初クエスト
結局あきらめて例の可愛らしい柄のネグリジェを着ることになったけど…………何か大切なものを失った気がする。
「明日、割のいいクエストが出てたら嬉しいんだけど」
金を稼がないとこれから先が不安でしょうがないからなぁ。
現代人特有の症状だよな、安定した収入がないとどうも落ち着いて眠れやしないっていうね。
「クエストボードを見てみないとなんとも言えないけど、とにかく最初は稼ぎよりも安全を優先した方がいいわ、外へいくならそれなりの危険はどうしたって避けられないからね」
「危険ねぇ、装備も無しでいきなり外のクエストを受ける気はないから大丈夫だけど、装備にどれだけ金がかかるかってのもまたわからないからな、やらなきゃいけない事が多いな」
「少しずつやっていけばいいじゃない、別に急いでることもないでしょう?」
おそらく深い意味はないであろう彼女の一言。
急いでることはないでしょう、か…………焦ったところで元の体の持ち主は見つからないだろうし、確実にやれることをやるしかないよな。
これで悠長なことして俺の体が大変な目にあってたりしてたら…………っていかんいかん、こういうことを考えると焦りが出るんだから、考えるだけ無駄だってば。
「なんか深刻な表情してたけど大丈夫? もしかして生理?」
「…………一緒に風呂入っている時点でそれは違うってわかるだろ」
「からかいたかっただけよ♪」
…………家出しようかな?
行く当てないけど。
不貞腐れたままだけど、眠いから色々諦めて一緒のベットで寝ることにした。
「ん~~~やっぱり昨日と同じようなクエストばかりね」
翌日に朝一でギルドまで来たけど、結局依頼にいいものはなかったみたいだ。
朝一で来たのには理由があって、クエストは基本このタイミングで新しいのが張られるため、割のいいクエストを見つけやすいからだ…………悲しいことに今回は意味なかったけど。
「しょうがないから、雑用系でコツコツと稼ぎますか……………………フレアさんやそのクエストは例の…」
最高の笑顔でクエストの紙をこちらに向ける。
<メイド募集、屋敷の清掃をお願いします、報酬は銀貨5枚です>
…………あれ? よく見ると報酬額が上がっているな、前は確か…銀貨3枚じゃなかったっけ?
詳しく覚えてないからわからないけど。
「嫌そうな顔をしているけど、このクエスト前よりも報酬が良くなっているからいいと思うのだけど?」
やっぱり高くなっていたのか、ハッキリと報酬額を記憶しているあたりはさすが冒険者の先輩ってところだな、見習わないと。
少しだけ真剣に考えるか。
正直に言うとメイド服は着たくないってことはない。
もっと可愛いネグリジェを体験した後だしもう失うものもないだろう。
メイド服に関しては別に構わないんだけど、最初見た時でも報酬は良かったはずなんだよ、それでもまだこのクエストが張られているってことはそれだけの理由があるってことだよな…………そこが少しだけ不安だ。
「なぁ、フレアこのクエストって何か訳ありってことはないか? 例えば依頼主が危険人物とかさ」
「特に危険な人ってわけでもないわね、依頼主のトヴァ侯爵には悪い噂なんて聞かないけど…………あ、でも侯爵の娘が結構な問題児って言うのは聞いたわね」
…やっぱり訳ありか、そう簡単にはおいしいものにはありつけないよな。
「それで、問題児ってことはどんな人だ?」
「ん~、そうね、前に学院で何かをやらかして、現在は屋敷で引きこもっているって話を聞いたの」
「何をやらかしたってのはわからないのか?」
「学院が隠しちゃってるからね、部外者である私ではわからないのよ」
「…………そうか、でも自宅謹慎ではないんだろう? 自主的に屋敷にいるってことならそこまでのことはしていないと思うんだよな」
謹慎処分は学生ならかなり重い処分だと思うから、そうではないならそこまでのことではないと思うんだよ。
でも、学院にいけない理由があるってのが不安だけど、今回の依頼は屋敷の清掃だし、もしかしたら関わることもないかもしれないからね、あまり深く考えても意味ないのかも。
「何か勘違いしてそうだけど、クリューちゃん? このクエストが放置されていることが気になっているのなら、依頼主がどうとかじゃなくて、単純に礼儀作法が冒険者はみんな終わっちゃっているからだと思うのだけど…………」
あ、そうゆうことか~、深く考える意味なかったやん。
それを最初に言ってよ~~、な~んか空回りした感じが虚しいな。
「礼儀作法は必要最低限なら大丈夫だし、この依頼に決めるよ、フレアの忠告どうり最初は街でコツコツ稼いで、準備を進めてから外の採取依頼を受けることにするよ」
「そう、安心したわ。でももし外に行くことになったら私に必ず言いなさいね、一人で外は絶対に行っちゃだめだからね」
「わかってるって、そいじゃ依頼の申請してくるから、サポート色々とありがとね、これから先は一人で行くから」
「な~んか不安なのよね、本当に一人で行くの? 私もついていってもいいのよ?」
「必要ないから、大丈夫だから。それじゃ、終わったら家に帰るから」
「……………………早めに帰ってきてね」
寂しそうな顔を隠しもしないでそんなこと言われると、行きづらいな、でもあまりフレアに頼りすぎてもいけないからな、サクッと終わらせて戻ろう。
依頼の紙に書いてある道を進むと、大きな屋敷が見えてきた。
「そう言えば、あいつが言ってたなトヴァ侯爵だって、侯爵ってどのぐらい偉い人なのか全くわからないけど、多分すごい人なんだろうな」
屋敷を見て圧倒されるけど、気を引き締めて行こう。
「すいません、清掃の依頼で来ました冒険者なんですけど」
屋敷の門を守るように立っている男性の警備員らしき人に声をかける。
「依頼ですか…………少しだけお待ちください、ご当主様に確認しますので」
少しだけ待たされたあとに、男性が戻ってきて屋敷の中へと案内される。
フィニアの屋敷とは大きく違い、来た人を驚かすような装飾があたりに用意されているあたり、かなりの金持ちなんだと推察できる。
広い部屋に案内されると少し小柄な男性とメイド服を着た妙齢な女性が待っていた。
「初めまして、私がこの屋敷の主であるトヴァ侯爵だ、基本的な仕事についてはメイド長に一任しているため、彼女の指示に従ってもらう、あと大事なことだから先に言っておく、私はトヴァ侯爵だ、トア侯爵ではないからな、トヴァだからな、間違えるなよ」
すっごい微妙な違いだな。
こんだけ念を押すってことは散々名前を間違えられたんだろうな、ぶっちゃけ似てるしどっちでもいいと思うんだけど。
「ご当主様の紹介がありましたメイド長が私です、これからよろしくお願いしますね」
そう微笑んでくれたのが、侯爵の隣にいた妙齢の女性だ。
「こちらこそお願いします、あまり礼儀作法には自身がありませんので間違っていましたらご指導のほうお願いします」
「まだお若いのにそんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ」
メイド長は緊張で固くなった俺の挨拶に笑顔で答えてくれた。
コホン、ここでは私、でいかないとな、ここで「俺」なんていったらマズイからな。
「それでは仕事に移ってもらいますので…………まずは着替えましょうか」
さっそく着替えて、すぐに清掃の仕事をやるみたいだな。
「…………こんな感じで大丈夫ですか?」
メイド服に着替えたけど、正直自信がない、当然初めて着たからね。
「問題ありませんよ、それでは指示したところの掃除をお願いしますね」
そういうと、掃除の道具を渡してくれた。
それじゃ掃除を始めますか、初依頼無事に成功させてやる。
「ふぅ、さすがに疲れたな」
屋敷はとても広いから、掃除してもキリがない。
さらに元の部屋が綺麗だから、俺が掃除しても本当に綺麗になっているのか実感が湧かないしでかなりキツイ…………この体の体力が少ないのも大変なんだよ。
少しぐらい運動しとけ、って悪態ついてもこの体力の少なさはどうにもならないけどさ。
「想像してたよりも手際が良くて驚きました、冒険者の方からお呼びしたので少しぐらい悪くても気にしないように思っていたけど、この出来でしたら安心してお仕事をお任せできますね」
おお、思ったよりも高評価で助かった。
一人暮らしだと自分で掃除をしなきゃいけなかったからな、こんなところで役に立つなんて考えてもいなかったな。
「もうお昼ですし、ご飯にしてからまた清掃をお願いしますね」
「わかりました」
飯の時間みたいだから、さっそく食堂に案内してもらうことに。
「これからは掃除をやり終えましたら、ここに自分で来てもらうことになりますのでお願いしますね」
わかりましたと返事をしながら、部屋を見る、ここはおそらく従者の方の休憩スペース兼食堂みたいだね、さすがにご当主の方達と一緒に食べることはないよな、礼儀作法が心配だったのでこれはありがたい。
用意された昼食は従者のご飯とは思えないぐらい豪華な料理で少し驚く、肉とかガッツリ出てきて若干怯むけど、おいしく頂くことに、まだまだ午後の仕事もあるから腹いっぱい食べないと体力が絶対に持たないからね。
「…………本当にあなたは冒険者の方なんですか? 食事も出来るだけ音を立てないように食べていますし、こぼしたりもしませんし、口いっぱいにほおばるようなこともしませんし…疑いたくなりますね」
苦笑交じりにつぶやくメイド長。
いや、でもそれって、日本だと常識だったからな、そこを褒められるとちょっと複雑な気分だな。
「あはは、せっかくの仕事を失いたくないので、食事も気を遣っているだけです、普段はもっと適当なんですよ」
「そうでしたか、言葉遣いも年齢不相応なほどに落ち着いていますし少し怪しいですね」
おそらくメイド長は本気で言ってはいないのだと思う、おどけた様子なので間違いないな。
「言葉遣いも普段はもっと荒いですよ、こんなんでも私は一応冒険者ですから」
「でしたら休憩の時ぐらいは言葉遣いを崩して大丈夫ですよ」
「そうゆうことなら遠慮なく…………午後も同じような掃除の仕事をすれば大丈夫なんですよね?」
「ええ、ただ一つだけ注意点があるのでそこだけ気をつけてくださいね」
「ん? 何かあるんですか?」
「お嬢様のお部屋を掃除してもらいたいのですけど………………………………その、お嬢様はとても気難しい方ですのでなにか問題が起きましたらすぐに私を呼んでくださいね」
「わかりました、気を付けます」
そう言えばフレアが言ってたっけ、なんかやらかして引きこもったお嬢さんがいるって、まぁ掃除するだけだし大したことも起きないだろう。
…案の定問題は起きるんだけどね




