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どこかの街 屋敷内 2:赤い王子様と黒い王子様

遅くなりました。今回は長いです。

リージュが目を覚ますと朝日が窓からさんさんと照りつけていた。リージュは朝が嫌いだ。日光よりも月光の方が好きで、世話役が寝かしつけたと思って出て行った後、こっそり窓の前で月光浴をするのが密かな楽しみだった。昨日も月光浴をしようと寝たふりをして月光が差し込むのを待っていると彼らは現れた。丁度月光が窓から差し込み部屋を明るく照らす中窓を開けて入って来た2人の王子様。リージュには夢かどうか分からなかった。ただ気を失う寸前、黒い王子様が抱きとめてくれたのを覚えている。


コンコン


ノックの音でもそもそと起き上がり扉に目を向けると父が心配そうな表情で部屋に入って来た。


「リージュ、具合はどうだ?昨日は夜に熱が上がったそうじゃないか」


「大丈夫」


「そうか、なら良いのだが。この頃夜遅くに何かしていないかい?」


リージュはギクッと肩を跳ね上がらせる。リージュの父は苦笑いを浮かべてリージュの頭を撫でる。


「リージュ、寝てばかりで部屋からも出られないのが退屈なのはよく分かる。だけどねリージュは病気なんだ。だからちゃんと治してからじゃないとお外に行っても倒れてしまうよ」


「うん」


リージュはコクリと頷く。リージュの父はホッとしたように笑うと「ああ、そういえば」と言い扉に向かって「入って来なさい」と言った。すると扉を開けて入って来たのは昨日夢だと思った2人の王子様だった。


「あっ」


「今日からリージュの護衛をすることになったドロ君とウツワ君だ」


「ドロだ、よろしくなリージュ」


「ウツワです。よろしくリージュ」


リージュは信じられないような顔をして2人を見つめる。


「それじゃあ2人ともよろしくね」


「ああ」


「はい」


リージュの父が出て行くとドロとウツワは息を吐くと寝台の隅に腰を下ろす。


「案外あっさりと入れたね」


「そうだな、護衛をやるって言って屋敷の護衛全員ボコボコにしたら逆にお願いされたな」


「ちょっとやり過ぎたよね」


「そうでもないだろ?さて、昨日ぶりだなリージュ。調子はどうだ?」


リージュはぱちくりと目を瞬き遅れてコクコクと頷く。


「どうした?頷きだけじゃ良いかどうか分からないぞ?」


「大……丈夫です。赤い王子様」


リージュはそばにあった獅子の人形を抱き寄せるとその影に隠れる。


「リージュはその獅子の人形が好きなのか?」


リージュは獅子の人形から少し顔を出すと頷き、より一層ぎゅっと人形を抱きしめる。


「そうか、リージュはなんで俺達のこと王子様って呼ぶんだ?」


ドロが聞くとリージュは人形を離さずに寝台から降りる。寝台のすぐそばにはリージュ用の棚なのか小さな棚がありその棚から一冊の本を取り出すと人形と自分の間に挟み込み慎重に寝台へと戻ってくる。リージュ1人では寝台に登れないのでドロが軽く持ち上げ寝台に乗せる。


「ありがとう」


「いいえ、どういたしまして」


リージュは人形と自分の間に挟んだ絵本を持つとドロとウツワが見られるように寝台の上に置く。


「題名は……なになに……閉じこもり姫と月光王子」


「聞いたことないなあ」


ドロとウツワが絵本を見るために近寄るとリージュはちょっとずつ後ろに下がる。


「リージュ、大切な本なんだろ?開いて見せてくれ」


「どんなお話なのか楽しみだなあ」


リージュは頬を赤く染め絵本のそばに寄る。勿論人形は離さずに。


「人形を持ってちゃ本を開けないだろ、ほら隣に置いて」


ドロにそう言われリージュは渋々隣に人形を置く。


「じゃあ真ん中に本を置いてくれないか?そうすれば3人で見れるしな」


リージュが本を3人で見られるように3人の真ん中に置くとドロ、ウツワ、リージュで本を中心に三角形が出来上がった。


「誰が読む?」


ドロが悪い笑みを浮かべリージュを見つめる。ウツワも期待の視線をリージュに注ぐ。リージュは獅子の人形の後ろに隠れたいのを必死に堪えながら「私が……読む」と言った。


「いいね」


「やった」


2人は喜びリージュが本を読み聞かせるのを待つ。リージュは深呼吸をすると本を開き読み始めた。


本を開くと鮮やかな描写で城の豪奢な部屋が描かれていた。


 遠い遠いでもちょっとは近いかもしれない昔


 とても大きくて絢爛で豪奢なお城がありました


 そのお城にはメイドが沢山、執事も沢山、兵士は更に沢山、城に務めています。


 王様は優しく民のことを一番に考える王様でお妃様はその王様を支える器量のいいお妃様でした


 その王様とお妃様には1人だけ、それは美しい娘がおりました。


 髪は絹糸を束ねたような純白で風に揺れるようにウェーブがかかり


 お姫様が笑うとまるで花が咲いたかのように場が華やぐのでした


 しかしお姫様には結婚のお誘いが絶えずお姫様は一向に結婚相手を選びません


 困った王様は、ひらめきました


 そうだ盛大な会を開き娘が良いと思う相手を探そう


 王様は貧富を問わずに城に人を招きました


 我こそはと思うものは城に足を運び絶世の美女であるこの国の姫を射止めてみせよ、と


 その話はまたたく間に他の国にも届き城には溢れんばかりの人が押し寄せました


 老若男女問わず様々な人が城に押し入りお城の中はパニックです


 人々を止めようと兵士、メイド、執事の総出で抑えても抑えきれずもみくちゃにされてしまいます


 上の階から見ていたお姫様は呆れてしまい城の最上階にある部屋に閉じこもってしまいました


 王様が頼んでも出てきては来れません


 どうすれば出てくるかを聞くと私をこの扉以外から連れ出せる人がいたら出ます


 ということでした


 ですがお姫様が閉じこもっているのは城の最上階の部屋


 ベランダに出られるようにガラスでできた扉がありますが


 入ろうにもあまりの高さに誰も入ることができません


 そんな時一通のお手紙がお姫様の元に届きます


 お手紙の内容は


 月明かりの差し込む美しい夜中あなたを攫いにゆきます


 と書かれており


 お姫様はそのお手紙を読むとこのお手紙の主を待つことにしました


 待つこと数日


 夜空には美しい満月が昇り辺りを照らします


 お姫様はベランダを見つめて待ち続けました


 ですがいくら待ってもお手紙の主は一向に来ることはありません


 そうしているうちにいつの間にかお姫様は眠ってしまいました


 満月が空の頂上に昇った時


 お姫様の部屋に月明かりが入ってきてお姫様は目を覚まします


 お姫様が目を覚ますとベランダで月を眺める人影が部屋の中に影を落としていました


 お姫様はガラスの扉をそっと開け月を眺める人に声をかけようと


 近づきます


 月を眺めていた人は振り返らずに


 ああ、失礼


 あなたを攫いに来たのにあまりにも月が美しかったので見惚れていました


 そう月を眺めながらその人は言いました


 お姫様はその人の隣に立つと目の前には大きくて美しい満月が辺りを照らし


 ベランダから見える先の先まで見渡せます


 思わずお姫様はほうっと感嘆のため息をつきその景色に見入っていると


 ね?美しいでしょう


 と月を眺めていた人は隣に立つお姫様を見て笑いかけます


 その笑顔がとても素敵で


 お姫様はその人をすっかり気に入り恋をしてしまいました


 お手紙の通り攫ってくれますか?


 そうお姫様が聞くとその人は


 攫いたいのですがいいですか?


 あなたから部屋を出てしまっては約束と違うのでは?


 と悪戯っぽく笑いお姫様に問いかけます


 お姫様は笑顔でこう答えました


 わたしがあなたの月を眺める姿が素敵で自分から出てきたのです


 だから約束以上のことをあなたはしたのです


 月を眺めていた人はその返答に笑顔を浮かべると


 そうですか、では行きましょうか


 今宵はとても世界が綺麗だ


 さあ、しっかり掴まって


 月を眺めていた人は今はお姫様を攫う王子様


 王子様はお姫様を抱き寄せ月明かりに照らされながら屋根を飛び越え


 国を出ます


 その後お姫様の姿を見た人は誰1人としておりませんでした


 おしまい


リージュは読み終わり本を閉じると深く息を吐いた。ドロとウツワは沈黙し何も言わない。リージュは自分の読み方は大丈夫だったか、噛んでいなかったか、自分の好きなお話が2人には面白くなかったのかと2人の顔を交互に見てはおろおろと手を握ったり開いたり。その様子に気づいたウツワが申し訳無さそう笑い「とても面白かった」と言うとリージュはホッと胸を撫で下ろし笑う。


「挿絵も綺麗でお姫様と攫いに来た王子様が月が綺麗で眺めたっていうのも分かった気がしたよ」


リージュはコクコクと頷く。


「ね、ドロ?」


とウツワが同意を求めるように話しかけるとドロは俯いているだけで何も言わない。リージュはドロの様子を見て涙目になるのをウツワが気づくとドロの脇を肘で小突く。ドロははっとしたように辺りを見回すとしまったという顔をして申し訳無さそうに頭を掻いた。


「悪い。寝てた。いやでもちゃんと本の内容は聞いてたぞ!」


リージュが涙目になっているのを見て慌ててドロは言う。


「ドロ、流石にひどいな」


ウツワの目にも明らかに鋭さが混じりドロはうっと少し後ずさる。


「そうじゃないんだ」


「そうじゃないって?」


「あっとその……リージュの読み方が上手くてつい眠くなったんだ。子守歌みたいですごい聞いてて心地良かったんだよ」


ドロが照れたように言うとリージュはどういう顔をすればいいか分からず下を向いてしまう。


「それならそうと言えばいいいじゃないか。これでただ寝てただけなら覚悟してもらうとこだったよ」


ウツワはそう言ってふうっと息を吐いた。


「本当に悪かったよ。リージュ、許してくれるか?」


リージュはすぐさま隣に置いた獅子の人形に隠れコクコクと頷く。


「良かった。それにしてもリージュは良い声してるな。歌とか歌っても上手そうだ」


ドロが笑って言うとリージュは真っ赤になりパタッと人形と一緒に倒れた。


「えっ?リージュ?リージュ!」


「お医者さん呼んでくる!」


とドロが焦る横でウツワは部屋の外に飛び出すのだった。




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