帰宅後の風呂はやっぱり最高
ご飯を満腹になるまで食べたからか、重たい足取りで今は家に帰る最中だったけど、ここで俺の第六感が反応した。
「なぁ、フレアあっち側って何があるんだ?」
そう言って俺は今歩いている街の大通りではなく横道を指す。
「…………あっちはダメよ」
答えるのに少しだけ妙な間があったな。
「どうしてだ?」
「あっちは、その、あまり私たちには縁のない場所だからよ」
すっごく遠回しに答えているが、俺にはもう予想がついている。
妖しい雰囲気を隠そうともしない例の横道には、先ほどから男性しか通っていないからな。
夜の街、妖しい雰囲気、男が集まる。これだけのヒントで気づかない男なんていないだろう。
ってなわけで、さっそく横道の方に向かうけど…………
「…………ダメって言ったでしょう、あっちは私たち女性には関係のない場所なんだから」
どうしても俺は見てみたいんだ、そう目で訴えるけど………
「クリューちゃん、あなたもしかして前に言っていた体で稼ぐって本気だったの? もしそうなら私は全力で止めるわ、体を大切にしないのは絶対にダメよ」
絶対に止めてやる。と、彼女からやんごとなきオーラが溢れ出る。
男に抱かれるとかそんなの嫌に決まってるだろ。
大金が手に入るとしても、それだけは絶対に無理だ。
考えただけでも背筋がゾワッっとした。
変に誤解をしている彼女を急いで止める。
「無理無理、ありえないから、絶対にあそこで働いたりしないよ」
「そう……よかったわ」
俺の答えに安心したのか、フレアがまとっていてたやんごとオーラが消える。
「それでどうしてあっちに行こうとしたの?」
ほっとしたのも束の間、フレアは訝し気な様子でそう聞いてくる。
「それは、その、どんな感じの場所なのかなって思ってさ」
あわよくばお客として楽しみたいなって…ダメだわ金ないんだった。
「どんな場所って…………なんとなくでわかるでしょう、あそこは男が女を買う場所よ」
そんな場所には行かせないと言わんばかりに手を引かれて家へと帰ることになった。
家へと戻った俺たちはちょっと揉めている。
なんでかっていうと、ここしばらく忙しくて風呂に入る時間なんてなかったので、色々と汚れているとのことでお風呂の付いている家なのだから入ろうよってことになったんだけど…………まぁ、予想道理ではあるんだけど、どうして一緒に入らないの?って問い詰められているわけでして。
「だから、何度も言っているだろ、無理なものは無理」
「フィニアになんか言われたんでしょうけど、あんな奴のいうことなんて無視していいわよ、ただ長生きしているだけのポンコツなんだから」
「いや、それもあるけど…………とにかくダメなんだって、あとポンコツ扱いはさすがに怒られると思うよ」
フィニアに止められたからってのもあるけど、単純に彼女の裸を見たら何かが止められそうにないからそうなる前に全力で止める。
…その大切な何かがこの体にはついてないから大事にはならないんだけどさ。
「ええい、さっきから嫌がってばかりね、こうなったら仕方ないわ、強引に行くからね!」
そう言うと、素早い動きで接近して、あっという間に裸にされる。
さすがは冒険者と言いたくなるような力と早さで、抵抗虚しくあられもない姿にされる。
ん???…………どうしたんだろうか、俺が着ていた服を脱がしたフレアは、何かの違和感を感じたのか「う~ん」と唸っている。
「ねぇクリューちゃん、あなたどうしてブラをつけていないの?」
………………………………この質問の正しい解答を俺が知りたいよ。
「それはもちろん、ブラをつけたくないからさ♪」なんて言ったら、多分引かれるよな。…………うん、ドン引きされることが予想される。
こんな質問されるなんて考えてもいなかったから困ってしまうな。
「もしかして、クリューちゃんはいつもブラを着けていないの?」
…………その通りなんだよな。
俺の表情で察したのかフレアは無慈悲なことを言ってくる。
「ダメよ、ブラはちゃんとつけないと。小さい胸だからってつけないで過ごすと服にこすれちゃって大変な思いをすることになるんだからね、明日は下着を買いに行かなきゃ♪」
ああ、無理なのはわかっているけど、買うのは男物の下着だと願います。
「ふ~~~~、生き返るわね~~~~、やっぱり、お風呂がついてる家にして正解だったわね~~~~」
「んだな~~~~。ふぃ~~~~~、気持ちいい~~~~~」
2人そろって情けない声を出しながらお風呂でまったりしている。
入浴前にひと悶着あったけど、久しぶりのお風呂についついだらけてしまう。
精神的にも肉体的にもここ数日はドタバタしてたからね、久しぶりのお風呂はボロボロの体にしみわたるな~~~。
「…さっきから目を開けていないけど、それで本当にリラックスできているの~~~?」
…………目を開けてしまったらリラックスなんてできないんだよ、興奮して大変なことになるわ。
「だいじょうぶやで~~~、お風呂に視覚なんて必要ないって、偉い人にはわからないだろうけどさ~~~」
「私は偉い人じゃないわよ~~~」
久しぶりのお風呂を2人でまったりと楽しんだ。
と、これで終わればいいんだけど、しばらく風呂に入っていなかったから体の汚れは当然ひどい有様なので…………
「なにを恥ずかしがっているのよ~♪ その長~い髪を一人で洗うのは大変でしょう、手伝ってあげるからこっちにおいで~♪」
ニヤニヤしながら、膝をポンポンと叩いて俺を呼んでくる。
もちろん彼女は裸だから、至近距離でのやり取りは大変よろしくない。
なので当然拒否するんだけど、ふと自分の髪を見る。
体を奪われた当初はもっと綺麗だった髪は残念なことに薄汚れてぱっさぱさになってしまっている。
前の状態に戻す、までとは言わないがさすがにぱっさぱさはダメだよな、一応他人の体なわけだし。
返すことができるかはわからないけどあまり不用意に汚すのもよくないからある程度は綺麗にしておきたいんだよな。
…………いやいや、仕方ないよな、理由があるからな! 綺麗にしないと怒られるかもって、だから合法だよな、ここでフレアの膝にINしても合法だよな!!!…………ダメだな、フィニアにゴミを見るような顔される未来が見える。
仕方ないけど、ここは回避一択だな。
「手伝ってくれるのはありがたいけど、自分の髪ぐらい自分でどうにかするって、ちょ、抱きかかえないで、色々とぶつかっちゃってるから、や、やめてって」
「なんとな~く拒否してきそうな予感がしたから、無理やり捕まえちゃった♪」
「捕まえちゃった♪じゃないでしょ、フィニアに言われているだろ、あんまし俺を近づけちゃダメだって、それなのにこの距離は…どう見てもアウトでしょ」
一応捕まえられたので抵抗してジタバタしたけど、フレアはびくともしないので早々に抵抗するのを諦めた。
「そういうことは力尽くでわたしをどうにか出来るようになってから言いなさい♪ そんなおててじゃ手負いのゴブリンも倒せないでしょう?」
おててって、これは完全に馬鹿にされてるな、ちくしょう。
何か反論出来たらいいけど、無理。
こういう時に反抗してもどうせ勝てないのはわかってるから、ここはジッと我慢する。
「むぅ~、反応してくれないと寂しい~、でもジッとしてくれると洗いやすいからそのままでお願いね♪」
我慢しても彼女の思いどうりになるのは納得がいかないけど、もういいや、風呂で疲れちゃったら元も子もないからね、せめてもの悪あがきで彼女をこき使って髪をめっちゃ綺麗にしてやる。
「さすがにここ数日の汚れはなかなか落ちないわね~、ま、じっくり綺麗にしていけばいいわよね~」
「うむ、髪は懇切丁寧にきれいにするのぞよ」
「急に偉そうになったわね」
「うむ、くるしゅうないぞよ」
「……………………前より言葉遣いがひどい……クリューちゃんあなたはいったい何処に向かっているの?」
「王」
「…もうのぼせちゃったのかしら? 出来るだけ早く洗うからもう少しだけ待っててね」
…………解せぬぞよ
「ふ~さっぱりしたわね」
そんなことを言いながらフレアは風呂上がりの火照った俺の体を風の魔法で冷やしてくれている。
…………こういう優しい所があるから茶化されても怒りにくいんだよなぁ。
「ん~、冷やしてくれてありがとね、そんでこの目の前にあるうっすい服は何ですか?まさかこれを着ろ、なんて言わないよな?」
ジト目で訴えかける
目の前に用意されている薄くてピンクな服、これは確かネグリジェってやつだろ女性が寝るときに着る薄い服…………これを着るのはさすがに嫌だな、俺の残った男の精神が消滅してしまう。
「嫌って言っても、それじゃ下着で寝るの?風邪ひくわよ」
「いやさすがに下着で寝たりはしないけどさ、前回買った服があるだろ、あれで寝るから出してくれよ」
正直に言うなら、あの服は寝るのに向いていないから軽い感じの服で寝たいんだけど…………背に腹は代えられないってやつだな。
「あれで寝たらぐっすりとは眠れないなでしょう…そんなこと言わなくてもわかってるでしょ…下着といい、ネグリジェといい、どうしてそんなに服でワガママを言うの?」
「………………………………恥ずかしいから」
「…そう、わかったわ。次はできる限り地味なネグリジェを用意しておくから、今日はそれで我慢して頂戴。………………あと、その表情は余所では絶対にしちゃダメだからね」
本音で答えたらなぜかストップをかけられた……悲しいなぁ。




