人を模倣した「何か」を従え、こうして血と厄災をばら撒く…まさに魔王です」
そんな魔王と等しい存在に、メルは気付いているのだろう。同じく、カロンもまた。
「そして、彼らの目的は…魔王と同じく、世界を破滅させることでしょう。今回の事件は、それらにも関わっていると思います。彼らの行動は読めませんが、その結果が終末なのは、間違いがないかと」
「…なんだか、ゾッとしない話だね」
「まったくです。…この騒動がどう関係するのかは、人の身ではわからないことだらけでしょう。ですが、それを見ている存在も居る…その導きどおりに進むだけですよ」
脳裏でニヤリ笑いの老爺を思い浮かべる。ともあれ、信用如何は置いておいても、神の言葉に従うのが最良なのだろう。
…そんな風に、ため息まじりで肩を竦めた時、
ふと、空が陰った。
雲かと思って見上げたケルトは、思わず目を丸くして口を開いた。
…天には、空を覆うほどの巨大な魔物が、王者の如く悠々と飛んでいたのである。




