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眠り姫

前の話より時間が空いてしまったので、軽くあらすじを。

異世界転生からの、金ない家ない友人ないからの、恩人フレアと出会うからの、誘拐されるからの、救出されるからの、働きたいからの、働くだけど不穏な空気がしないようなするような。

以上。

 コン、コンと部屋をノックする音が聞こえる。

私は手に持っていた本を素早く隠してから応答した。


 「誰? 大事な用事じゃないなら後にしてほしいの」


 「私ですよお嬢様、エイファです」


 エイファは私の住んでる屋敷のメイド長ね。

相変わらずここ一番ってタイミングで邪魔するプロね、いまからおいしい所に物語が進むっていうのに……思わず不貞腐れてしまう。


 「それで、なんの用なの? 今集中してるところなんだから後にして」


 「そんな言葉遣いでは、ご当主様が悲しみますよ」


 「うっさい、早く要件を言って」


 「はぁ…わかりました、お嬢様のお部屋を掃除するのでしばらくお部屋から退出することをお願いしたいのです」

残酷なメイド長の言葉で思考の機能が完全停止しそうになる。


 「へ、部屋の掃除!? え、いまから? 冗談よね???」


 「冗談ではありません、お嬢様が魔導学院を休学してから部屋の掃除をさせてくれませんでしたよね? それを聞いたご当主様がそろそろ無理やりでもいいから掃除しろと、一月ほど前におっしゃられたんです」


 …………そう言えばいつか聞いたわね、掃除するって。

あはは、完全に忘れてた、どうしたものかしら。


 私が休学せざるを得ない事件があったあの件で、部屋が見られちゃ恥ずかしくて爆発するようなものがいくつもあるこの状況、どうやって乗り切るか。

 私が必死に思考の機能を復活させて乗り切ろうとしたけど、とどめの一撃が刺さる。


 「ご当主様のお考えで清掃要員として、あたらしく冒険者の方も短期で雇っていますのでお部屋の大掃除をしますよ。ちなみに「嫌がっても強行してかまわない」とのことですので諦めてくださいね」


無慈悲な!

なんて無慈悲な!!!

こんな残酷な世界大っ嫌いよ!!!!!

思わず声に出しそうになるけど、ここは我慢。


 知らない人に自分の部屋を見られるのは本当に恥ずかしいのに、強行って…お父様はバカなのかしら? もうこれから一生トアお父様って呼ぼうかしら…………本気で泣きそうな様子が脳裏にちらついたのでさすがにやめておくけど。


 「そうなの…わかったわ、潔く諦めるわ、でも、それでも一つだけ、いや、そうね、二つだけお願いがあるの」


 「どのようなお願いでしょうか?」


 「準備するからしばらくの間待っててほしいの、う~ん大体30分ぐらいね、それとできれば新しく雇った人は部屋に入れないで、その、男性に部屋を見られるのは恥ずかしいから」


 「それなら問題ありません、冒険者の方はメイドとして雇われた女の子ですし、お嬢様よりもおそらく年下ですよ。それはもう可愛らしくて健気な子で、それでいて掃除を一生懸命にやっているような子ですからお嬢様もお気に召すのではないでしょうか?」


めっちゃ褒めるのね。

例の冒険者の少女が少し気になるけど、それよりも…………


 「私より年下な女の子で冒険者って正気なの? 危険が危ないし絶対に止めなきゃダメでしょ! ゴブリンに捕まったら最悪じゃないの!!!」


 「お嬢様落ち着いてください、言葉が色々とおかしくなっていますよ」


 「そんなことはどうだっていいわ、あなたが止めないなら私が直接会って止めてやるんだから!」


 「はぁ、お嬢様、その体質でお会いになろうというのですか?」

……

………そうね、少しだけ冷静になろう


 体質、そうこれが私の全てを狂わせた忌々しいもの。

体質というのは少し違うのかな、正しく言うなら呪いってとこかしらね。


 2~3か月ぐらい前に貴族の付き合いってやつで王都に向かうことがあったんだけど、その途中で襲撃に会ったのよね。

襲撃って言っても相手はたった一人の女性。

ただ相手が高位の魔族、それもサキュバスだから男性の護衛で固めていたのが運の尽きであっさり全員骨抜きにされてしまい、残る非戦闘要員のメイド達ではどうにもならず、唯一戦闘のできる私が前に出たけどこれも瞬殺、話にすらならなかったわ。

でも相手は積み荷を狙ったり人さらいをするわけでもなく、少しだけ考えたあと何かを閃いた表情で私を見たの。

それが2回目の運の尽き。

魔術を学んでいる私でもまったくわからない長い詠唱をして私に向けた魔法、それが私を狂わせた呪い。

その効果は至って単純なもの、性欲が強くなるだけって

いうね。

いかにもサキュバスが使いそうな呪い、そしてこれ以上ない程の忌々しい呪いなの。

どうしてあいつがそんな魔法を私に使ったのかはわからないけど、いつか絶対に報復してやると心に決めている。


 魔術を受けてから異性と出来るだけ関わらないようにして平和に学院生活送ってたけど友人の、もちろん同姓の子に魔術の教科書を忘れたから借りたけど、その時当然手渡しされるわけで距離が近くなるのは必然だったの。

貸してくるときに友達が「おっちょこちょいなんだから」って微笑んでくれたの、たったそれだけで理性が吹っ飛んで襲い掛かろうとしちゃったわけ、偶然居合わせた先生がいなければ一線を踏み越えちゃってたと思うから、本当に感謝してる。

…襲い掛かった時点で手遅れ感は否めないけどね。

友達には事情を話したら「いいよ、私は気にしないから」って言ってくれたけど、これが私が休学した理由。

襲い掛かってしまったことよりも、許してくれた友人に対して安堵と同時にまた発情して襲い掛かろうとしてしまったのが一番の理由ね。

学院生活なんてこれでは無理に決まってるから、仕方なく休学しているわけ。


 そんな体質だと色々と不便なんだけど、しばらく屋敷に引きこもって自分なりに調べて、この体質の対処法も見つけたから少しだけ話すぐらいなら今はもう問題ないはず、だけどやっぱり不安なのでメイド長に一緒に来てもらおうかしら。


 





 メイド長にここで待っててと言われて結構時間が経ったけど…………どうかしたんだろうか?

どうしようもないのでもう少しだけ待つことに。

………………やることもなく待つだけって結構しんどいな。

………………………………zzz



 つん、つんとほっぺをつつかれるような感覚がする。

掃除して疲れちゃったから動きたくないのになぁ~。

初依頼でかなり緊張してしまい、幼さ残るこの体が悲鳴を上げていたのだろうか、体に力が全く入らないや。

邪魔する()()から力のこもっていない手で必死に抵抗する。

つん、つんとつつかれることはなくなったけど、今度は頭を撫でられるような感覚がした、心地いいのでこれならぐっすり眠れそうだ。



 ん~~~、あれ? 寝ちゃってたのか俺は。

……

…………ってやば!!!

仕事中に待っててと言われたのに何吞気に寝てたんだ。

慌てて窓を見るが昼食の後だったはずが、すっかり夕暮れになってしまっている。

最悪だな、もう。

ぐったりと机に突っ伏して完全にノックアウト状態になる。


 「眠り姫さんがようやく起きましたわ」

仕事で聞きなれたメイド長とは違う寝起きの頭に透き通るような可愛らしい声が聞こえた。

っていうか今、眠り姫って言ってたよな…………寝てた=俺なわけで。

少しずつ突っ伏してた顔を上げると、そこには少しだけ服が乱れた女の子が幸せそうに笑っていた。





 <クリューが起きる前に戻る>


 冒険者の少女と会う前に事前準備を行うため一旦自室で大切なことを行う。

この厄介な性質を抑えるために屋敷に引きこもって私が考えたとっておきをね、それはムラムラする前に全部出し切っちゃえばいい作戦!!!

虚しい、虚しいわ。

長い時間かけて考えて、その結果がこれなんだもの。

恥ずかしくて治療士にも頼れないとなると、自分で解決するにはこれぐらいしか方法は思いつかなかったわ。

これが魔導学院で成績上位者だった者のなれの果てよ。

 とりあえずメイド長が部屋の外で待っているので手早く終わらせよう、それ用の本は沢山あるから事欠かないわ。

ちなみに男が出る本はお父様の許可が下りなかったので一つもないわ。

当然といえば当然ね。

女の子同士のものでもかなり実用性はあったので、短時間で準備はできるから問題ないけどね。


 準備を終えて、いざ出陣!

でも気を抜いたらいけないわ、なにせエイファのお墨付きの女の子だからね、彼女の話をするエイファが完全に孫の話で盛り上がるおばあちゃんの様子に似ていたからね、警戒は必要だろう。


 彼女の待つ休憩室についたけど、物音ひとつ聞こえない。

本当にここにいるのかしら…………ってあら。


 「zzz」


 寝ちゃっているわね、ここからでは顔はよく見えないけど寝息がすぅ、すぅ、と小さく聞こえるので間違いないわ。


 ぐるりと回り込み寝顔を確認する。

疲れ切った表情でぐったりしている天使がそこにはいたわ。

例の体質でグッとくるものがあったけど、あらかじめ予想していたのでダメージは少なくてすんだわ。

………寝顔をじっくり眺めていたら、メイド長に小声で起こさなくていいのか? と聞かれたけど、起こせるわけがない、なんなら私のベットで寝かせてあげたいぐらいよ。

 でも私がここに来たのは彼女に冒険者をやめてもらうため、心を鬼して彼女を起こそうと思う…でも揺って起こすのもかわいそうなので、軽~くほっぺをつんつんしてみることに。

つん、つん、つん、つん。

しばらくすると意識が戻ったのか、苦しそうな表情でぐったりした手で必死に抵抗してきたので慌てて手を引っ込める。

すこしだけ手が触れてしまい、これにより不意打ちした私が彼女の不意打ちでかなりダメージを負うけど耐えた、なんとか耐えたわ。

 寝顔が苦しそうになったことによる条件反射か、エイファが彼女の頭を当たり前のように撫でた、あまりの自然な動作に違和感すらなかったわ。

ここが休憩室で仕事が残っているのに眠っちゃった悪い子がいるのに、当たり前のように寝かしつけていることに。

彼女はエイファの優しいなでなでをお気に召したのか、苦悶の表情から一転して心地よさそうにぐっすり眠ってしまった。

そのとろとろの顔が本日2度目のとどめの一撃だった。


 「これは起きそうにないですね」

依然として撫でるのをやめないエイファが悪びれずに言ったけど、眠らせたのはアンタでしょといいたくなる。

でも言わなかった、ていうかそんな余裕ない、襲いそう、めちゃくちゃ襲いたい、あ~無理だ、もう無理。


 「ごめんエイファ、あと頼んだ、私は急用思い出したから部屋に逃げr、コホン戻るわ、部屋の掃除は明日でお願いね」


 「わかりました~」

答える際もずっと撫でながらなのが、無性にむしゃくしゃした。


 部屋に戻って色んな本を読んでもムラムラが抑まらないのでずっと部屋で悶々とする羽目になり、結局夕方になるまでそれは続いたわ。

私が彼女に再び会いに休憩室に戻ったタイミングで彼女が急に起きて、窓見てぶっ倒れたので、3時間ぐらい時間をかけて抑えたムラムラはたった10秒で蘇ってしまった。でも耐えた、なんとか耐えたわ。

 人は進化するって偉そうな学院の先生が言ってたけど、どうやら真実みたいね。


 ともかく眠り姫が起きたのでようやく話ができそうね。





作中にでましたとどめの一撃、これが投稿遅れた理由でもあります

COD MWっていうGAMEにはまっちゃってね、ええ、ドはまりですよ、ええ。

そのゲームの技が例のとどめの一撃なんでさぁ。 完全に引っ張られちゃいましたね。

これからは再び投稿していきますので、一週間に一度は守れるぐらいにはがんばりまっせ。


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